Rare holiday 1


可憐と網代が連れて来られたのは、こじんまりした定食屋だった。
近年にしては逆に珍しいくらいちゃんと「定食」している定食屋で、味噌汁だけでもみぞれ汁、豚汁、赤だし、吸物と何種類も変えられたりという所に店側の気合いを感じる。

「久しぶりだわこういうご飯!何にしようかしら。」
「いっぱいあるねっ!迷っちゃうなあ。」
「色々取り合わせがある。迷いたいだけ迷うと良い。俺は焼き魚定食にするが。」

その焼き魚の魚の種類だけでも20はあっさり越えてくるから迷うのである。

「私肉じゃがにしようかなあ・・・」
「決めた!私、生麩の治部煮にするわ。」
「生麩の治部煮?」
「良いでしょ、冒険感があって♪柳君、此処は良く来るの?」
「ああ、近くに居る時は大体此処だな。」
「和食が好きなのっ?」
「和食がどうのと言うより、味の濃いものが然程好きではない。此処はホッとする味がするから行きつけているんだ。とはいえ、外食するなら贅沢を言っていられない場合も多いが。」
「ああ、外食って大体味濃いよねっ。」
「・・・因みに、それはプレイヤーとして?体を作ろう、みたいな事かしら?」
「いや、単なる好みだ。」

体を作ろう、みたいな事を言うのだったら、味付けの濃さが云々よりも重点的に肉食べた方が良いのである。
実際真田辺りからはちょくちょく、もっと肉食えと言われている。序でに幸村は自分よりもっと言われている。

「ふうん。流石に食事の管理までしてるわけじゃないのね?」
「食事の管理までしてるわけではない事は、そっちでも調べがついているんだろう?」
「えっ!あ、いや、あのっ!」
「気にしなくて良い。別に咎める気など無い。元よりお互い様だ、相手校の事を探っているのはな。」
「ご、ごめんなさいっ・・・」

相手校の分析なんて何処もやってて当然だし、別に悪い事でもずるい事でも何でもないけれど、スポーツというかこういう勝負事に慣れていない可憐は、どうしても何か言い様のない罪悪感みたいなものを感じてしまう。柳の言う通り、相手もやっている・・・というか、ともすれば相手の方がより細かく深く自分達を調べてるとしてもだ。

「ううん。やっぱり狡いわ。」
「狡い。俺がか。」
「柳君がっていうか、全体的に、ね。実はさっき偶々幸村君にも会ったんだけれど、貴方達2人共やり取りしてて空気に隙が無さ過ぎよ。」
「幸村は兎も角、そもそもデータという物は備えの為にあるものだからな。そうそう隙があってはデータテニスプレイヤーなど名乗れない。」

(そうかもしれないけど、柳君はやっぱり落ち着き過ぎじゃないかなっ?)

純粋に落ち着きという点だけを取ると幸村より柳に軍牌が上がる。どう受け答えしても見透かされてる感じがするというか、此方の発言に対して切り返しが鋭いのが幸村の方なら、そもそも切り返しをさせてくれないのが柳という感じだ。

そういう意味では、幸村の方がより攻撃的なのかもしれない。と、ふと思った所で、可憐は首を横に振った。

より攻撃的?あり得ない。

(私何考えてるんだろっ!あんなに優しそうな幸村君に向かって、攻撃的だなんて失礼だよねっ!)

「失礼します、焼き魚定食の方、治部煮定食の方、肉じゃが定食の方・・・お客様?」
「可憐ちゃん?」
「ごめんごめんっ!何でもないのっ!来たから食べようっ!」

いけない、又あらぬ事を考えて変な事してしまった・・・なんて思う可憐だが、実はあらぬ事どころかおおいに正解である。

「話は戻るけれど。食事の管理まではしてない事は分かったけれど、それはそれとして立海はもう少し休みを増やしても良いんじゃない?これは敵校としてじゃなく個人として言うけれど、無理は何事も続かないわよ?」
「気持ちは受け取ろう。だが、その発言は立海を勘違いしていると言わざるを得ないな。」
「?どういう事っ?」
「俺達は無理をしていると土台思ってなどいない、という事だ。これしきの事で無理だと思っているようじゃうちの部には居られない。」

わーお、と隣の網代が小声で呟いたのが聞こえた。可憐も同感である。
自分達もストイックさでは大概負けないと常日頃思っているが、やはり立海はこういう点では他の追随を許さない。

「それに、休みが無いわけではない。気分転換も重要な事だからな。」
「ああ、それは知ってるわ。幸村君が浴衣を買ってたから。」
「でも、お祭りも部活の後なんでしょっ?」
「十分だろう?」
「それを十分とするかどうかは議論の余地有りよ?」

(立海の人達って、頭の中にスイッチあるみたいな人が多いのかなあ・・・?)

オンとオフがこれ以上ないくらいはっきりしているというか、部活の時は部活の事しか考えないし、遊ぶ時は遊ぶ事しか考えない。
それが出来るからこういうスケジュールで問題無い、という結論が出るのだろう。
そりゃあそれが出来れば効率という意味でとても強力だけど、実際やるのはなかなか難しい。
まあそれが出来るから立海は強いのだろうが。

「それに1日オフの日もある。そういう日は皆遊ぶだろう。」
「そうなのっ?」
「そういう日も自主練すると思っていたか?」
「あっ、そうじゃなくてっ!空いてる日は勉強とかかなって、」
「勉強は空いてる日ではなく毎日するものだと思うが。」
「「・・・・・」」
「どうした?」

煎じて飲ませる様に爪の垢くれよ。
と、可憐も網代もちょっと本気で思ってしまった。

「まあ、毎日の自習が習慣づいていなかったとしても。」

柳の箸が器用に魚の骨を避けていく。

「オフの日を、課題を片付ける事に費やしたくない、という心理は誰しも働くだろう。そういう意味では日々の自習は嫌でもせねばならないだろうな。」
「あら!柳君にそういう気持ちが分かるとは意外ね。」
「俺の事をどう捉えているのかは知らないが、俺は別に世捨て人でも何でもない。人並みに友人や家族とレジャーを楽しみたいという気持ちはある。」
「・・・柳君って、何して遊ぶのっ?」

こう言っちゃなんだが、可憐的には柳の口から「楽しむ」とか「レジャー」とかいう単語が出てくる事そのものがもう、そぐわない感がある。幸村以上に何を楽しみとしているのか想像がつかない。

「それ、私も興味あるわ。お聞かせ願える?」
「構わないが、取り立てて特別な事は無い。例えばそうだな・・・図書館で思う存分本を読んで過ごしたり。」
「ご、ごめんっ!それは勉強枠にしてくれるかなっ!」
「それなら、新しい練習メニューや部活のローテーションの効率を考えたり、」
「それは部活枠でお願いするわ。」
「他に・・・そうだな、公民館や碁会所で囲碁や将棋を打ったり。興味深い新聞記事の読み直しをしたり、雅楽を鑑賞しに行ったり俳句を詠んだり・・・老人か、とでも問いたそうだな。」
「えっ!?あ、ごめんっ、ごめんっていうかあのっ!別にそんな事はっ!」
「気にしなくて良い。それなりに自覚はある。」
「うーん、思ってた以上に渋い趣味ねえ。」

柳の趣味という奴は、世間一般の中学生のそれからかなり大きく逸脱している。柳自身分かっているし、反応にしても色々もう慣れたものだ。
そういう意味では柳にとって真田と出会えた事は僥倖であった。全部とは言わないにしても、あの武将とは結構な確率で話が合うのだ。

「まあ、今年は先約が山とあるおかげであまり自分の趣味の所には行けなくなりそうだが。」
「そうなのっ?あっ、お祭りの事っ?」
「祭りもだが、他にも誘われているからな。海だの遊園地だのライブだの水族館だのお泊まり会だの。」
「わあ、楽しそう♪でも、消化出来るの?」
「どう努力しても全部は無理だ。」

柳がバッサリ言うと、それだけで本当に最大限努力しても無理なんだろうなという事が可憐と網代にも伺える。

「ただ、出来ないなりに消化に向けて動かねばならない。騒ぐのが1人居るからな。」
「もしかして紀伊梨ちゃんっ?」
「うふふっ!でもこういう事って、音頭をとってくれる人が居ると周りは助かっちゃうわよ、ね?」

「・・・そうだな。」

なんだかんだ効率良くリフレッシュ出来ているのは、ビードロズがあれこれ提案してくれているのが大きい。
柳もその事は分かっている。テニス部員でこそ無いが、友人として本当に助かっている。

「そういう意味では、お互い楽が出来ているな。」
「?」
「お前達の所は、跡部が五十嵐と同じ役を担っているだろう。音頭という意味で。」
「・・・・いえ、それは。」
「どうかなあ・・・」
「違うのか。そうとばかり思っていたが。」
「確かに、うちの部長様もそういうのは得意よ。得意なんだけど・・・」
「跡部君はちょっとこう、やり方が・・・」
「?」

海に行きたいだとか。
遊園地行きたいだとか、お泊り会だとか夏祭りだとかあれとかこれとか。
跡部が何かを思いついたり、若しくは跡部に何かを提案する時、そこには必ず介添えが必要になる。跡部1人に任せるなんて、危なくて出来ない。

うっかり誰かが「学校のプール放課後とかに解放してお!」と言ったばかりに「じゃ、折角だしちゃんとしたのを作るか。」なノリで敷地に鎮座する事になった全天候型レジャープールの存在は、その事を今なお2人にがっちり知らしめている。
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