My narrative
「はー・・・・」
やれやれとぐったり座る宍戸。
芥川は取りあえずという事でベッドに寝かされているが、まるでそこがいつもの定位置であるかのようにマッチしている。ベッドがこんなに似合う人間も珍しかろう。
「お疲れさん。」
「おう・・・って!そうだ、運んで終わりじゃねえんだよ手当てしてやんねえと。」
「芥川君っ?怪我してるのっ?」
「おう。体育だったんだけどよ、ジローの奴頭にボールぶつかってんのに起きやしねえんだ。放ってもおけねえし・・・」
「ほんとだ、赤くなっちゃってるっ!」
「宍戸も面倒見ええなあ。」
「そういうんじゃねえよ。」
しょうがないだろこれでも友達なんだし、とか言いながら氷嚢を探す宍戸は、自分では否定していてもやっぱり面倒見が良い。
「お前らは?ケガか?病気か?大丈夫なのかよ。」
「俺は大したことあらへんよ、技術で指に棘刺さっただけで。もう抜けたわ。」
「そっか。桐生は?」
「あ、私・・・私は、そのうっ・・・」
言いづらい。とても言いづらい、ある意味重病よりよほど口に出しづらい。
「ちょっと、気分悪くて・・・」
「おい、大丈夫かよ。今日も部活あんのによ。」
「・・・・・」
そう。
進むにせよ止まるにせよ、それは可憐の問題だ。
こうしてる間にも時間は待ってくれない。確実に流れていく。
今日も明日も明後日も、朝練もあるし放課後練習もある。
そうしている内にどんどん日が経って、そしていきつく先には全国大会。
ああ。
「せや可憐ちゃん。さっきの話の続きやけど。」
「さっきの話?」
「部活の事でな。」
「あの、私が話題振ったのっ。どうやったら勝てるのかなって・・・」
そう言うと、宍戸は一気に渋い顔になった。
可憐が悩んでいたことは、実は宍戸もそっくり同じことを悩んでいた。
このままじゃまた負ける。でもどうしたら勝てるのか自分じゃ思いつかない。
こんな方向性の決まらない状態で普段と同じ練習だけ重ねてたって、さして意味があるようには思えない。
かといって部活に出ないのは一番の悪手だから、一先ず朝練はちゃんと出たし放課後だって普通に行く気ではあったけど。
「・・・それは俺も聞かせてもらうぜ。」
「宍戸君・・・」
「いや、言われてもそない大層な話やあらへんで。」
「それでも良いんだよ。正直、激ダサだけど自分じゃどうしたら良いのか確信が持てねえんだ。」
(私と一緒だ・・・)
自分だけじゃなかったんだ。
ちょっと可憐は安堵した。
「まああくまで俺の考えと思うて聞いて欲しいんやけど、今からどうにか勝とう思うたら、突くポイントはダブルスの強化やろな。」
「ダブルス・・・」
「弱点があるとすればそこやわ。立海は地区予選では赤潟第三中にダブルス2つ落としてもうてるし。」
「赤潟は特別だよ・・・私でもすぐ名前を聞いたくらいのダブルス強豪校なのにっ。」
「でも、それしかねえんだな?」
「それしかないいうか、まあ・・・消去法やな。」
「消去法っ?」
「ダブルスがどうの言うより、シングルスで2勝上げられると思わへん方がええと思うわ。」
これもまた惨い現実である。
忍足の見立てとしては、現状あのシングルス3人に1勝でも上げられる部員が居るとしたら、それは跡部以外に居ない。
他はどう頑張っても無理だ。これからは兎も角、少なくとも今年の全国では。
そうなると出る結論としては、自然ダブルスをどうにかするという話になる。
「でもどうにかするって・・・」
「まあ具体的な方法は又おいおいやな。こないだの関東で今のダブルスペアは外されとるさかいに、代わりに誰を入れるかいう話になるわ。コンビネーション重視で行くか、単純な実力順で並べといて上から4人取るか。もしくは今S2に入っとる先輩をダブルスに移動させるいう手もあるな。それで、どうにかダブルスで2勝もぎとっといて。」
「・・・で、後は跡部をS3に入れるのか。」
「そうなるわ。」
「それって、しないって話じゃなかったのかよ?」
「あっ、そうだよねっ。確かオーダーで奇をてらうような真似はしないって、そんな事しても負けちゃうからって・・・」
そう。
それで正面から戦った結果が先日の決勝だ。
「まあさっきも言うたけど、あくまで俺の考えやさかい。俺が今の状況から勝とう思たらこうするわ、ていう話や。跡部と監督がどうするかは別の話やな。」
「そっか、それもそっかっ。そうだよね・・・」
「・・・・・・」
重い・・・というよりすっきりしない空気。
今言った案というのは忍足の言う通り、あくまで忍足の結論なのであってそれを聞いた人が納得がいくかどうかはまた別の話なのである。
結局のところ結論というやつは各々の中で納得いく形のものが必要で、現状それしかないから・・・なんて消極的な肯定では特に宍戸のようなタイプには、それが足かせとは言わないまでもブレーキになりがちだ。
逆に。
優秀なリーダーという奴は、ここで全員とは言わないまでも多数が納得いくような結論をスッと出せる、そういう資質がある者の事を言うのだろう。忍足はそう思う。
そういう意味では、忍足はさっさと跡部に何か言って欲しかった。
今日の朝練に居なかったのは結構残された部員達にとっては痛い展開になってしまった。
(決勝の日も、結局解散の時は次は勝てみたいな事しか言うてへんかったしなあ・・・)
放課後練でどうなるか。
無言は辞めて欲しいのだが。
「んん〜・・・」
無言は辞めてと思ったその時、かなり予想外の方向から声が聞こえてきた。
「起きたかよ。」
「にゅう・・・あれ?皆ど〜したの?っていうか、ここどこ?」
「保健室だよっ、芥川君っ!」
「体育でボールがぶつかったんやて。宍戸が運んでくれてんで。」
「覚えてないっ?」
「あ、そうなんだ?有難う〜。ん〜・・・何か夢の中で、凄い勢いでまんまる羊がおでこにぼーん!ってぶつかって来たのは覚えてるんだけど〜。けっこー痛かったな〜。」
「「「それ、それ。」」」
寝てる間に身に降りかかる現実の出来事はしばしば夢に影響を与えるというが、痛覚まであったのなら身の安全の為に起きた方が良いと思う。
「え?って事は、亮は置いといて忍足と桐生ちゃんは何か怪我とかしてるの?」
「いやまあ。大したケガやあらへんけど。」
「わ、私もそんな大した事じゃ・・・」
「そうなの?それなら良かったC!」
放課後も練習あるからさあ、なんて言って朗らかに笑う芥川は落ち込んでる気配0。
「・・・なあジロー。」
「ん?」
「ジローは何か考えあるか?」
「A?考えって何の考え?」
「何のって言われるとこう・・・なんつうか、これからだよ!こう、立海にどうやったら勝てるかとか、」
「A?まだわかんないな〜?」
「まだ?」
「だって俺立海と試合したことないもん!」
キング・オブ・マイペースな芥川は、学校単位で物を考えない。
自分が勝てるかどうか、それによってのみ試合を見ている。
「というか、芥川はそもそも見てもないやろ。」
「あ〜、うん。起きたら終わっちゃってたからさ〜。」
「見ろよ!」
「A〜?一応D2はちゃんと起きてたC!でもそんなわくわくしなかったな〜。」
「言ってる場合かよ・・・」
「あはは・・・でも、芥川君らしいよねっ。」
(ある意味では正解やったかも分からへんな。)
あのS3の試合を見たら、芥川でもいつもの調子を保てていたかは疑わしい。
「でも、今日の放課後練くらいは流石に起きてろよ!」
「あ!じゃ〜今のうちに寝ておかなきゃだC!丁度Eや、ベッドがあるしオヤスミ〜・・・」
「「「起きなさい!」」」
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