Well done 3


あまりにも自然に棗がそう言うので、一瞬皆が聞き流しそうになったが。

「ねえ、棗。」
「はいw」
「「大会」って冠が付くからには、ゲーム形式でやるんだね?」
「リーダーがそうせよと仰るのでw」
「はーい!」

ビシ!と紀伊梨が手を挙げる。

「だってさー、折角来たんだから皆の歌うの聞きたいじゃーん!」
「え?でも、そんな事しなくても揃ってるんだから聞けるんじゃ、」

「私面倒だから3周に1回くらいで良いんだけど。」
「わ、私も聞いてる方が楽しいのでそのくらいで・・・」

「「「「「「・・・・・」」」」」」
「いつも独壇場になっちゃうのよ、わかるでしょwだから今回はある程度強制力をということでねw」

勿論、これは紫希と千百合だけに限った話ではない。
これだけ人数が居るとカラオケが苦手な者はいとも容易く歌いたい者に順番を譲ってしまうので、放っておくと必ず偏りが出る。
でもそれは嫌だと紀伊梨が言うので、棗はPCでマクロを組んでゲームにしたのだ。

「因みに、勝ち負けはあるのですか?」
「そんな大層なもんはないwけど、一応罰ゲームと、ちゃんと出来たらちょっと良いこともあるよw」
「またか・・・」
「ふふっ。まあ、棗の考えることに飴と鞭はつきものだから。」
「そうなる確率は高いとは分かっていたが、おちおちカラオケも出来ないな。」
「面倒くせ。」

なんて、気楽なカラオケとなりそうにも無い事に苦笑気味の者が居る一方で、結構意気込んでいる者も居る。
そして意外なことに、真田はこっちのタイプなのだ。

「心してかからねばな!」
「妙に張り切っとるの。」
「こういった勝負の要素がある方が俺には好ましい。漫然と楽しむのは性に合わん。」
「真田ってマジで肩の力抜かねえよな。」
「ふふっ!真田君らしいですよね。」
「おっしゃ真田っち、頑張ろー!ごほーび何かなー♪」
「ご褒美貰えるとは限らんじゃろ。」
「いや、この場合限るんじゃねえ?」
「紀伊梨ちゃんがカラオケで罰ゲームは考えにくいです。」
「ああ、そうじゃったか。そういえばそうじゃな。」

今この場においておそらく紀伊梨ほどカラオケが得意な者も居るまい。
流行りの曲に敏感で古い曲にも知識が深く、歌唱力と肺活量はぴか一。
どんな曲をどんな風に歌えと言われても紀伊梨なら出来る。

「よーし、じゃあトップバッター誰に「はいはいはいはいはいはいはい!紀伊梨ちゃん歌う、紀伊梨ちゃん!」はいw」
「五十嵐座れ。心配しなくても誰も止めない。」

こういうのはじゃんけんで決めたりもするが、じゃんけんするまでもない。
此処まで歌いたいのならじゃあ譲るよ、と思うのが人の性。

「よしwじゃあスイッチオンw」
「何が出るかな♪何が出るかな♪」

「もう歌っとるの。」
「水を得た魚ですね。」

今まで色々遊んできたけれど、どんな遊びした時より輝いているなと全員が思う中、棗のノートPCはルーレットを回し終えた。


『一番自信のある曲』


「え!むつかしー!一番てなんだろ、一番?一番・・・・」
「まあそこまで細かく考えなくてもw自信のある曲でw」

「超スタンダードじゃん。」
「ふふ。まあ最初の最初だから、ジャブとしては良かったんじゃないかな?」
「自信のある曲・・・」
「自信・・・」
「黒崎も言ってるけど、そんな悩むなって。」

そもそも普段から自信というものに縁遠い紫希や桑原辺りは、このジャブがもう効いている。

「・・・うん、決めた!おーし、歌うぞー!ねーねー、偶には大声出していーいー?」
「「「駄目。」」」
「えー!」
「気の毒だけど、駄目だよ五十嵐。」
「開始早々人の鼓膜破る気かよ。」
「もー!わかったよー、じゃー半分くらいで歌うよー。」

「なあ。」
「はい?」
「彼奴やっぱ、声でけえの?」
「はい、とっても。」
「どれくらい?」
「ドリンクバーなんかで部屋から出ても、部屋を覚えてなくて良いくらいです。」
「外まで聞こえるから、って事?」
「はい。」

「わかってはいたが、相当だな。」
「お、おい、イヤマフか何か要るんじゃないのか?」
「耳栓を用意しておくべきだったか?」
「一度耳栓をした事もあったんですけどねw」
「それは止めたんか?」
「確かに歌声は普通程度になったんだけどw聞いてる側同士がお互い耳栓してるせいでやり取り出来ないんだよねwもう不便で不便でw」
「確かにそれは不便でしょうね。」

どちらにしろ誰かに不便があるが、これはもう紀伊梨とカラオケ行くなら仕方のないことである。
メロディーは声に負けないように大きめ、逆にマイクの音量は最弱にして、準備OK。


「フラーッシュ!かーがやくフリーダム♪掴みたいけどもうsold out♪」


「お、Superfly。」
「飛ばすねえw」
「喉慣らし無しでいきなりこれを入れられるんか。」

「すー・・?」
「アーティスト・・・ええと、バンド名のお名前です。Superfly。」
「難しいのか?俺もこの手の事には疎いが。」
「単純に大声が多い。」
「声を張る所が続くんです。」

歌手と一般人の大きな違いは、叫ばずに大声で歌えるかどうかである。
絶叫なんて誰でもその気になれば出来る。問題は、叫び声レベルの声でちゃんと歌を歌う事。


「Oh yeaaaaaaaaaaaaaah!Baby’s alright!Everybody’s alright!
Oh yeaaaaaaaaaaaaaah!気分上昇で勝負だ!
Oh yeaaaaaaaaaaaaaah!」



「こういう事か・・・」
「確かにこれは大変なのでしょうが、楽そうに歌っておいでですね。」
「五十嵐だからあっさり歌えるんだよ。」

この曲は息継ぎも難しい。
というか、変なところで息継ぎをすると割と普通にズレを感じるのがえげつないポイント。
かといって息を温存すると張った声は出せない。
自信を持って歌い上げるには純粋な肺活量が要求されるが、それにあっさり答えてしまえるのが紀伊梨だ。

「つーぎのステージへ、fade!fade in nooooooooooow!」

「めっちゃくちゃ気分良さそうだろい。」
「実際良い確率は99.2%だ。まあこれだけ歌えればな。」
「ご満悦でしょうね。」

「アップ!ダウン!人生をツーリング!興味本位も案外良いんじゃない!」

「というか・・・」
「嫌な予感がするんじゃが。」

と、仁王が呟くが早いか二度目のサビに突っ込む。
息を吸う。

「Oh yeaaaaaaaaaaaaaah!!Baby’s alright!!Everybody’s alright!!
Oh yeaaaaaaaaaaaaaah!!意地になったって良いんじゃない!!
Oh yeaaaaaaaaaaaaaah!!」


「うるせええええw普通にうるせえええw」
「おい!これのどこが抑えているのだ!」
「もう半分忘れてるんだろうね。」
「紫希、デンモク取って!」
「え!?ごめんなさい、何か言いましたか!?」
「デ・ン・モ・ク!!」
「いかんもうw会話がし辛いw」


「逆さまーになって!転がーって!!つまり肝心なのはユーモア!!
五感をふるいたてろ、Shine!On!!Move!!!On!!!!」



(見上げた肺活量だな。)
(しかし、さっきから歌詞が途切れんせいでこっちは会話もままならんぜよ。)
(もう良いや、デンモク後にしよ。)
(後で何のお話だったのか聞きませんと・・・)


「つーぎのステージへ、fade!fade in nooooooooooow!」


満足そうな顔で高らかに歌う紀伊梨に、皆が雑談を完全に放棄したのだった。



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