Well done 3
「っはー!歌ったー!皆、ありがとー!」
「相変わらず凄いね、五十嵐。」
「凄い・・・うん、確かに凄いよな・・・」
「凄えけどさ。」
「あり?どったの皆、耳抑えちゃって。折角紀伊梨ちゃんが歌ってるのにー!」
「声がでかすぎると言っとるんだ、たわけが!」
「えー!?抑えたよー!」
普段でかいでかいと思っている真田の怒声がちっちゃく聞こえる程度には今の歌声はでかかった。ただ幸村の予想通り、本人は歌えるのが気持ち良すぎて全然気づいてない。紀伊梨的には、ちゃーんと半分くらいの声量で歌ったつもりなのだ。
「千百合ちゃん、さっき何か仰ってませんでしたか?」
「え?ああ、デンモク見たくて。」
「ああ、デンモク・・・ごめんなさい、聞き取れなくて・・・」
「いや、私も話しかけても無駄だって気づくべきだったと思うし。」
「お前さん達、カラオケ来る度にいつもこうなんか。」
「いつもはもっと声が出てます。」
「今人数居るから、吸収されてちょっとマシになってはいるよ。」
「それはそれは。」
「大部屋を借りた方が良いのかもしれないな。」
「まあ取りあえず歌い切ったご褒美だwはいw親父が会社でしこたま貰ってきた余りだよw」
「あー、チロルチョコだー!」
「チョコって言われたら俄然腕が鳴るよな。」
「じゃあブンブン君次どうぞwはいどんw」
『最近歌えるようになった曲』
「えっ。」
「え?」
「どったの?」
最近歌えるようになった曲なんて、もうほぼ縛りとしてあってないようなものというか、困りようもないとほぼ全員が思った。まして丸井は。
だが予想に反して丸井はいっぺんに困ってしまった。
え。どうしよう、困る。
「・・・・・えー。」
「何か不都合な事でもおありですか、丸井君?」
「不都合っつうか、歌いたいと思わねえっつうか。」
「別にそんな厳密じゃなくて良いのよw最新とは言わないから、最近最近w」
「つったって・・・えー、これじゃなくて・・・これでもなくて・・・」
「何やら苦悩しているな。」
「ああ。丸井はこういう場面でさほど悩まない確率78.52%と踏んでいたのだが。」
「参謀のデータが外れるとは、今日は雪じゃな。」
「そんな悩むことある?」
「あ!ほら、女の人の歌はキーが高いとか!」
「いや、ブン太はそういうの気にしないっていうか、なんでも歌うぞ?」
「どうなさったんでしょうか・・・?」
えーと、えーと、なんて言いながらデンモクをピッピッと鳴らす丸井。
「丸井、候補はあるんだよね?」
「それはあるけど。」
「それは嫌なのかい?」
「今は結構嫌。」
「ねーブンブン、もしかしてアニソン?」
「いや、アニソンは歌うって。」
「なら18禁のゲームの歌かの。」
「大丈夫だよw別にきしめん歌っても誰も責めないよw」
「ちーがーう!」
「えー、じゃー何ー?」
「ベルが鳴る、とか。」
「・・・あ!」
「え、紫希分かるの。何、ベルが鳴るって。」
「あの・・・おかあさんといっしょ、です。」
多分皆、一度は見たことがあるあの有名なNHK教育番組。
おにいさんとおねえさんがコンビで出てくる例のあれ。
「ああ、そういえば丸井君は弟さんがおいででしたね。」
「そ。おかげで頭に入る曲って言ったら、パプリカとか妖怪体操とか勇気100%とかそんなんばっかり。別に良いんだけど、こういう時はな。」
「確かにカラオケじゃ気が進まないな・・・」
「逆に面白いじゃん、歌ってよw」
「だんご3兄弟とかどうじゃ。」
「ぜってえごめんだろい。」
「柳、おかあさんといっしょとはなんだ?」
「知らないのか。」
「えー、真田っちおかあさんといっしょ知らないのー!?」
「どういう人生を送ってたらお母さんといっしょを避けて通れるんだw」
「お前ドラクエも知らなかったじゃん、ちょっとは常識を学べよ。」
「やかましい!」
「まあまあ、ほら、もう始まりますから・・・」
さっき紀伊梨仕様になってしまったボリューム関連をさっさっと弄る。
キーは弄らなくてよし。
イントロは別に歌詞無しだけど、楽曲では声が入ってるからOhの声は出しておく。
「いつか僕らの♪上をスレスレに♪通り過ぎてったあの飛行機を♪」
「あ、米津玄師ー!」
「聞いたことがあるな・・・」
「お前でも聞いたことあるなら本当に売れてんのね。」
「おい、どういう意味だ!」
「まあ今時どこでも米津の曲聞くしなw」
「確かに、色々な場面で頻繁に聞きますね。」
「ラジオとかでもめーっちゃかかってるよねー!」
「残酷な♪運命が♪定まってるとして♪」
「つまらんの。」
「えっ?お、お上手じゃないですか?」
「上手すぎてつまらない、って言いたいんだろう?仁王は。」
「上手いと文句を言われるとはなかなかにやりにくいな。」
「そうは言っても、失敗を期待してるんならブン太にそれは無駄だぜ?カラオケは得意だからな。」
「尚更つまら、んっ、」
歌いながら丸めた紙ナプキンのゴミを指で飛ばして仁王にぶつけて、丸井は何事もなかったかのように余裕のサビに入る。
「もう、一度!遠くへ行け、遠くへ行けと♪ぼーくのなーかでだーれかが歌う♪」
「・・・器用なもんじゃの。」
「それ以前に仁王君。人の歌につまらない、などというものではありませんよ。」
「でもブンブンほんとーにじょーずだよねー。カラオケ慣れてますって感じですなあ!」
「実際慣れてるぜ?小学校の頃からよく誰かしらと遊びに行ってたし。」
「あー、ブンブンってそーいう感じー!」
(マジで真逆だよな・・・)
自分の隣で、丸井の歌うのを聞きながら熱心に手拍子する紫希は、カラオケについてくるのは好きでも歌うのは苦手だとさっきも聞いた。
こんなに色々反対なのに、異様に気が合っているようなのは何故なんだろうか。
最初はどっちかがどっちかに一方的に寄って行ってるのだと思っていたが、どうやらそれも違うようだし。
「かーなしまーないように笑える♪そんなヒーローになるための歌♪」
ヒーロー。
何気なく耳に入ったその単語は、桑原の心にすとっと着地した。
してしまったというべきか。
「桑原?どしたの、ぼーっとして。」
「え?ああ、いや。今ちょっと、考え事をというか、ブン太と春日はこんなに違うのに仲が良いよなって思って。」
「・・・・・・・まあ、紫希側の理由は分かるよ。」
「え、そうなのか?」
「自分に自信ないから、自分と反対のタイプは眩しいんでしょ。」
「ああ・・・」
「逆に私、丸井の考えてることがさっぱりわからないんだけど。聞いてもなんとなくとしか言わないしさ。」
「ああ、そう。それでさ。」
「?」
「今歌ってる曲じゃないけど、なんというか・・・ブン太はこう、春日と居ると自分がヒーローになったみたいな気分になれるんじゃないかと思って。」
さっき桑原は何気なく思ったのだが、紫希はなんというか丸井にとってヒロイックなのだろうと思う。
そこそこの頻度で困った事態に陥るし、かといって人に助けを求めないからよく一人でひっそりピンチになるし、助けたら惜しみない賛辞をくれるし。
かといって別に助けてもらって当然みたいな可愛げのない態度じゃないし、一人でもどうにかしようと頑張る態度は丸井的に決して嫌いじゃないだろうし、気負いなく有難う、助かった、丸井は凄いと言ってくれるし。
丸井の真意は桑原も聞いたことがない(というか誰が聞いても多分何となくとしか返っては来ないだろうけど)からそうだと決まったわけではないが、桑原はそうなんじゃないかなーと思ったのだった。
思っただけだったのに。
「私。」
「え?」
「丸井のそういう所マジで嫌い。」
「えっ!?」
「さらば、掲げろピースサイン♪転がってくストーリーを♪」
あいつのマイク唐突にハウリングしねーかなとか思われていることも知らずに、丸井は平然と歌っている。
何がピースサインだ、お前そんな風に楽そうにいつまでも構えていられると思うなよ。
なんて半ば脅しみたいな事を考えながら千百合はジュースを吸った。
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