Well done 3
「ふう。」
ああ疲れたと言いたげに、棗から貰ったチロルを指で弄る仁王。
「疲れたかい?」
「ああ、俺も出来るもんならこういう場では聞き役に回りたいもんじゃ。」
「折角居らしてるんですから、歌えば良いではないですか。」
「おwじゃあ次は柳生君歌うかw」
「私ですか?ええ、構いませんよ。」
「マジかwじゃあお題をドンw」
「最近ヘビロテして聞いてる曲」
「分かりました。」
サクサクデンモクを操作する柳生。その手つきは全く迷いがない。
「・・・柳、へびろて?とはなんだ?」
「heavy rotationの略だ。この場合、好んで何度も何度も繰り返している、くらいのニュアンスに受け取っておけばいい。」
「めっずらし、真田が五十嵐みてえな事言ってる。」
「う・・・普通の英語はともかく、和製英語を略したものなど知らん!」
「ヘビロテって和製英語なの?」
「半分はそうだね。」
「半分?」
「heavy rotationという言葉はちゃんと英語にあるから、そういう意味では和製英語ではないよ。ただ、本来はラジオが旬の曲をしょっちゅう流す事っていう意味だから、今みたいな自分のマイブーム的なニュアンスは本当は無いんだ。そういう意味では和製英語とも言えるかな。」
「へえ・・・初めて聞いたな。」
「え、桑原は・・・あ、そうか。ブラジルってポルトガル語か。」
「わせーえーご・・・?」
「和製英語です。ええと、英語なんですけど日本で作られたというか、日本でだけの意味合いの言葉というか、」
「そう改めて聞かれますと説明が難しいですね。ああ、ありまし・・・・ああ・・・」
「何wどったのw」
珍しく困った顔をする柳生。
「・・・黒崎君。」
「はいw」
「デュエット曲の場合はいかがいたしましょう?」
「ああそっちかw俺やろっか?」
「いえ、おそらく黒崎君には厳しいので・・・」
「じゃあ誰か頼めそうな人にどうぞwもしくは一人二役でも良いけどw」
「いえ、それも少し障りが。」
柳生の頭の中では、今その出来のいい脳みそが回転している。
どうしよう。
マジでどうしよう。
でももうしょうがないな。
「・・・では春日さん、お願いできますか。」
「えっ!?」
え、嘘。なんで。
まさかお鉢が回ってくると思っていなかった紫希は、緊張のボルテージが一気に上がる。
「わ、私・・・ですか・・・」
「すみません、他に頼めそうにないんです。女性と男性のデュエットなので、男子には歌えませんし。苦手なのは分かっていますので心苦しいのですが。」
「ど、どれですか・・・」
「有名ですよ。これです。」
「ああ・・・・」
「聞いたことは?」
「あります、何度か・・・で、でも、上手く歌えるかどうか、」
「デュエットのお題は後で出そうかと思ったのにwこんなところでw」
「考えていたのか。」
「だって面白そうじゃんw」
「ふふっ、分からなくもないけどね。」
「あーあ、紫希かわいそ。」
「ならば代わってやったらどうだ。」
「嫌。それ以前に無理。紫希で、って言ってるんだから紫希しか歌えなさそうなんでしょ。」
(黒崎を指名すると幸村が怖いから、っていう理由の気もするけどな・・・)
「ねーねー!紫希ぴょん嫌なら紀伊梨ちゃん代わろっかー?」
「いえ、おそらく五十嵐さんはご存じないと思います。有名とはいえ、五十嵐さんが好むタイプの曲ではありませんから。」
「そーお?」
じゃあしょうがないな、とか思いながら紀伊梨が着席すると、隣人はなんだかぼーっと前方を見ている。
「ブンブン?」
「・・・・」
「おーい、ブンブン!」
「・・・え?あ、わり。何?」
「どったのー?ぼーっとしてたお!」
「いや。ちょっと良いなと思って。」
「何が?」
「ん。」
ぴ。と指さす先には、デンモクを見ながら必死に歌詞確認する紫希と説明を挟む柳生。
「?ブンブンさっき歌ったっしょ?」
「じゃ、なくて。折角大人数で来てるんだし、俺も誰かと一緒が良かったなって思ったんだよ。」
「あ!じゃー紀伊梨ちゃんと一緒に歌う?」
「いーや。お前うるせえから自分の声聞こえねえって。」
「えー、聞こえるよー!多分。」
「多分じゃねえかよい。」
そんな紀伊梨と丸井の会話を縫って、ピピっとデンモクの音が鳴る。
流れ出すイントロ。
もうこの時点で、わかる人には秒でわかる。
これはあれやん、な顔を何人かがする中、入りだしは紫希の女性パートから。
「・・・In sleep he sang to me・・・♪
In dreams he came・・・♪」
「あー!知ってるこれ、何だっけ!あんまちゃんと聞いたことないけど!」
「私も出てこない。なんだっけこれ。」
「オペラ座の怪人だよwやべえ、まさかカラオケでこれを聞くことになるなんてw」
「すげえ柳生らしいな・・・何か・・・」
「いつにもまして春日が緊張しとるようじゃが。」
「色々考えてるんだろうね。とちると迷惑がかかるとか、クリスティーヌ役だからもっと声を張らないととか。」
「クリスティーヌ役?とはどういう意味だ?」
「元々この曲は、ガストン・ルルー作のオペラ座の怪人という小説を原作にした舞台の劇中曲だ。この曲は作中、女性パートは女優志望のヒロインクリスティーヌが。男性パートは怪人であるファントムがそれぞれ歌っている、という設定で流れるものだ。」
「へえ。有名?」
「まあ有名といえば有名だな。とはいえ新しい曲というわけでもないから、洋楽の中では、映画曲の中では、という枕詞が付くが。」
「ほう。」
「まあ、だからこそ春日なら知ってると踏まれて指名が入ったのだろう。そんなに気にするな。」
「「何が?」」
「・・・いや、良い。」
そうだった。丸井と真田はこの辺に疎いの2トップなのだった。
いやしかし、真田はともかく丸井は問題あるだろ。お前、普段他人のことには結構察しがいいくせして何故こんな時ばかり。
とか柳が思っていたら、曲はいつの間にか柳生パートに切り替わろうとしていた。
「Sing once again with meー♪
our strange duetー♪」
「おおお!?やーぎゅすごいぞー!上手ー!」
「声が伸びるwぱねえw」
「へえ、凄いね。なんというか、堂々としてるというか。」
「なんというか、本物っぽいよな。舞台らしいっていうか・・・」
「ああ分かるかも。本物の怪人っていうか怪人役ってこういう風に歌うんじゃない。」
「男らしい声だな。流石柳生だ。」
「といおうか、データに寄ると幸村と柳生はもう変声が終わっているんだ。」
「え、マジ?」
「低くて太い声が出せるんはそのせいか。」
「100%そのおかげとは言わないが、それが大きいと言えるだろう。」
変声前の男子の声。所謂ボーイソプラノをもう出せない柳生の喉は、代わりに現時点でただ二人オクターブ低い声を伸びやかに出せる。
ソプラノと重なると、それはより一層顕著。
「「the Phantom of the Opera is there♪
inside your(my) mind♪」」
「一緒に歌う所きれー!気持ちいいー!すごーい!」
「うん。マジで凄い・・・あんたら何?どしたの?」
「まあまあ。見ないふりをしておいてあげてよ。」
「?」
なんとなーく、自分の喉に手が行く変声前の男子勢。
どうでも良いといえばどうでも良いんだけど、なんとなく「自分はまだ」という小さい事がちょっと気になるお年頃。
まあもう自分には関係ない話ですけどね、と言わんばかりに柳生の声が部屋中に響き渡る。
「In all your fantasies
you always knew
that man and mystery♪」
4/12
[*prev] [next#]
[page select]
[しおり一覧]
1年1学期編Topへ
1年夏休み編Topへ
-