Well done 3
「お疲れ。」
「ただいま。ねえ千百合、具合でも悪いかな?」
シートの隣に戻ってきた幸村が徐に聞いてくる。
「え、何。」
「いや、歌っている時に心ここにあらずみたいな顔をしてたから。」
「ああ・・・いや。あれはちょっと、思い出した事があって。」
「?スピッツで思い出すこと・・・」
「いやスピッツは関係ないんだけど、」
「妹、次辺り歌ったらw」
会話を遮るように棗の声が割って入ってくる。
「えー。」
「えーじゃないwほらお題出すからw」
『Mステに出たことある曲』
これはちょっと意地悪問題であった。
Mステにて確認済みでしかも本人が気に入ってる曲となるとかなり限られる。
だが、今回はラッキー。
「やった、楽出来んじゃん。」
「千百合っちMステ見てたっけー?」
「偶に。」
「Mステ・・・?」
「テレビ番組です。正式にはミュージックステーションと言って、略してMステです。」
「ほう。有名なのか?」
「ああ、音楽番組としてはかなり有名だ。このテレビ離れが加速していると言われているご時世でも、未だに視聴率は安定している。」
「ミュージックステーションに出る、というのがアーティストの間ではステータスになるくらいだからね。」
「真田はMステ知らないのか・・・」
「桑原君はご存じで?」
「ああ、俺は割と引っ越してきてすぐ知ったな。ブン太がちょくちょく見てたから。」
「真田の奴は、ある意味で箱入りじゃな。」
周りの会話を聞きながら千百合の入れた曲が始まる。
前奏が前奏ゆえに、入りだしが掴みづらいのが唯一の欠点だ。
「・・・空飛ぶ、羽と引き換えに♪」
大概のことをそつなく熟す千百合は、カラオケもそつ無く熟す。
淡々と且つ正確に音を拾う歌い方は、適当が好きな千百合の性格と正反対にかなりきっちり聞こえる。
「あー!グランドエスケープだー!紀伊梨ちゃんもこれ好きー!」
「おや、意外ですね。」
「?どういう事だ?」
「この曲は、所謂アニメ映画音楽でして。妹に連れられて見に行きましたが、面白くなかったとは言いませんが黒崎さんが好むタイプの映画だとはあまり・・・」
「あー!そーだよね、千百合っちってむつかしー映画嫌いだよねー。」
「・・・夢を重ねるのは罪か♪」
人のことアホみたいに言うんじゃない、と思いつつ、歌ってる途中なので何も言えず。
それから、紀伊梨は何も嘘を言っているわけじゃない。
「ほう、難しい映画は嫌いなんか。寧ろ好きそうだと思っとったんじゃが。」
「千百合ちゃん、考えさせられる映画はそんなにお好きじゃないんです。考察とか解説が必要な映画や、メリーバッドエンドや・・・疲れるらしいです。」
「確かに、見るのがしんどい映画ってあるな・・・」
「そこまで疲れる映画なのか?姉に今誘われているんだが、CM等見る限り左程複雑な話ではないと踏んでいるのだが。」
「見終わった後人によってはモヤるって聞くしw妹はもう、それだけで見る気なくしちゃうからw」
「逆に黒崎って何見んの?」
「千百合はシンプルなのが好きだよ。パニック系ホラーとか、ディズニー映画とか。」
「へー!何か女子っぽいじゃん、意外だろい。」
「逆にジブリは苦手かな。」
「ああ、そっか。ジブリって結構テーマ難しかったりするよな。」
「太陽の死角に立ち、僕らこの星を出よう♪」
でも、映画好みじゃないのになんで歌ってるんだろう。
あれかな、曲は好きとかアーティストが好きとかそういう奴かな、とか皆そういう目で歌う千百合を見ている。
いや、幼馴染+兄だけ選曲理由が分かってる顔をしているか。
別にグランドエスケープ嫌いじゃないけど、そんな熱烈に大好きというわけでもない。
じゃあ何故歌ってるのか。
「僕らの♪声が言う♪恋が言う・・・行けと言う♪」
答えは単純。
短いから。
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