100話記念企画 No.011

「「本当に有難う!」」

先輩が揃って頭を下げてくるというなかなかな図に、可憐は少々たじろいだ。

「い、いえっ!別にそこまでっ!ねっ、忍足君っ!」
「まあ、所要時間は左程かからんかったんはほんまですから。」
「いや!俺達はあそこ行けなかったから!」
「良かった、戻ってきて・・・!本当に有難う!いつの間にか桐生さんも参加してくれてたん・・・桐生さん?」
「えっ?」
「おでこ、どうしたの?赤くなってるけど・・・朝練の時はそんなのなかったよね?」
「えっ!いや、あのっ!ちょっと、」
「中で転んでしもうて。」
「あああ・・・」

先輩が気にすると思うから暈したのに、あっさりばらす忍足。
もっとも、忍足側からするとこういう事はちゃんと言っておかないと後後損するのは可憐なので。

「ええっ!?大丈夫なの、桐生さん!」
「だっ、大丈夫ですっ!ちょっと打っただけですからっ!」
「いやでもごめんな、俺が行けないばっかりに・・・」
「そうよ、そもそも西君が落とすからいけないんじゃない!」
「な、だって!」
「あの。」
「「え?」」
「喧嘩は好きにして貰うたらええんですけど、俺らはちょっともうええですか?一応保健室に行きたいんで。」
「あ、ああ!」
「良いよ良いよ!そうだよね、引き留めてごめん!」
「じゃあこれで。行こか、可憐ちゃん。」
「えっ、いや良いよっ!忍足君、私大丈夫だからっ!」
「駄目よ!」

そんな大げさな、こんなの自分にはいつもの事なのにと思う可憐だが、ここで白嶋の援護が入った。

「桐生さん、いつも言ってるでしょ?大丈夫と思ったケガが後に響くこともあるの、行っておいて損はないんだから行ってきなさい。」
「で、でもっ!それは部員の話で、」
「マネジも部員!ほら、行って。」
「えーでも、そこまで・・・」
「西君は黙ってて!」
「は、はいっ!」
「大体西君は危機管理能力が足りないの!この間だって足を捻りそうになったのに大丈夫とか自己判断してーーーー」
「行こか。」
「う、うん・・・」

途中から可憐の事を半分忘れて西に説教モードに入る白嶋に、可憐と忍足はそっとその場を離れた。保健室云々抜きにして、人が人に説教している場をしげしげ見たいとも思わないし。

「ふう・・・」
「さて、ほんなら行こか。」
「本当に行くのっ?」
「行くで。」
「別に大丈夫なのにっ。」
「冷やすくらいはしてもええと思うで。責任もあるし。」
「責任っ?」
「そもそも俺が巻き込んでもうたさかい。」
「ええっ!?」

そんな風に思われていたなんてちっとも思っていなかった可憐はびっくりである。そもそも、可憐的には自分からついて行って自分から手伝ったのであるからして。

「そんな、私が手伝うって言い出したのにっ!」
「せやけど、一人でええから言うて追い返さへんかったのは俺のせいやろ。暗いの危ないて分かってたのにから。」
「でも、あんなところ一人で探すのなんて大変だよっ!」
「大変やから手伝うて貰うてたんとちゃうで。」
「えっ?」
「そもそもあんな状態やったら見つからへんのんが普通やねんから、そこそこ探したら引き上げてもええやろて最初から思うてたし。」
「じゃあなんでっ?」
「一人であんなとこ居ったら気が滅入るやん。」
「・・・え?」
「せやろ?」
「・・・気が滅入るからっ?」
「そう。」

忍足は端から手伝いを要請するほど本腰入れて探す気なんてなかった。
そりゃあ見つかれば良いなとは思っていたけれど、本当に見つける気ならもう少し待って電球が取り換えられてからちゃんと探した方が確実なのだから。

だから忍足が可憐の申し出を受けたのは、気が滅入るから。それがメインの理由。
その結果果たして目論見通り気は滅入らなかったわけだが、代わりに怪我をさせてしまった。

「堪忍な、どうでもええ理由で引き留めたばっかりに。」
「そんなのっ!私全然・・・!」

その時、可憐に心にふとある思い付きが過った。

「・・・ねえ忍足君っ!」
「?」
「私に責任を感じてるんだったら、謝らなくて良いからこの前のひな祭りのお話の続きが聞きたいですっ!」
「・・・!」

なんと、そうきたか。
咄嗟に顔に出なかった辺り流石の忍足といったところだが、顔に出ないだけで内心は動揺している。

「・・・そんなに聞きたいん?」
「だ、だって聞きかけちゃったんだもんっ!それに、向日君は知ってるんだから私も良いでしょ、なんて・・・駄目っ?」

(こら珍しい話のもってき方やな。)

こういう交換条件みたいな、ある意味足元を見ているとも言える話の進め方は可憐は滅多にしない。これをするのはどっちかというと網代の方。
逆に言うと、そこまで気になっているのだとも取れる。

「・・・・・・」
「お願いっ!」

忍足の困った所は、さっきの手伝いのお礼にと言われたことであった。
もう貸しを作った状態なのだ。

それに、ダメかとここまで言い募られるとそこまで隠すような事でも無いといえば無い・・・みたいな、諦める理由を探すような思考が出てきてしまう。

「・・・誰にも言うたらあかんで。」
「はいっ!」
「・・・5才の時にな。」
「うんうんっ!」
「従兄弟一家が大阪から遊びに来てん。ひな祭りの当日やなかったけど、ひな祭り近うて、うちの姉貴のひな祭りのお祝いも兼ねて騒ごういう話になってな。」
「へえ・・・」

忍足は思い出したくもないのに話すにつれて嫌でも色々思い出す。
あの3月のうららかな日差し。
もう最近は日中暑いな、なんて家族で言い合って騒いだ。

はしゃぐ姉や従兄弟や家族を見て、楽しそうやなあ、まあ女の子の行事やさかいに。とか思って、優しい気持であると同時にどこか他人事感を以て見ていたのだ。
直前までは。

「それでそん時、おばさんが姉貴にお雛様の服持って来てん。」
「えっ!?」
「言うてほんまもんの着物やのうて着物風の普通の服やったけど、姉貴はそらもうはしゃいで。まあ無理もないいうか気持ちはわかるねんけど。」
「そうだよねっ、お雛様になれるんだもん嬉しいよねっ。」

にっこにこで赤い服に袖を通させてもらう恵里奈。
髪のセットまで軽めにして、しずしずと座ってそれはもう嬉しそうだった。

だが、ふいと恵里奈が言った一言に忍足は凍り付く事になる。


『侑ちゃんと謙ちゃんも着てみいな!』


はあ?絶対嫌だよ。
と言ったところで忍足は一人だった。

「そ、そんなに嫌だったのっ?」
「嫌やった。そんなんするくらいやったら予約してあるひな祭り用のケーキも要らへんかったし、クリスマスに貰うた絵本も返すわていうくらいには嫌やったわ。」
「そこまでなんだ・・・」
「まあでも多勢に無勢いうか、親もやったりいなケチやねんからとか、ちょっと服着て写真取るだけやからとか言うし、まあ総攻撃に遭うて結局折れてんけど。」
「いっ、従兄弟さんはっ!?」
「あいつは最初から乗り気やったわ。絶対お前より可愛いお雛様になったるから見とれ、とか言うてたし。」

幼少のころから博識だった忍足は、ひな祭りの意味する所が要はお雛様とお内裏様の結婚式であることを知っていた。
だから何が悲しくて女装して花嫁役を演じねばならないのかと自問自答してしまい、嫌で嫌で堪らなかった。もうこんなの、ウエディングドレス着てるのと意味合い的には一緒だぞと思っていた。
写真撮るだけだからとか言うけれど、写真とか撮ったら後後残るんだから余計に嫌な気持に拍車をかけられていた事を当時大人達は誰も思いもせず。
挙句の果てに、一向に笑わない忍足に謙也なんか遠慮なく俺の勝ちやな!とかわけのわからない勝利宣言を重ねてくるし。
別にそんなん勝ちたくもないわという気持ちと、同じくらいどんな事であっても此奴に勝ちを譲るのは我慢ならんという気持ちとで鬩ぎあいしていたのも今は昔。

「着せられて、座らされて、早よう撮って終わらせてくれ思うてたのに笑って、とか言われるしやな。どないして笑え言うねん。」

(そこまで嫌がる事かなあ・・・)

まあ、こういうのは周りがどう思うかではなくて本人がどう思うかである。
可憐は大したことじゃないと感じたとしても、忍足にとって黒歴史だというのならそれはれっきとした黒歴史なのだ。

「もうここまで話したら其の内ばれるやろし、言うてまうけど。」
「?」
「岳人は写真持ってんで。」
「えっ!?そうなのっ!?」
「家来たとき、姉貴が勝手にアルバム見せよってん。」

あのまま喋らせていたら、写真を見せるところまでセットで話が回っていくのは避けられない。だから必死こいて止めたのだが、まさかこんな成り行きで話すことになろうとは。

「そうなんだ・・・」
「せやから可憐ちゃん、悪いねんけどこの話は誰かに言わんといてな。」
「あっ、うんっ!勿論っ!」
「茉奈花ちゃんにもやで。」
「・・・が、頑張るっ!」
「お願いするわ。はあ・・・」

(そんなに嫌なんだなあ・・・)

「・・・あの、何かいい思い出って無いのっ?」
「・・・あらへんな。」
「あ、そ、そうなんだ・・・」
「俺も良い思い出は欲しいねんけど、どうしてもこの話のイメージが強うて楽しむ気になられへんいうか。」
「そうなんだっ。」

それって何かちょっと勿体ない感じがするというか。
確かに女の子の行事ではあるんだけど、良い思い出がないなんて寂しいじゃない。

「・・・うん、良しっ!」
「?」
「忍足君、今年のひな祭りは期待しててっ!」
「・・・何を?」
「何かこう・・・ま、まだ思いつかないけどっ!でも今年のひな祭りは何か皆で遊ぶとかして、楽しい思い出にしようよっ!ねっ!嫌な事を塗り替えるには、やっぱり楽しい思い出が必要だと思うんだっ!」

忍足はちょっと目を見開いた。

そこまでしてくれなくても良い・・・と思いつつ、結局毎年さっきの話以上のインパクトのあるひな祭りを過ごせないままここまで来てしまったのも事実だ。

そうは言っても男の自分が派手にひな祭りを楽しむって、何をどうしたら良いのかもよく分からず半分以上諦めの境地まできていたのだが。

「・・・・」
「忍足君っ?」
「・・・・」
「あの・・・嫌かなっ?」
「ああ、ちゃうで。意外といけるかもしれへんと思うて。」
「えっ?」

確かに、今なら出来るかもしれない。
派手なひな祭り。

だって今の日々には親友も居るし王様も居るし。

それにこうして、親切な女の子も居てくれるし。

「ほんならそうしよか。」
「うんっ!皆で楽しいひな祭りにしようねっ!」

2人を照らす日差しは段々きつさを増してきていて、これからが夏本番。
次のひな祭りはもっともっと、ずーっと向こうのことにあるが。

ああ。
なんだか久しぶりに、三月が楽しみだ。





100話記念くじびき企画
お題:No.011 ひな祭り
くじ結果:27秒→7:主人公4×忍足

ご参加ありがとうございました!

6/6


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