100話記念企画 No.011


「それで、何を探すのっ?」
「ストラップやて。」
「”やて”?」
「ああ、そうやねん。言い忘れとったけど、俺の落とし物とちゃうさかいに。」
「そうなのっ!?」

お互いにスマホを装備して、辺りをきょろきょろ照らし始める可憐と忍足。

そうだった、忍足は可憐に事の最初から教えないといけない。

「じゃあ誰のっ?」
「2年のマネジの。ええ・・・白嶋て言うとったと思うわ。」
「あっ、白嶋先輩っ!」
「そや。その白嶋先輩の筆箱に付けてたストラップが・・・」
「落ちちゃったのっ?」
「正確に言うと落としたんは部員の方の西先輩やな。白嶋先輩に筆箱借りて作業して、戻ってきた時にはチャックの部分が壊れててチャックごとどっか行ってたんやて。」
「そ、そうなんだ・・・」

気づかないのかそれでと思わなくもないが、人間目の前の事に集中していると多少のことは見逃してしまう。
まして筆箱のチャックが壊れるなんて、普通は無いので余計に気づかない。そういうもんだということを、生来ドジな可憐はよーく知っている。

「でもそのストラップいうんが白嶋先輩がお祖母さんと旅行行った時の思い出の品で、諦められへんらしいねん。」
「そうなんだっ。でも、先輩方はどうして自分達で来ないのっ?」
「2人とも暗い所怖いからやて。」
「え。」
「此処の片づけに参加した西先輩なんか、ほんまは嫌で嫌で堪らへんかったらしいわ。その時は他の生徒もそこそこ居ったからなんとかいけたらしいけど、一人ではよう戻らへんて。」
「そ、そうなんだ・・・気持ちは分かる、かなっ?うん、分かるかな、うん・・・・」

それでも、苦手な物はしょうがないとはいえその成り行きなら自分で来いやと思わんでもない。

「可憐ちゃんは平気なん?」
「私、ライトがあったら平気だよっ!それに一人じゃないし、入口の方はちょっと明るいしっ!それに、今は昼間だしっ!」
「ほんなら良かったわ。無理せんと。」
「うんっ!」

可憐の言ったことはやせ我慢ではなく本当のこと。
割合平気な顔をして、床を重点的に探し出す可憐はふいと思った。

「忍足君は平気なのっ?」
「俺?」
「暗いのとかっ!」
「そうやな、得意とか大好きとは言わへんけどまあこの程度やったら。」
「そうなんだっ。」

ということは、恥ずかしい(と推測される)ひな祭りエピソードはホラー系ではなさそうだ。

(まあ、忍足君よりも私の方が怖がりではあるよね多分っ。)

それこそ、もしこんな暗がりでひな人形とか見つけたら驚いて叫ぶくらいの事はすると思う。でも忍足はしなさそうだし、それくらいの差はありそう。

(そういえば、恥ずかしいエピソードって具体的にはなんだろうっ?忍足君って恥をかいたりする事あるのかなっ?)

じりじりと床を探しつつ考える可憐。

どうも「やらかす忍足」という響きがいまいち馴染みがないというかしっくりこないというか解せないというか。
恥ずかしいエピソードとか網代が言っていたが、ひな祭り云々以前にそんなものあるんだろうか。

「ねえ忍足君っ!」
「ん?」
「忍足君の苦手なものってなあにっ?」
「・・・まあそうやな、納豆は食べられへんな。」
「あ、そうなんだっ。」

いやでも、これは普通である。
可憐だって別に納豆食べられるけど、納豆なんて嫌いな人滅多に居ないとか、好きな人の方が圧倒的に多いに決まってるとは流石に言えない。
納豆が嫌いだからと言って、必死になって隠すほど恥ずかしいとは思えない。

「他にはっ?」
「他・・・ああ、虫もあかんわ。特に毛虫とか、やたら太った虫とか。」
「そ、それは私も嫌いかなっ!」

これも恥に繋がるとはいまいち思えない。
狼狽える事はあるかもしれないが、この位のことに狼狽えるなんてバッカでー、なんて思える程虫が得意な人の方が多いとは思えないし。

それに、虫が苦手と言っても忍足の場合筋金入りというほどでもないのだ。
ふとした拍子にジャージに蟻を見つけても平気で指で弾いてるし、蚊は自分で引っぱたいてるし、暗い時に練習していて蛾が突進してきてもサッと払いのけているし。(思えば嫌そうな顔はしていたが。)

(っていうか、そもそも教えてって言って教えて貰える時点でちょっと違うのかなっ?隠そうとしてるんなら教えて貰えないよねっ?)

「で?」
「えっ?」
「いきなりどないしたん?」
「えっ!う、ううん何でもっ!」
「ほんまに?」
「ほ、本当だよっ!」
「何や弱点を探られてるような気配がするんやけど。」
「き、気のせい気のせいっ!」

(あ、危ない危ないっ!ただでさえ隠されてるのに、これ以上警戒されちゃったら本当に聞けなくなっちゃうよっ!)

深追いは止めて探すのに集中しよう・・・と思った矢先に頭が何かにぶつかった。
何かを乗せてある机が目の前にあったのに、暗闇で距離感が狂ってそれに追突したのだ。

「いたあっ!」
「可憐ちゃん!?」
「だ、大丈夫っ!ちょっとぶつかっただ、け・・・!?」

取り落としたスマホが闇に浮かび上がらせたのは、顔。
白塗りで、黒髪で、こちらを見てうっそりと微笑んでいるようなーーー

「ひゃああああっ!」
「可憐ちゃん!どないしたん、可憐茶ちゃんーーーー」
「お、忍足君、そこにっ!そこに、そこに、」
「え?・・・ああ。可憐ちゃん、お雛様や。」
「えっ?」
「ほら、ひな人形やで。タイムリーやな、こないだひな祭りの話したとこやったさかいに。」

そう言われて忍足にしがみつきながら振り返ると、そこにはかなり年代物と思われる雛人形が大人しく鎮座していた。
白塗りに黒髪にほほ笑みって、当たり前である。お雛様なんだから。

「あ、ああ、お人形さんだったんだ・・・」
「ここは郷土資料置き場やから、まああってもおかしないな。」
「そうだったんだ・・・あっ!ご、ごめんねっ!私ったらいつまでもしがみついてっ!」
「いや、そんなん別にええねんけ、どーーー可憐ちゃん。」
「へ?」

一度離そうとした体をぐい、と引き戻されて、可憐は目を白黒させてしまう。

「えっ、えっ!?あの、あの、」
「下。」
「へ、」
「足元。踏みそうやったで。」
「えっ!?何っ!?何か落ちてた・・・」

忍足が照らしてくれた可憐の右足近くには、可愛らしい赤い組紐のストラップが、金具と一緒にコロンと落ちていた。

「これ・・・」
「これやな。チャックも付いてるし。」
「良かった、見つかってっ!危うく踏んじゃうところだったよっ。」
「もしかしたらお雛さんが「そこに落ちてる」て教えてくれたんかもしれへんな。」
「・・・そうだねっ!」

怖がっちゃってごめんなさい、と内心で謝ると、心なしか仲睦まじいお内裏様とお雛様がにこ、と笑ってくれた気がした。


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