100話記念企画 No.068
今日も今日とて紀伊梨は昼になると音楽室へ。
ここ最近はすっかり習慣だ。
「やーぎゅ、おっはー♪」
今日はちょっと遅れたから、多分もう先に来ているはず。
そう思いながら音楽室を開けると、やっぱり柳生は先に来ていた。
いつも通り、二人分の譜面台を並べてくれていた。
「おはようという時間ではありませんが、こんにちは五十嵐さん。」
「えー?そんな事ないお、だって紀伊梨ちゃんさっきまで寝・・・あ!」
「聞こえましたよ。」
「あはは!えへへ・・・オフレコでオナシャス!」
「ダメです、幸村君に言っておきます。」
「あー!もー、お願い!そこをなんとかー!」
「なりませんよ。」
「おーのー・・・・」
これから受ける説教を思って嘆きながら、もうほぼ要らない楽譜を出していつものように譜面台にセット。
「よしゃ!じゃー今日も、」
「その前にですね、五十嵐さん。」
「うにゅ?」
「今日の6限の音楽の授業で、私はとうとう本番なのですが。」
「お!そーなんだー!頑張れやーぎゅ!だいじょーぶだよ、やーぎゅは十分上手だからきっとよゆーでごーかく・・・ってあり?もしかして?」
「ええ、一緒に練習は今日で最後です。」
これはテストの為の練習なのだ。
だからテストが終わったならもう練習は要らない。
極めて当たり前のことに、紀伊梨は今気づいたのだった。
「五十嵐さんはいつですか?」
「紀伊梨ちゃん明日だけどー・・・」
「ああ、それならタイミングとしてはジャストですね。我々2人、今日で練習は終了というわけです。」
「えー!寂しー!」
柳生は苦笑した。
「私も些か寂しいですよ。最近はもうすっかり習慣になっていましたから。ここに来るのも、こうして譜面台を出すのも一緒にギターを弾くのも。」
「それならもっとやろーよー!」
「そういうわけにもいかないでしょう。お互い暇ではありませんし、他にも時間を充てなければいけないことがこれから先山ほど出てきますよ。」
「そーだけどさー!」
「分かって頂けたなら何よりです。さ、時間は有限ですよ。今日も練習いたしましょう。」
「むー・・・あ!じゃーさじゃーさ、きょーは一緒にえんそーしよーよ!」
「一緒にですか?」
「そー、記念に!ねー、いーでしょいーでしょ!ねーってばー!」
「分かりました、分かりましたから。良くないとは言ってないでしょう。」
シャツ伸びたら親になんて言おう。
正直に言うしかないか、友達に伸ばされたって。
「よしゃよしゃ!じゃーちょっと待ってお!えーと、何ページだっけ・・・」
「・・・前からしばしば思っていたのですが。」
「うにゅ?」
「五十嵐さんにもう楽譜は要らないのでは?」
「うん!見なくてだいじょーぶ!」
元々楽譜なんて左程見る習慣の無い紀伊梨。
おまけに音楽に関することには覚えが早いので、最初こそコード進行の確認の為にカンニングしていたが、今はもうすっかり暗譜済み。
「それなら、もう譜面台は片づけましょうか?一応出すだけは出してしまいましたが。」
実は、本番のテストでは譜面台は出せない。
というか、TAB譜を見せてもらえない。
だから、一応本番前だしリハーサルがてら楽譜も何も取っ払った方が良いのではと思ったのだが、紀伊梨は譜面台を手で押さえた。
「やだ!」
「何故です?」
「だってこー・・・そこにやーぎゅの譜面台があってさ。そいで、こっちに紀伊梨ちゃんの譜面台があるじゃん?そいで両方に楽譜が乗ってるじゃん?隣にやーぎゅが居るっしょ?上手いこと言えないけど、これで1セットなんですよ!」
毎日この風景だった。
だから今日もこの風景を見ながら弾きたい。
「分かりました。私は構いませんよ。」
「わーい、やたー!」
2人並んで。
たまーに「ちょっとリズムずれてないか見てよ」みたいな感じでどっちかがどっちかの前に回ったりしたこともあったっけ。
「せーの、」
さくら さくら
今 咲き誇る
刹那に散りゆくさだめと知って
柳生はちらりと隣で弾く紀伊梨を見た。
特に理由あってのことじゃない。
ただなんとなく目が行った。
紀伊梨はそれを受けて、にーっと笑った。
さらば 友よ
旅立ちの時
変わらないその想いを 今・・・
「・・・ふー!良いね良いねー!やーぎゅと弾くの紀伊梨ちゃん好きだなー!」
「いえいえ、此方こそ。人と演奏も偶には良いものですね。」
「やっぱり明日からもやろーよ!」
「それとこれとは別です。」
「ちぇー!」
別にしなくたって良いのに、と思いながら頬を膨らませる紀伊梨。
その様子を見て、柳生はどうも紀伊梨は時間の感覚が鈍くていけないと思う。
楽しいことを欲しい分だけ詰めようとするその姿勢は嫌いじゃないけど、こうやって楽しいことを欲しい分だけ考えなしに詰め込もうとするから後でスケジュールが破綻するのだ。
「・・・きっとまた、いずれギターのテストはあるでしょう。」
「およ?」
「その時は、またこうして練習しましょう。お願いしますよ、師匠?」
「・・・・!よしゃ!任しとけーい!」
そうだ、今叶わなくたって。
きっといつか、また。
だって、ほら。
自分達はまだまだ、始まったばかりなんだから。
「・・・お!」
「?どうしました?」
「え!いやー、別に!なんでも!」
「明らかに何かありますね。」
「内緒内緒ー!」
またいつか、その時が来た時のために。
その為に紀伊梨は、こっそりと譜面台に手を加えた。
それが加地にあっさりバレて、要らぬ所で減点を食らうのはもう少し先のこと。
「誰ですか、譜面台に星マークなんて落書きしてるのは!消すですよ!」
「あー!止めて、それ紀伊梨ちゃんが又れんしゅーの時に使おーと思って目印・・・あ。」
「五十嵐さん!」
100話記念くじびき企画
お題:No.068 楽譜と譜面台
くじ結果:23秒→3 前の方の秒数→8:主人公2+柳生
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