100話記念企画 No.068
「桜♪桜♪今咲き誇る♪」
更に数日経つと、柳生もすっかり慣れた様子で弾けるようになった。
元々飲み込みは早いのだ。コツを掴めばあっという間である。
「刹那に散りゆく♪さだめと知って・・・五十嵐さん、どうしました?何か間違っていたでしょうか?」
「じゃなくてー。ねーねーやーぎゅ。」
「はい。」
「せつなってどーゆー意味?」
そっちか。
「刹那というのはそうですね・・・言うなれば、ほんの一瞬。ごくごく短い間の事です。」
「ほーほー!じゃあ短い間に・・・散りゆく?」
「これは文字通りですよ、散っていくという事です。さだめは運命と書きますからわかりますね?」
「んーとんーと、じゃあ?短い間に散って行っちゃう、えー、運命と知って?」
「そうです。」
「ん?ん?桜桜、今咲き誇る、短い間に散っていっちゃううんめーと知って・・・知ってその後はどーすんの?続きはさらば友よ、旅立ちの時っしょ?」
「そうですね・・・春日さんではないのであまり上手く表現出来るかわかりませんが、おそらくこの詩は「いても」を後ろに付けると分かりやすいと思いますよ?」
「「いても」を後ろに?」
「そうです。桜桜、今咲き誇る。刹那に散りゆくさだめと知って「いても」・・・どうですか?意味が通るのではないでしょうか?」
「はー・・・・」
散りゆくと知っていて尚も咲き誇る桜。
人はそれに色々なものをーー例えば、始まりがあれば必ず終わりも来る切なさを見出したり。はたまた堂々と終わりを受け入れて、いつか終わるとしても今この瞬間はまだ終わりではないという力強さや輝くことの意味を見出したり、人によって色々なものが受け取れる一節。
なのだが。
「・・・・・・・」
「ピンときていませんね?」
「うん、あんまり!」
中学1年生なんて、目の前に始まり以外広がってないような年にそんなもののあはれに思いを馳せろとか言われてもそんなに実感がない。
まして紀伊梨のようにしんみりするタイプではないと尚更。想像さえも難しい。
「五十嵐さんは普段の曲でこういったものは歌われないのですか?」
「オリジナルだと全然かなー!しっとり系の曲とか紀伊梨ちゃん書けないし!」
「ああ、そうでしたね。曲は五十嵐さんの担当でした。」
しかも編曲する棗も歌詞を書く紫希も紀伊梨の事をよくよく熟知している。
しっとりバラード仕立てにしたところで、気持ちが入らないことを知っているのだろう。
といってもアイドル志望なら、いずれ好むと好まざるとに関わらず色んな毛色の曲を歌わざるを得ないだろうが。
「・・・・・・」
「やーぎゅどったのー?」
「いいえ、なんでもありませんよ。」
それこそ、そんなの「いつか」の話だ。今じゃない。
今じゃないなら考えるのは止めて、今を楽しもう。
元々柳生は今を楽しむことに躊躇いのない性格だが、中学に入ってそれが加速した気がする。
「五十嵐さん達のおかげでしょうね。」
「何が?」
「毎日が楽しい理由です。」
「お?えへへへへ、そお?そお?紀伊梨ちゃん楽しい事なら得意分野だかんね!」
えへん!と胸を張る紀伊梨。
その姿に「いつか」とかいう響きは確かに似合わなくて柳生は微笑んだ。
「あーあ、これでテストが無かったら学校は完璧なのになー!」
「私はテストは嫌いではありませんよ。自分の実力を試すのは面白いではありませんか。」
例えばこう。
と言わんばかりに柳生が爪弾くギターの音は、練習を始めた時とはもう全然違う。
テストはもう目前。
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