100話記念企画 No.034
街を歩く。


流れているのはあのメロディー。


空は明るいブルー。
いや、夜空か。
もしくは夕暮れかも。
ああ、あっちはラベンダー色。朝焼け。

ディスプレイはどれもキラキラに輝いている。
興味のないものは一つもない。
美味しそうなお菓子屋さん。
上品そうなブティック。
通りに似合いのお花屋さんに、お洒落な雑貨屋さん。
そして絶対忘れちゃいけない、本屋さん。

道行人は皆とっても嬉しそうに微笑んでいる。
大人も子供もお年寄りも。
同じ方向へ歩く人も、すれ違う人も。
あそこに居る犬も、車やバスまで全部全部幸福に溢れている。

ああ、足が軽い。
歩いても歩いても、全然疲れない。


街を包んでいるテンポに合わせて、1、2、3。


矢鱈に軽いトランクを引いている。
中に何が入っているんだろう、こんなに軽いなんて。
きっとお菓子だ。
いや、夢とか希望とかかも。
こんなに軽いなら、本は入ってないのかなと思ったら、右手に持っていた。安心。

カラフルな色に染まった風が気持ち良い。
自分の好みにドンピシャリなワンピースと軽めの上着を、花吹雪と一緒にふわふわ舞い上げてくれる。


あれ。
そういえば皆は。
あの人は。


皆どこと辺りを見回した時に、被っていたレースをあしらったキャスケットが風で舞い上がった。
わあ何だか綺麗、とか思ってる場合じゃない。
駄目、いかないで。

空いてる左手を伸ばしても、鈍な自分じゃ届かない。どうしよう、誰か助けて。

そう思ったその時、人ごみの中、後方で誰かの右手が軽やかに帽子を捕まえた。

ああ良かった。
ごめんなさい、ご迷惑をおかけしまして。
本当に有難うございます。

人の間を縫って駆け寄って、そこに居るのは笑顔の誰か。

顔を上げた瞬間、街はひときわ大きく歌う。


Il y a tout ce que vous voulez・・・



貴方はーーーーー





ピピピピピピピ・・・カチ。

「夢・・・・」

カーテン越しの朝日を浴びながら、紫希はぼんやりと上体を起こした姿勢で呟いた。

いやにくっきりした夢だった。

リアルというよりはファンシーよりだが、そうじゃなくてとてもはっきり細部まで覚えている。まるで本当にあんな街に行って帰って来たかのよう。
こうして起きても、まだ記憶が残っている。

あの誰かの顔、以外は。





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