100話記念企画 No.005
翌朝、丸井はご機嫌で学校に来ていた。
「ブンブン、おっはー!」
「よ、おはよ!」
「きのー楽しかったねー!もーちょっと歌いたかった気もするけどー!」
「5回も歌っといてそれ言うのかよ。」
紀伊梨はあの後、今の楽しかったからもう一回やりたい!を4回繰り返し、もうこれで本当に最後にするんだよと幸村に釘を刺されてやっと切り上げた。
「・・・ねーブンブン?」
「ん?」
「きのーは紫希ぴょんと歌ってる時何してたの?」
「内緒。っつうかこれ昨日もやったじゃん?」
「もーー!こーやって聞いたらつるっと言ってくれるかもよってなっちんに教えてもらったのにー!」
「ははは、残念♪」
昨日、結局丸井は紫希の手を離さなかった。
5回歌い終わるまでずっとそのままだった。
起き上がる時に離したけど呼び止められて、さっきのは何だったんですかと(当たり前といえば当たり前だが)訪ねられ。
丸井は極めて正直に且つあっさりと、「なんとなく」と返したのだ。
そしてその後何の話してるのと聞かれたので「秘密」と返事した。
なんで秘密なの、なんなの、と紀伊梨とか棗とか千百合とかーーーあと紫希辺りからも聞かれたが、なんとなく気分でと言うとまたかよと突っ込まれつつ諦められた。
と思ったのにまだ諦めてなかったのか。
「ちょっと、男子!集まって!」
(ん。)
館野の声だ。
合唱の件だろう。
丁度良い、言い出したい事があったのだ。
男子は「朝からかよ・・・」というげんなりした顔、女子は気の毒そうな顔をして遠巻きに見ている。紀伊梨だけが普通の態度だ。
「1限始まるまで、まだ時間があるわ。その間に練習よ!」
「はい。」
「じゃあ・・・って、何?丸井君?」
「俺から一個提案。」
「提案?何についての提案よ?」
「これからは練習始まる前に一回通しで歌うっていうの、どう?」
「・・・?」
てっきり練習時間を減らそうと言われるとばかり思っていた館野は、身構えた態度をちょっと緩めた。
逆に男子は、もうちょっと優しくしてって言い出してくれるんじゃないのか・・・と当てが外れてこっそり肩を落としている。
「・・・解せないわね。何故?」
「気分良いから。俺が。」
「丸井君が?」
「そう。」
一回だけで良い。
その日の最初、昨日の夜を思い出して歌ったら、その日を気分よく練習して乗り切れるんじゃないか?と丸井は思ったのだ。
「どう?」
「どう!?どうって・・・そうね・・・」
「そうしてくれたら、少なくとも俺はもっと真面目にやるけど。」
「・・・それは本当なの?」
「おう。序に、今日やってみて成果が出なかったら戻してくれても良いぜ?」
「・・・OK。そこまで言うのなら、やってみましょう。早速今からで良いかしら?」
「おう。あ、館野。」
「?」
「もう一回言うけど、通しで歌うのが条件だからな?文句があっても、途中で止めるのはナシってことで。」
「・・・わかったわ。」
自分も歌いたいと申し出る紀伊梨をあくまで男声の練習だからと制しながら、館野は曲の頭出しをしてくれた。
イントロ。
思い出せ。目的は気分よく過ごすことだ。
もうCOSMOSは自分にとってしんどいだけの曲じゃない。
あの星空。
あの歌声。
ーーー掌の温度。
「夏のくーさーはーらにー♪銀河はー♪たーかーくー、歌うー♪」
丸井の周囲に居た男子はぎょっとした。
なんでこんなに声出してるんだろう、此奴。
何かすごいやる気じゃないか。急にどうした。
「胸に手ーを当てーて♪風をかーんじるー♪」
表情がすごく楽しそうだ。
最早プリントも見ていない。
男子の中の何人かが館野を見ると、館野も丸井を見てあっけ・・・な顔をしたまま固まっていた。
「君のぬーくーもーりはー♪うーちゅうがー、燃えーていたー♪
遠い時代のなーごりー♪きーみはうーちゅうー♪」
(あれ?)
(でも、なんか・・・)
いつもより声が出てる。
丸井じゃなくて、自分が。
そう感じる者がちらほら現れだした。
「「「百おーく年のれきーしーがー♪今も体にーなーがーれてるー♪」」」
引っ張られている。
いや、引きずられていると言っても良い。
伸びやかで楽しげな丸井の声に、皆の声が導かれだす。
女子では紀伊梨だけがうきうきで聞いていた。
他の女子は皆、目覚ましく変わっていく男声全体の勢いに聞きほれていた。
「「「「「「「「ひーかりのこーーえがー天たーかーく聞こーえるー♪
きーみーも星ーだよー♪みんーなー、みーーんなー♪」」」」」」」」
朝のB組に高らかに響き渡るCOSMOS。
この日の間に「良く出来ているから」と館野が練習時間の短縮を思い直したのは言うまでもない。
100話記念くじびき企画
お題:No.005 COSMOS
くじ結果:52秒→2:主人公1×丸井
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