100話記念企画 No.005
「乗った?」
「あ、ごめんなさい少し待ってください、LINEが凄いので返信だけ・・・はい。大丈夫です。」
「おし。」
「で、でも良いんですかお任せしてしまって・・・」
「良いの良いの♪任せろい。よし、出発!」
本当はやっちゃいけない2人乗りをして、紫希と丸井はもう夜になりかかる空の下を自転車で川へ進む。
荷台に横乗りして自転車に掴まる紫希。
スカートタイヤに引っかかってないかな、大丈夫かなと思って自分の体を見下ろしたら、パーカーのポケットの中ですごい勢いでスマホがブーブー鳴ってるのが聞こえる。紀伊梨からの長電話の誘いを断ってしまったから、多分悲しいマークとかのスタンプがボンボン押されているのだ。
悪いことしたな、後でちゃんと謝らないと、とか思っている内にもう川原。
流石自転車は早い。
「よっと。到着。」
「有難うございます、すみません乗せて頂いてしまって、重かったですよね本当にすみません・・・」
「良いって。そんな事より、今度はちゃんとしがみついてくれよい?振り落としそうで怖えから・・・と。」
自転車の鍵をかけて川原へ降りると、星を見るには丁度良い暗さ。
「わあ・・・・」
「おお!」
こんな時間に川に居たことはないが、街中でも場所さえ選べば星はよく見える。
視界いっぱいに広がる夏の星は力強く輝いて、2人の目を楽しませる。
「・・・・わ、きゃあ!」
「とっ!おい、大丈夫か?」
「す、すみません・・・・」
不意に斜め後ろに傾いだ紫希を丸井が慌てて支えてくれる。
「どした?疲れた?」
「いえ、なんだか見ていたら吸い込まれそうで、ちょっと平衡感覚が狂うというか・・・」
「ははは!わかるわかる、座るか。」
そう言って河原に並んで座る。
・・・束の間。
「綺麗ですね。」
「な。」
「来てよかったですね。」
「うん。」
「有難うございます、連れてきて頂いて。」
「良いよ。」
「・・・丸井君?」
「うん?」
「汚れません?」
「まあまあ、今更だって♪」
丸井はすぐに遠慮なく寝そべりだした。
紫希はそれを体育座りのまま隣で見ていたのだが。
「・・・・・よい、しょ。」
「汚れねえの?」
「帰ったら母に謝ります。」
「そっか。」
丸井は紫希の方を見て一瞬微笑むと、また上を向いた。
星空。
綺麗な星空。
紫希もこの星空を綺麗と思って見ている。
COSMOSを聞いても、さっきは同じ思いになれなかったけど。
「・・・なあ。」
「はい?」
「COSMOSの出だし何だっけ?」
「え?ええと、夏の草原に・・・です。」
「あ、それそれ!」
丸井は深く息を吸った。
「夏のくーさーはーらにー♪銀河はー高くー、歌うー♪」
穏やかな楽しさを湛える丸井の瞳に、つられて紫希の唇が動き出した。
「「胸に手ーを当てーてー♪風をかーんじるー♪」」
夜の河原に2人分の歌声。
声を張ってるわけじゃない。お互いにしか多分聞こえない。
でも別に良いと丸井は思った。
「「君のぬーくーもーりはー♪宇宙がー♪燃えーていたー♪
君は
遠い時代のなーごりー♪ うーちゅうー♪」」
きーみは
頭上にある星達の輝きは、星の命。
自分も紫希も、命を燃やして同じように輝いている。
「「百おーく年の歴ー史ーがー♪
今も
体にー♪なーがーーれてるー♪」」
今もー
歌いながらふと丸井が紫希の方を向いた。
丁度その時だった。
こーーえが
「「ひーかりの 空ーたーかーく聞こーえるー♪
こーえがー
きーーーみも
星ーだよー♪みんーなー、みーーんなー♪」」
きーみーもー
「え?」
「千百合ちゃん!幸村君・・・」
土手の上で、微笑む幸村とスマホで通話しながら歌う千百合。
紫希と丸井が目を丸くしていると、2人は降りてきた。
「お疲れ紫希。丸井。」
「やあ、こんばんは。」
「こんばんは・・・」
「よ。デート?」
「を、邪魔された所かな?」
「え!」
「あ、紫希達じゃなくて。」
「五十嵐がね。春日に電話を断られたって、千百合に電話してきて。」
「じゃあそれ、五十嵐に?」
「そ。繋がってんの。」
普通に通話モードなのでよく聞こえないが、紀伊梨の声がスマホの向こうに聞こえる。
「たまたま通りすがっただけなんだけどね。」
「そうなんですか・・・」
「紫希達は何をーーーちょっと煩い、紀伊梨。・・・そう、紫希達居たから。どこ?どこって川原・・・あ。」
しまった。
と千百合が思った時にはもう遅い。
「切れた。来るわ、彼奴。」
「マジ?」
「なんだか、鬱憤が溜まってたみたいだったからね。ここ最近、合唱の練習で皆スケジュールがばらばらだったから。」
だからってこんな時間になって向かって来なくても・・・とも思うが、紀伊梨からしてみれば友達が4人も集まって川原で歌ってるのに自分がそこに居ないなんて、そんなの寂しすぎる。行かずにおれるか。
「大丈夫でしょうか・・・」
「まあ、五十嵐の家は近いから。」
「で?話戻すけど何してんの?」
「何・・・」
「星見てえなと思って。」
「歌ってたのは?」
「なんとなく歌いたくなって?」
「あはは!そうなんだ。」
「物好きねえ、普段から嫌って程歌ってるじゃない。」
「お前だってさっき歌ってただろい?」
「まあそうだけど。」
「でも、気持ちはわかるよ。」
こんなに綺麗な星空だからね。
そう幸村が言って、4人はまた頭上に視線を向ける。
どうせ。
と4人とも多かれ少なかれ思ったのだ。
どうせ紀伊梨は此処へ来る。
待たないといけない。来るなと言ってもスマホをもう見てはいないだろう。
だから良いんだ。
「・・・時のなーがーれーーーにーー♪」
「「生まれたー、ものーなーらー♪」」
紫希の声に千百合が加わる。
誰からともなく、また腰を下した。
「「ひとりのーこーらーずー♪」」
「ん?」
「おや。皆さん、お揃いで。」
「よっ!」
「やあ柳。柳生。」
「どう?歌ってく?」
脈絡が全然無い丸井の問いかけに、自主練が盛り上がって遅い帰路についていた柳と柳生は顔を見合わせる。
何がどうなって4人が何故集まってるのか、全然わからないが。
「「幸せになれーるはずー♪」」
「「「「「「皆ー、命を燃やーすんだー♪
星の
ように、蛍ーーのようにーーー♪」」」」」」
ほーしの
大きくなる男声。
6人分の歌声。
それにまた立ち止まる人。
「何やってるんだ・・・?」
コンビニ帰りの桑原。
「む。」
「あ、真田。」
「桑原か。それに・・・何だ?下は何が起こってるんだ?」
「いや、俺にもよく・・・」
ちょっと走り込みしていた通りすがりの真田も加わる。
何してるんだろう。
取りあえず見てわかるのは、友人達が揃って河原の草原に寝そべって、歌っているという事。
どうしよう。
今話しかけて良いんだろうかと2人が迷っていると、何人かが2人に気づき、歌いながら手招きしたり、上を指さしたり。
ああ。
そういえば星が綺麗だ。
こーーえが
「「「「「「ひーかりの
こーえがー
空ーたーかーく聞こーえるー♪
ぼーく
らはひーとつー♪
ぼーくーーーー
みーんなー、みーんなー♪」」」」」」
何人かが思った。
ああ、アルトパートが居ない。
何人かが思った。
アルトパートまだかな。
でもまあ。
あの子は、皆が待っている時に登場するのが得意だから。
「「「「「ひー・・・「ひいーーーーかりのこーえがあーー♪
そらあーたあーかあーく聞こおーーーえるうーーー♪」
ほら来た。
と思ったら棗が同行してるのはともかく、何故か紀伊梨は右手に仁王をひっつかんでいて、何人かは歌に笑い声が混じってしまった。
きーーみも
「「「「「 きーみーも星ーだよー♪
きーみーーもーーー
みーんなー、みーんなー♪」」」」」
「やべえwこんな時間にこんなところで勢ぞろいとかw」
「もー!皆集まってるんだったら紀伊梨ちゃんも呼んでよー!」
「集まってるんじゃなくて、偶々集まっちまったんだよ。」
「それでも呼んでよー!今回は来れたから良かったけどさー!」
「仁王君は何故此処に?」
「それこそ偶々じゃ。通りすがって、そのまま行こうと思ったら見つかってもうたきに。」
「お前歌うの大嫌いだもんなw」
「良いじゃんニオニオも歌おーよー!」
「気が進まん。」
「えー!」
「まあまあ、なかなか楽しいですよ?」
「お前どうせクラスの練習はフケてんだろい?ちょっとは歌ったら?」
「プリッ。」
「して、これは結局何の集まりだ?」
「何の・・・何だろ。」
「敢えて言うなら、空を見ながら歌いたくなった人のための集まりかな?集まったのは丸井の言う通り、偶然だけどね。」
「すげえ偶然だな・・・」
「でも、最後は全パート揃って綺麗でしたよね。」
その紫希のコメントに紀伊梨が食いつく。
「そー!ねー、もっかい歌おうよ!」
「断る。」
「良いじゃーん、れんしゅーれんしゅー!紀伊梨ちゃん殆ど歌ってないよ、もっかい歌おうよー!」
「あ。それなら、少なくとも男子は皆横になって歌おうか。」
「え、マジ?」
「さっきの結構きつかったぜ・・・」
「きついから良いんだ。腹筋の練習になるよ?」
涼し気ににっこり笑う幸村に、異論など言えようはずもなく。
「よし!声の小さい奴はメニューを増やす!」
「おや、これは心して歌わなければなりませんね。」
「冗談じゃろ。」
「あのー、俺も男子なんだけど俺は座ってても・・・」
「まあ付き合え。お前にとっても鍛錬にはなるだろう。」
「そんな殺生な!」
大変ねえ、な眼差しで男子勢を見ながら千百合は紫希に話しかけた。
「紫希どうする?」
「あ・・・私も、横になろうかなと・・・」
「マジか。」
「私の腹筋じゃ、辛いと思いますけど。でも折角ですから・・・」
「あ、そう。」
「それに、ほら。星が綺麗ですから。」
「それはまあ、そうか。」
一同は皆、星を見上げながらめいめい思い思いの場所に仰向けになった。
今日の空は本当に綺麗だ。
どうしてだろう。
皆居るからだろうか。
「よっしゃいくよー!3、2、1、ハイ!」
夏のくーさーはーらにー♪
銀河はー高くー歌うー♪
紀伊梨の掛け声から響きだす歌声に、夏の草原に銀河が歌うって今のことそのまんまだなと丸井は思った。
こうして自分は星の上で横になっている。
周りの友達も、自分を乗せるこの星も、輝いて生きて。
結構身近な事歌ってたんだ、なんて思ってふと視線を右に向ける。
胸に手を当てーてー♪
風をかーんじるー♪
隣で横になって歌う紫希は、視線に気が付いて自分の方を向いた。
強いて言うなら理由はそれだったのかもしれない。
君の
君のーーぬーくーもーりはー♪
君の
うちゅうがー
うちゅうがー燃えーていたー♪
うーちゅうがー
「遠い時代のなーごりー♪」
歌いながらゆっくり手を伸ばした。
そして紫希の左手をそっと繋いだ。
「・・・!?」
僅かに目を見開く紫希。
丸井は一度だけにっと笑うと、握った手をそのままにまた上を向いて歌った。
紫希もそれを見て、おずおずとまた上を向く。
この手の先にいる君は宇宙。
多分きっと自分も。
百おーーく年のれきーしーがー♪
百おーおく年のーーれきしがー♪
百おーーく年のれきーしーがー♪
今も
今も身体にー♪流ーれてるー♪
いまも
本当に宇宙の歴史が百億年あって、そしてその先に居るのが自分なら。
ここにいる皆なら。
隣に居る紫希なら、それは途方もなく気が遠くてそして素敵なことだと思う。
全員が大きく息を吸った。
聞こえる筈もないのに、その音まで聞こえた気がした。
こーーえがー
ひーかりのこーーえがー天たーかーく聞こーえるー♪
こーえがーー
きーーみも
きーみーも星ーだよー♪みんーなー、みーーんなー♪
きーみーもー
繋いだ手は暖かい。
見上げた星は明るい。
こんなに良い気分でCOSMOSを歌ったのは初めてだった。
夜空の下の大合唱を星達だけが聞いていた。
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