100話記念企画 No.100

タタン、タタン。
タタン、タタン。
今日はいつもより多めに聞く電車の音。

「ふう、乗れて良かったっ!」
「せやな。ほんまもんの最終列車やから、乗りそびれたらタクシーやったわ。」
「タクシー・・・ううっ、そんな事になったらお金がないっ!」
「それはまあ、家まで着いたら親が払います、でなんとかなるさかい。」
「そうなのっ!?」
「俺何べんかやった事あるわ。」
「で、出来るんだそんな事っ・・・」
「俺ら今、見るからに子供やから多少のことはなあなあで見逃して貰えるで。」

明るい車両の中は無人だった。

日中は人がひしめくこの電車は、今は可憐と忍足だけを乗せて夜の街を都心に向かって走る。
隣の車両をチラと伺うも、やはりそこに人の影などなく。
まあ、駅のホームにも誰も見当たらなかったし当たり前といえば当たり前。

「・・・何か、」
「うん?」
「ちょっと、何か怖いねっ?そんな事ないっ?」

こうして電車に揺られて居ると、駅に居た時にもまして別世界感が加速する。
窓の外に広がる宵闇と、車両内の眩しいくらいの明るさのコントラストのせいだろうか?それとも乗ってしまったら最後好きなタイミングで出られないという電車特有の制限のせいか。

可憐は無類の本好きとか映画好きとかそういうわけではないが、人並みにはメディアに興味があるし読んだり見たりする。
それ故に、たまに変な想像力が働くのだ。何処かで聞いたような、あんな話こんな話。

もしこの電車にたった1人で、どこへとも知らない所まで連れて行かれてしまったらーーー


「俺が居るから安心しとき。」


え。
と思って隣を見ると、忍足は思っても見なかったような優しい顔で微笑んでいて、可憐はどきっとした。

「・・・って。」
「え?」
「4月も言うたな、この台詞。」
「えっ?そうだっけっ?」
「覚えてへん?入学式の日。」
「・・・あ!」

思い出した。
そうだった、そういえばあの日も似たような事になって、全く同じ会話をしたんだった。

「あの時も危なかったよねっ!寝過ごしちゃって、終点まで行っちゃってっ!」
「それでも最終列車にはならへんかったけどな。」

悪化してるというか、学習しないというか。
まああの時より段違いで忙しくなってるんだから、しょうがないでしょと言われればそうなのだが。

「いうか可憐ちゃん、今みたいな時は突っ込んで。」
「えっ?」
「大丈夫いうて、お前が寝過ごすからあの時も今日もこんな事になってるんやろーて怒ってくれな。」
「そんなそんなっ!そんな事言えないよ、私一人でも寝過ごす自信あるんだからっ!」

寧ろ、忍足が居るからこうしてちゃんと最終列車捕まえてギリギリ帰る算段がつくところまで持ってこれてるのだと思う。一人だったらまず間違いなくパニックになって、帰れたはずのものも帰れなくなっていたこと請け合いだ。

「氷帝に通う事になった時、一番心配された事だもんっ!電車になったら時間には気を付けてないといけないけど通えるのって、遅刻とか乗り過ごしとか遅刻とか乗り過ごしとか、後遅刻とか乗り過ごしとか・・・」
「乗る線間違えたりとか。」
「う!」
「制服扉に挟みそうになったりとか。」
「うぐ・・・」
「もうやってへん?」
「・・・時々しそうになりますっ。」
「ははは!」

聞いたら絶対笑うんだから聞くの辞めてやれよ、と忍足は自分で思わんでもない。
でも聞いてしまう。そして笑ってしまう。

「でも、ほんまに気をつけなあかんで?遅刻とか乗り過ごしはええとしても、ホームから足滑らせたとか洒落にならへんさかい。」
「そっ、それは私も気を付けてるのっ!だからなるべく電車が来るまで下がってるし、落とし物しないように鞄もなるべく開けないようにしてるもんっ!」
「せやな、それがええわ。」

可憐はスクールバッグを前抱きで抱え込むようにして、ちょっと頬を膨らました。

「可憐ちゃん?」
「・・・・・」
「・・・笑ったん嫌やった?堪忍な。」
「・・・違うもんっ!」
「あれ、違うん。」

可憐がふてくされモードなのは、入学した時の事を思い出したからである。
制服扉に挟むのは兎も角、乗り間違えと寝過ごしは忍足だって初日にやったじゃないか。なのになんなんだろう、この差。同じことやってるのに、忍足からはドジオーラみたいなものが全然出てこない。何故だ、同じミスしてるのに何故。

「・・・忍足君は良いなあっ。」
「・・・ごめん、何の話してるん?」
「会った時からちょっと思ってたんだけど、忍足君って抜けてる時もあるよねっ?」
「まあ多少は。」
「それなのに皆から抜けてるって思われてないよねっ!」
「それはまあ・・・なんでなんやろな。」

忍足自身不思議な時も多いのだが、人間というのは結構第一印象で「こう」と思ったらなかなかそれが抜けないのだ。
そしてどうやら自分みたく無口なタイプは「隙が無い」と受け止められがちらしい。だから可憐の言う通りちょくちょくやらかすこともあるのだが、周りはどうもそれをすぐ忘れたり気のせいとして片づけたりする。

「何かコツがあるのかなあ・・・失敗してないように見えるコツ・・・」
「失敗を失敗として捉えへんていうのもコツやで。」
「?どうやってっ?」
「まあ物は見方次第いうか、何事も考え方いうか。人間万事塞翁が馬ていう奴やな。」
「ううん・・・?」

何か分かる気もする。

言いたいことは分かる。
でもやれと言われると結構難しい気もする。

「じゃあ、忍足君は今みたいに最終列車でお家に帰るのも失敗じゃないって思うのっ?」
「せやなあ、無人の駅とか無人の電車とかなかなか見られへんし。」
「た、確かにそう言われると・・・」

「それにこういうデートやと思うたら悪い気はせえへんし。」

あ。
と今度こそ口からちょっと零れた。

(あかんわ、疲れてるわ今日)

思ってる以上に自分は疲弊しているらしい。
言うつもりのなかった事が口からぽろぽろ転がり落ちていってしまう。

どうしよう。こういう時は諦めて黙ってる方が安全なのだが、ちょっと疲れてるから黙り込ませて貰って良い?とかちょっと友達に対して態度悪すぎじゃないかと思うし。

弱ったなどうしよう、と思いながら隣を見ると、可憐はえっ、えっ、と言いながら赤い顔でわたわた所在なげに両手をばたつかせていた。

「・・・ふふっ、」

ああ、この子のこういう所本当に。

「悩んでるんどうでもようなってくるわ。」
「へっ?」
「なんでもあらへんよ。それで?」
「それでってっ!?」
「前向きに考えるんは出来そうなん?」
「いやっ!私には難しいっ!ですっ!」
「さよか。」

そのやり取りでもう言葉の上ではこの話題は終わった。でも心理的には全然終わっていない事は、赤い顔と落ち着かない様子で無言の可憐と微笑みながらやっぱり無言の忍足の2人の様子が物語っている。

(乗り換えまで後30分ちょいやな。)

その30分の間、可憐は無言を貫き通すんだろうか。
それとも無言に耐えられなくなって何か話し出すだろうか。

じゃあお前が話振ってやったらと思わんでもないが。

(俺は別にこのままでもええし。)

とてもゆったりした気分になって、忍足は背もたれに深く体重をかけた。

東京。
夜。
2人きりの最終列車。

なかなかどうして、思ったより楽しい気分で家まで帰れそうだった。




100話記念くじびき企画
お題:No.100 最終列車
くじ結果:48秒→8:主人公4×忍足

ご参加ありがとうございました!

5/5


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