100話記念企画 No.100


駅員との話も終わり、本当にちゃんと終電があるかどうかの確認も終え、それぞれ家族との打ち合わせも終えて、可憐は忍足と並んでホームのベンチに座っていた。

「・・・・・・・」

落ち着かない。
何か意味もなくきょろきょろと目線が彷徨ってしまう。

(美梨があんな事言うからだよっ!もうっ、本当にああいう冗談が好きなんだからっ!)

妹とて、まさか本当に深夜デートとは思ってはいまい。それは会話してる時の空気でわかる。
分かっていて、この手のことに不慣れな姉をからかって面白がっているのだ。
どっちが姉だか・・・と可憐が思うのはこういう時である。

冗談だとわかっているのなら気にしなければ良いだけの話、と頭ではわかっているものの。

「・・・・」
「どないしたん?」
「えっ!あっ、ううん何でもっ!」

気にすまいと思えば思うほど何か口が重くなってしまう。
いけないいけない。

「何やさっきから静かやけど、疲れてるん?」
「あっ、ううんっ!あのー、えー、ちょ、ちょっとまだ起き抜けで頭がぼんやりしてるっていうかっ!それにほら、なんだか誰も通らなくて刺激が少ないしっ!」
「せやな。もう終電やさかい。」
「・・・・そうだねっ。」

言いながら気づいたが、そうだ。
ここは最終列車を待つ駅なのだ。

乗り過ごしに乗り過ごしを重ねまくった2人の居る此処は都内と言えどもう23区は離れて居り、この時間になるとほぼ無人になる。
今なんて2人以外人っ子一人居ない。駅員の姿さえも見当たらない。


『次の列車は0時40分発、普通、○○行きです。この列車は、最終列車となります・・・・』


「・・・なんだか不思議だねっ。」
「うん?」
「ほらっ、駅って普段は人がいっぱい居るでしょっ?でも今は誰も居ないしっ。」
「せやな。何や別世界に居るような、隔離されてるような気がするわ。」

今この場に人が居ない。
それだけじゃなく、こうも普段騒がしくあるべき場所が静まり返っていると、もしかしたら駅の外もこうなんじゃないか?みたいな非現実的な感覚が生まれてくる。

勿論そんなわけない。
そんなわけないとちゃんとわかっている。
わかっているけど、思考ではなく感覚としてだ。

「ああ。」
「?」

「世界に2人だけみたいて、こういう感じなんやろか。」

あ。
しまった、結構迂闊な事を。

と、忍足は言ってから思った。
とはいえ、しまったと思ったのが顔に出るような性格はしてないが。

「・・・えっ!?え、え、え、」
「ものの例えやで。」
「だ、だよねっ!ああびっくりした・・・」

動揺する可憐を見ながら、忍足は内心「何がものの例えやねんな」とセルフ突っ込みを入れねばならなかった。
今のはただ、言うつもりのなかった言葉が口を閉じる前にコロンと零れただけの話。

「・・・可憐ちゃんて。」
「は、はいっ!何でしょうっ!」
「話しやすいて人から言われへん?」
「えっ?」

急に話が変わったとしか可憐には思えなかった。
まああの話続けられても困るので良いけど。

「どうかなあっ?あっ、でも話しにくいって言われたことはないかもっ!」
「せやろな。そうやと思うわ。」
「忍足君はっ?」
「どっちか言うたら逆やな。」
「逆っ?」
「話しやすいて言われた記憶があらへんさかい。」
「あ、そ、そうなんだ・・・」

別にとっつき辛そうとか人嫌いオーラ満開とまではいかないが、お世辞にも忍足は初対面が話しかけやすい方とは言えない。し、自覚もある。
新しいクラスとかになると大抵相手は若干腰引け目で話しかけてくることが多いし、町を歩いていても道を聞かれたりし辛いタイプ。


『次の列車は0時30分発、普通、×○行きです。この列車は、最終列車となります・・・・』


「あっ!電車ーーーー」
「可憐ちゃん、立たんで良いねんで。」
「えっ?でも、」
「向こうの線やから。」
「あ・・・・」

最終列車という単語が耳に入って、条件反射的に焦ってすわ!と立ち上がったが、忍足の言う通り間もなく目の前の線路の、さらに向こうの線路にまだ明るい車両が滑りこんできた。
よくよく聞けば時間も行先も本来の車両のそれじゃないのに、絶対乗らないとと焦ってしまって、可憐はちょっと赤くなってベンチに座りなおした。
こんな時までドジ。

「うう、恥ずかしいっ・・・!」
「まあ、別に悪いことやあらへんから。乗り逃すよりええし。」
「そんな事言って、忍足君ちょっと笑ってないっ!?」
「バレた?」
「ほらバレたって言ったもん!もうっ!」
「ちゃうねんで、別に馬鹿にしてるわけやないねんて。可愛いなて思うてただけで。」
「良いのっ!気を使ってくれなくってっ!」

気を使ったわけじゃない、と言っても多分信じないだろうから忍足は何も言わないことにした。ちょっと口の端が綻んでしまった自覚はあるし。


『次の列車は0時40分発、普通、○○行きです。この列車は、最終列車となります・・・・』


「あっ!」

これだ。
可憐は立った。
そして、忍足の方を向いた。

「・・・・・」
「どないしたん?」
「・・・今度のは合ってるよねっ?」

忍足は小さく噴き出して、また怒られた。




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