100話記念企画 No.024


「私さー、高校になったらぜーったい乗りたいんだよね!」
「えー、危ないよ?私それより誰かに乗せて欲しいな!」

昼休み。
紀伊梨が弁当を持って井谷と青羽の席に行くと、2人は何やら盛り上がっていた。

「何々ー!何の話ー?」
「あ、紀伊梨!」
「井谷ちゃんがね?高校になったらバイクに乗りたいんだって。」
「ほ?」

バイク。

「バイクってあれでしょー?ブルーン、ブルルーン!って!」
「ああまあ、大体合ってる!」
「おー、かっこいー!」
「でもやっぱり事故とか。」
「だーいじょうぶ!私丈夫だから!」
「そういう問題じゃないよ・・・」
「バイクかー。」
「五十嵐ちゃんもバイク乗りたい?」
「んーん!」
「え、マジ?紀伊梨は賛成してくれると思ったのに!」
「バイクかっこいいけどー、紀伊梨ちゃん的にはちょっと寂しい!です!」
「あー、まあ・・・」
「そうだね、バイクってどんなに頑張っても2人とかそこらだもんね。」

ライダーという奴は、勿論連れだって大人数でツーリングだってするけれど、基本方針としてはやっぱり「一人乗り」「二人乗り」なのである。
どっちかというと大人数でわーっと遊ぶのを好む紀伊梨としては、求めてるものが土台合ってない感がある。

「確かに紀伊梨はどっちかっていうと車の方が似合いそう。」
「あ、でも私五十嵐ちゃんが運転してるイメージはあんまりないかも。」
「えー、なんでー!?紀伊梨ちゃんだって大人になったら車とか運転しちゃうよー!あのさー、あれ!コ/ナ/ン君でさー、阿笠博士が乗ってるみたいな、黄色でまんまるい車乗っちゃうんだー!」

((怖い・・・))

紀伊梨が運転。なんという響き。
バイクだろうと車だろうと関係なく、事故まっしぐらな予感がすごいする。

「ま、まあ・・・ね?免許は取るものだから・・・」
「ああ、うん・・・でも紀伊梨さー、あの車は辞めといたら?」
「えー?」
「あれビートルでしょ?あんたテニス部とか大勢で遊ぶの好きだけど、あれそんなに大勢乗らないよ?」
「えー!でもあれさー、コ/ナ/ン君だと1、2・・・6人乗ってるじゃーん!」
「あれ子供だからじゃない?」
「大人だと後ろのシートに3人乗れるかも怪しいよね。大きい人とか乗せたら2人でももうきつきつになりそう。」
「えー!でも紀伊梨ちゃんあれが良い!」
「まあ紀伊梨に似合う車とは思うよ?」
「うん、五十嵐ちゃんっぽいよね。」
「だよねー!うーん、でも皆が乗らないのは困ったなー・・・」

唐揚げを頬張りながら、未来過ぎて考える意味も左程ないような事を真剣に考え始める紀伊梨。

「・・・あ!良いこと思いついた!」









「で?」
「誰かに頼みに行こーよ!」
「頼む・・・?」

C組では紫希と千百合がわけわからない顔で話を聞いている。

「頼むっていうのはつまりそのう・・・」
「誰かおっきくなったらおっきい車買って、それに乗ーせーて!って頼みにいくの!」
「図々しいわ。」

あまりに勝手過ぎて突っ込む気が逆に失せる千百合。
これが通ると思ってるんだろうか此奴は、と思う反面、なんだかんだこの手の我儘が不思議と通るのが五十嵐紀伊梨という少女なのであり。

「自分でやるって発想はな・・・あ、ごめん。やっぱ良いや。」
「何それー!」
「いや、紀伊梨がでかい車に大人数乗せて遊びにとか怖すぎてちょっと。私なら絶対乗りたくないし人の事も止めるわ。」
「失礼なー!出来るもん!ね!紫希ぴょんもそう思うっしょ!?」
「う、ううん・・・でも紀伊梨ちゃんは確かに、運転よりは後部座席の方が・・・」
「どーしてー!?」
「紀伊梨ちゃんは盛り上げるのが得意じゃないですか。でも、運転席だと後ろでわいわいやってても、あまり参加は出来ないんですよ?運転に集中しないと危ないですから。実際は長距離なら交代になるとしても・・・」
「む!そっかー、確かに皆と遊べないのはやだなー。」
「ほら見ろ。」
「千百合っちは違うでしょー!今絶対紀伊梨ちゃんの事運転下手くそって思って言ったでしょー!もう!自分が上手く出来そうだからってさー!」
「何その上手く出来そうって。」
「あ。でも千百合ちゃん、確かに運転お得意そうですよ。」
「マジで?」
「落ち着いてますし冷静ですし。運転中に些細なことで気が散ったりとか、そういう事もなさそうですから。」
「あ、じゃーじゃー千百合っちがやってよー!車買って、乗せて運転してー!」
「嫌。」
「なんでー?」
「騒げないのは気にしないけど、単純にめんどい。交代要員なら可。」
「えー!」
「後でかい車も嫌。維持費とか面倒だし。車買うにしてもぶなーんなどこにでもありそうなので良いよ。何か・・・軽のワゴンみたいな。」
「ワゴンが良いんですか?」
「まあ乗ってて狭いなって思うのは嫌。色も白とか黒が良いな。」

千百合はどこまでも機能性重視である。
見目とか気分より、安全性とか快適性がかなり優先。
千百合にとって、少なくとも今は、車というものは完全に「移動手段」以上でも以下でもない。

「つまんなーい!」
「つまんなくて良いわ、車とか。車が趣味とかなら兎も角。」
「あはは・・・」
「むー・・・じゃあじゃあ、紫希ぴょんは?紫希ぴょんどんなのが良い?」
「わ、私も大きい車はちょっと・・・運転が難しそうというか、ぶつけそうで、自信がないです・・・」
「小さい車志向?」
「はい。こう、コンパクトで可愛い・・・あ!あの、アルトラパンとか乗ってみたいです。」
「あー。可愛いー。」
「ラパンってどんなんだっけー?」
「こんなん。」
「どれどれ・・・お!可愛いー!紫希ぴょんピンクにしなよー!絶対可愛いよー!」
「なんで紀伊梨が色まで決めてんの。」
「ふふっ!でもピンク、可愛いですよね。ラパンってパステルカラーが多くて、私は好きです。」

紫希は結構機能性もデザインも取りたい派だったりする。
勿論運転に自信がないから乗りにくい車は嫌だけど、その中で出来るだけ可愛いのがあれば良いなあ・・・という紫希の希望は、実は今の自動車業界では結構通りやすい。

「まあどっちにしろ私らにはでかい車とか荷が重いって。」
「だから頼みに行こうよー!」
「う、ううん・・・」
「一人で行けよ。」
「一人より皆での方が、誰か聞いてくれるかもじゃん!ほら、行こうよ行こー!」

こうしていつも、なんだかんだ始まるのだ。


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