100話記念企画 No.083



そんな事もあったなあ・・・なんて思い出す今。
精市君たちは早いもので、もう中学1年生です。

「ただいま。」

精市君は、もうすっかり「男の子」の時期を抜けて「少年」に変わっていきつつあります。
背も伸びたし、元々落ち着いた性格だったのが更に落ち着きを身に着けて、もういっぱしの大人みたいです。

ああでも、変わっていない所もありますよ?
テニスに情熱を注いでいる事とか。

それに、千百合ちゃんが好きなところとか。

「ごめんね千百合、ちょっと待っていて。」
「いや、急がなくても。私が悪いんだし。」

いらっしゃい、千百合ちゃん。

千百合ちゃんもすっかり「少女」になりましたね。
小さい頃はオンリーズボンでしたが、制服のスカート、とっても可愛いですよ。
言動も心なしか昔より丸くなった気が・・・というか、素直になりましたね。

「・・・ふう。」

精市君は玄関に千百合ちゃんを残して、一人で部屋に上がって行きました。
こういう時って、大抵千百合ちゃんが何か貸し借りしに来てる時なんですよね。

偶にはまたゆっくり家に来てくださいね?
寂しいんですよ、本当に。精市君だって喜びますよ。

「お待たせ。はい、千百合。」
「ありがと。」

英語のプリントを受け取ると、そのまますっと立ち上がる千百合ちゃん。
紀伊梨ちゃんなら迷わずこういう場面では幸村家でご飯食べたいとか言い出しそうですが、千百合ちゃんはそういう事は言いません。
そこがまあ千百合ちゃんらしいというか。

「じゃあ。」
「ああ待って。送って行くよ。」
「・・・うん。」

こういう所も昔から変わったなあと思います。昔の千百合ちゃんなら、良い、要らないと言ってたでしょうね。まあこれは素直になったのと同時に、ちょっとでも一緒に居ないと時間が取れないとわかってるんでしょう。中学上がってから、本当に精市君はテニスに割く時間が凄いことになりつつありますから。

「・・・もうすぐ19時か。」

私を見上げながら千百合ちゃんが独り言を言いました。
そうですね、もうそんな時間です。
中学生って、忙しいですね。

ああ、私がもうちょっと有能な柱時計だったら。
そしたら時間をさっと偽って、引き止められることもあったかもしれないのに。

「一日が早いね。」
「分かる。もうあっという間。」
「ふふっ!ちゃんとしっかり過ごさないと、知らない間に夏休みになりそうだよ。」
「割とゾッとしない、それ。」

精市君が千百合ちゃんの手をそっと取って、玄関を
開けました。

ああ、空がまだほんのり明るい。
本当だ、もう夏なんですね。

「じゃあ、ちょっと行ってきます。」

行ってらっしゃい。

そういう代わりに私は今日も振り子を鳴らすのでした。
ちょっとでも、黒崎家までの道中がゆっくりになりますようにと願いをこめて。


カッコ、カッコ、カッコ・・・




100話記念くじびき企画
お題:No.083 柱時計
くじ結果:56秒→6:主人公3×幸村

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