100話記念企画 No.087
「じゃあ次ねwハンス・クリスチャン・アンデルセンの名で知られる童話作家の有名作品で、お姫様が主人公のお話と言えばーーー」
「人魚姫!」
棗、仁王、それから紫希がクロスワードで遊んでいた。
そこに割って入った声に、3人がそっちを見やった。
「紀伊梨ちゃん!千百合ちゃんに丸井君も・・・」
「よ!」
「何やってんの?」
「クロスワードじゃ。」
「たまたま見かけてねw結構面白いよw」
「ねーねーせーかいはー?人魚姫でしょ?」
「ぶぶーw」
「え”!」
「問題を最後まで聞けw人魚姫と、それから何でしょうだw」
「どうじゃ、分かるか?」
「多分、親指姫です。」
「おー、やー、ゆー、び・・・うん、合ってるな多分w文字数ぴったりだしw」
「へえー。知らなかっ・・・何だよ?」
「近い。」
「近くねえじゃねえか。」
「私とじゃねえし。」
紫希の肩越しにぐっと身を乗り出してクロスワードを覗き込もうとする丸井。その襟首を掴んで千百合が元に戻したのを見て、棗が遠慮なく笑った。
「でwお前らはなんなのw珍しい、図書室に用事とかw」
「あ!そーそー、ねえなっちん!なっちん、人魚になったらどうしたい?」
「目的変わってねえ?」
「いつもの事よ。」
「人魚になったらって何だよw早く泳ぎたいとかってこと?」
「じゃなくてー!陸に上がって、お姫様に会いに行く?」
「・・・・ああwはあはあ、そういうあれねw」
「どういうあれじゃ?」
「ええと・・・」
紫希が推測で説明している間、棗は考え出す。
人魚だったら。
自分が人魚ならどうするか。
「俺ならー・・・」
「なら?」
「・・・そうね、どうにかして陸に上がるねw」
「そんな死にたいんだ。」
「死にたくないわ!上がるだけ!」
「え、だってさ。正直、お前なんか絶対振り向いて貰えないしもう泡になって死ぬしかなくね。」
「お前俺の事そんな下に見てるの!?嫌だよ俺死ぬの!例え振られたとしても死にたくないわ!」
「え、でも振られたら泡になるんだろい?」
「ちっちっち、甘いなブンブン君w誰がそんな事を決めたんだw」
「そういえば誰だったかの。」
「一応、お話の中では足をくれた海の魔女がという事になってますけれど・・・」
「そうそれよw」
「えーどれどれ?」
「別にさ、足を得る手段がそいつに頼む以外にないって限ったわけじゃないじゃんw」
ああ、とめいめいが呟いた。
わかった、棗のやりそうな事が。
「お前さん、自分でどうにか制約なしの足を生やす気なんか。」
「うわー。情緒も何もねー。」
「だって面倒じゃんwそんなルールとか痛みだとかなんだとかw七面倒くせえw」
「すげえ黒崎って感じだろい。発想が。」
「ふふ!でも、棗君なら出来そうです。」
「良いなー!紀伊梨ちゃんもそれやりたーい!」
これも大概、話を土台からひっくり返す発想である。
結ばれるか死ぬか、人間になるか人魚のままか、そんな板挟みの中での恋が人魚姫の醍醐味なのに、もうそれらほぼ全部吹っ飛ばすような反則技。
「出来なかったらどうすんのよ。」
「それはその時になってみないとなあwお前どう?」
「俺か?」
「俺は個人的にお前の発想に興味ありなのでw」
「紀伊梨ちゃんも聞きたいー!ニオニオどーお?」
(仁王君の人魚・・・)
(ま、面白そうって言えばそうだけどよ。)
(若干聞くの怖い気もする。)
何かドン引きするような話にならないだろうかと若干警戒されつつ、仁王のシンキングタイム。
「・・・・そもそも論じゃが。」
「うん!」
「何故俺が上がる側に回らにゃいかんのかっちゅう所から疑問じゃな。」
「お?」
「別に相手に来てもらっても構わんじゃろう?」
「そっちかーw」
人魚が陸に上がれるのなら、多分探したら人間が海に来れる何がしかもある筈。
仁王の発想はそれ。
「おー!良いね良いね、それも面白そうじゃーん!」
「で、でも来て貰うのも難しいのでは・・・」
「まあこいつ、そういうの得意だけどな。」
「確かに一筋縄ではいかんじゃろうが、それくらいの方が面白いぜよ。こっちの腕の見せどころじゃ。」
「まああんたなら出来そうって気はする。」
そもそも普段から似たようなことやってるし。
まして相手はお姫様だから多少世間知らずな所もありそうだし、口八丁手八丁で丸め込むのは易しいだろう。
何か発想が若干誘拐犯のそれだけど。いや、似たようなもんだけど。
「・・・因みにーw」
「ん?」
「もし陸に上がったとしてーw」
「上がらんと言うたじゃろ。」
「まあまあ仮にの話ですよwもし上がったとしてーw」
「はあ。」
「自分が死ぬ?wそれとも相手に死んでもらう?w」
「・・・ああ。」
「それ聞く?」
「普通は殺さねえだろい。」
「逆にさwもし殺すっていう側が居るとしたら此奴じゃねw」
「えー?そっかなー?」
「そんな事しませんよ、仁王君は優しいですから・・・」
「それも賛同しづらい。」
皆の視線を集めながら再度思案する仁王。
いや、即答しない時点で考えるんだ・・・と思っちゃうけど。
「・・・正直、そこに至ってまで生きていたいとは思わんのじゃが。」
「あ、そっすかw」
「ただ、一緒に死ぬんは悪くないかもしれんの。」
「「「「「え?」」」」」
「別に、殺してから自害しちゃいけないっちゅう決まりはないじゃろ。」
「ひ・・・」
「ひょおおおおお・・・・!」
「心中だーw怖ええええw」
「そこまでする?」
「別に元から何もかにも捨てて来とるんじゃ、死なば諸共っちゅうのも面白かろう?」
「お前だけだろい、面白いのは・・・」
巻き込まれる側はたまったもんじゃあるまい。言うなればストーカーに殺されるのとさして変わらないかもしれない。
愛が重いと言えば聞こえは良いが。
「・・・ま、引かれとるようじゃき冗談はこの辺にしておくぜよ。」
「あ、ああ良かった・・・そうですよね、冗談ですよね・・・」
「もー!びっくりしたよー!」
「えーw本当に冗d・・・む!」
「良いから良いから。そういう事にしといたら良いんだよ、掘り起こす事もないだろい。」
「柳生もそうだけど、マジで冗談だったらもっと冗談めかして。」
「面白くないじゃろう、すぐにバレる冗談なんぞ。」
だから面白いのはそっちだけなんだってば。
こっちは怖いんだってば。
言っても多分直らないだろうから、千百合はもう全てを諦めて紫希に水を向けた。
「紫希どう?」
「え?私ですか?」
「聞きたい聞きたい!あ、でも紫希ぴょんは本の通りにするような気もするなー・・・もっと色々やって良いんですよっ!」
「まだ何も言うとらんじゃろ。」
「でも気持ちはわかるw確かにあの通りにしそうな気もするw」
「どう?」
「ええと・・・ええと・・・」
自分が人魚だったら。
「・・・多分、陸に上がって・・・」
「ほうほう!」
「確かお話だと、王子様に他に好きな人が居ると分かるのは上がってからだったと思うので・・・」
「ので?」
「・・・それが分かり次第、一筆書いて、こっそり消えようかと・・・」
「・・・いっぴ?」
一筆書く。
というと。
「ラブレターを残して消えるっちゅう事か?」
「ああ、ううん・・・そうですね、やっぱりそれが目的で上がってきたわけではありますから、好きでしたというのは書かせて頂いて・・・でも、それがメインになりすぎないように、短い間でしたけどお世話になりましたとか、末永くお幸せにとか、そういう挨拶もちゃんと書いて、」
「きちんとしすぎだろw」
「そーいえば人魚さんってお手紙書かないよねー!なんでだろ?」
「単純に文字とか知らないんじゃないの。まあ紫希なら勉強得意だし、知らなくても最後に手紙残すくらいの知識はかき集められそうだけど。」
「でも自分のこと振り向かない相手に丁寧過ぎねえ?」
そんな気使わなくたって良いと思うんだけど。
苦笑する丸井に、紫希はでも・・・と俯く。
「振られるとわかっていても、好きな人なら嫌われたくないと思いますから・・・」
「ラブレター書いたくらいで嫌われないでしょw」
「そうじゃなくて、その・・・こう、王子様の立場になった時にどう思うかという話で、」
「えー!ラブレターそんなにめーわくかなー?」
「まあ良心の呵責は覚えるかもしれんが。」
「そ、それも違うんです!そうじゃなくてその・・・何というか・・・潔く去って行った方がかっこいいかなあ、と・・・」
「かっこいい?」
「その、ダメだって分かってるのに未練たっぷりに自分も好きだったみたいなことをあんまり長々と言いたくなくて・・・自分が情けないというか、少しでも誇れる自分のまま相手の前から消えたいというか・・・」
そもそもの自己評価が低い紫希は、振られるという事実を受け止めるのに抵抗がない。
いけるかもなんて最初から思ってないから、その分落胆もそれほどしない。ああやっぱりね、くらいにしか思わない。
「去り際あっさりしすぎだろい。」
「泡より簡単に消えそうw」
「あ、あはは・・・とはいっても、理想論というか。私今別に片思いの人とか居ませんし、もし本当に好きな人が居たら、そう思い描いてる通りに振る舞えないかも・・・」
「それはまあ皆そうなんじゃないの。多かれ少なかれ。」
「まあ、もしも話としては現実感が薄い話じゃからの。」
「そっかなー?」
「お前が一番現実感ないだろw」
「ま、初恋もまだだもんな。」
「えー!だから想像するのが楽しいんじゃんかー!」
「まあまあ・・・もしもの話って、楽しいですよ。それに、経験がなくても自分の考えを見つめ直すきっかけになったりしますから。」
「こんな話今後の参考になるわけ?」
「わかんないじゃーん!なるかもしれないじゃーん!」
そうだろうか。どうもそうは思えないけど。
と言ったところで紀伊梨は多分ピンと来ないだろうから、言いはしないけど。
「ま、良いや。さっさと借りよ、もう時間ないし。」
「何じゃ、お前さん達何ぞ借りに来たんか。」
「人魚姫読みに来たの!」
「今更w知ってるじゃんw」
「知ってるけど結構細かい所忘れてない?」
「ああ、そうですね。童話って結構、絵本なんかでも削られたり変えられたりしてますから・・・」
「よしゃ、探しにいこー!」
「どこにあると思う?」
「ええと、多分あっちの方かと。海外古典集が7番にあるので、その辺り・・・案内しましょうか?私もはっきりは分かりませんけど・・・」
「いや、良いよそこまでしなくて。分からなかったらカウンターで聞くし。ほら、行こ。」
「えー!皆で行こうよー!」
「こんな大勢でドヤドヤ探して何になるのよ、ほら。」
「行ってら。」
「・・・・・」
「何?」
一切動く気のなさそうな丸井を、千百合はすごくもの言いたげな目で見つめる。
そして、その言いたげな「もの」の中身を棗も仁王もなんとなく察して笑った。
「丸井は行かんのか。」
「え、3人も要らねえじゃん?要る?」
「そりゃ要るかって言われたら要らないけどさ。」
「えー!ずるいー!なら紀伊梨ちゃんもクロスワードで遊ぶー!」
「「お前は言い出しっぺだろ(い)。」」
「そーだけどー!」
「あっはっはっはっはw」
笑いながら席を立つ棗を見て、此奴は面倒見が良いなあなんて仁王は他人事のように思った。
「ほら、俺もついてってやるからw」
「あ、なら私が、」
「良いから良いからw俺ちょっと、座りすぎてケツ痛くなってきてたとこだしw」
「やたー!」
「はーあ。」
「今のため息はどっちだw探すのが面倒か、残すのが面倒かw」
「両方。」
言いながら奥の棚に消えていく3人を見送って、紫希と丸井と仁王はその場に残った。
やりかけのクロスワードと一緒に。
「嵐のようじゃったの。」
「人魚姫か・・・最近読んでないです。」
「俺そもそも中学上がる直前になるまで読んだことなかったんだよなー。」
「そこまで知らんなんてことがあるんか?」
「デ/ィ/ズ/ニーで見て知った気になってたんだよ。」
「ああ、有名ですもんね。結構原作と違いますけど・・・」
「な。俺も本の方読んでびっくりしたぜ、人魚姫死ぬし。」
「最近はハッピーエンドに変えられとる事も多いからの。」
「そうですね。小さい子はやっぱり人魚姫に感情移入して読んでしまいますから、原作の流れだとただ理不尽に思えたりもするんだと思います。」
「人生の理不尽さを教えるっちゅう意味では放って置いたほうが良い気もするぜよ。」
「良いんだよ、あんまり小せえ頃からそんな事知らなくて。」
「・・・・・・」
丸井のさらーっとした声音に、紫希は意識を奪われた。
今の丸井の声は、仁王に説教する声ではない。
意思表明とかそんな仰々しい声音でもない。
強いて言うなら、好物食べてる時に偶には違うもの食べたら?と聞かれて、良いのこれが好きだからとでも言ってるような感じ。
深く考えてない・・・というより、自分の中で結論が固まってるから殊更特別なことみたいに思ってないようなトーン。
きっと、無意識に普段から色々考えて接してるんだろう。
弟達が健やかに育つように。
「・・・ん?何?」
「あ、いえ。ごめんなさい。丸井君は本当に優しいなと思っったんです。」
「どの辺が?」
「お子様に優しいって事じゃろ。」
「ああ、今のやつ?でもあれくらいの事・・・」
「あれくらいじゃないです、優しいですよ。」
「・・・そお?」
「はい。」
「丸井はあれじゃな。」
「どれだよ。」
「自分はストレート志向のくせに、ストレートに弱いタイプじゃな。」
「うるせ!」
「?」
「えーっと、人魚姫人魚・・!あ!あった・・・ってちょっとー!なっちんなんで戻しちゃうのさー!」
「ちょっとパラ読みしてからにしろw」
「パラ読みしなくてもわかるんじゃないの。」
「翻訳に癖があると読みづらいんだよwラブクラフト読んでみろしw」
「えー!あれ怖いやつでしょー?嫌ー!」
棗はぱらぱら捲った後、紀伊梨にそのまま手渡してくれた。
どうやら合格らしい。
「へっへへーん♪楽しみだ、なー・・・」
「・・・何、急に。」
「やー、よく考えたらあれだよに?これってさー、そーんなに楽しみにするようなお話じゃないってゆーか?」
「まあ読んでて爽快感がある作品じゃないよねw悲恋ものだからw」
「わかってた事じゃん。」
「そーだけどさー。」
悲しい話というのは、読んでると段々引っ張られて沈んでくるのだ。
紀伊梨みたいなタイプは特にそう。何か、現実でも恋ってこんなものなのかなー・・・とか思ったりしてしまう。そうじゃないって頭ではわかっていても、感覚的に。
「・・・ねー千百合っちー。」
「あ?」
「もしさー、紀伊梨ちゃんとか紫希ぴょんとかが人魚姫みたいになっちゃったらー、」
「まだその例え話終わってなかったのか。」
「じゃなくてー!こーいう悲しい片思いしちゃったらっていう話!」
「ああ、そっち。」
てっきりまだ人魚になったらのもしもを引きずってるのかと思った。
「こうさー、貴方を殺して私も死ぬわ!みたいな、」
「仁王に引きずられるなよ。幾ら片思いが実らなくても、そうそうそんな事にならんわ。」
「なるかもしれないじゃん!」
「ならない。なりません。」
「千百合っちはゆっきーが居るから大丈夫なだけだよー!紀伊梨ちゃん達は、」
「あんたも紫希も、友達居るし足も声も勇気もあるでしょ。」
お話の中での成り行きが成り行きだから仕方ないといえば仕方ないが、あんな無力化されきったお話の中のお姫様と自分達を一緒にする方が無理があると思う。
ここは陸で自分たちは人間。
頼れる人だって、痛くない足だって、連絡するツールだってある。
そして行動する力も。
こんな結末になるかもなんて考えるだけ無駄。
だってならないもん。
千百合はそう思う。
「違うの?」
「・・・ううん!そーだね、そーだよね!」
「おいw何話し込んでんの、借りるんじゃないのw」
はーい、と返事する紀伊梨の声。
カウンターに向かっていく足。
その手に人魚姫があっても、もう下を向く気分は消えていた。
100話記念くじびき企画
お題:No.087 人魚姫
くじ結果:30秒→0:立海オール
ご参加ありがとうございました!
5/5
[*prev] [next#]
[page select]
[しおり一覧]
番外編Topへ
TOPへ