100話記念企画 No.053


そんなこんなで数日経ち。
もう随分減って、とうとう空になる瓶までちらほら出だした頃、可憐は今日も新しいフレーバーに挑戦しようとしていた。

「今日はどれにしようかなっ。」

今日は忍足が居ないかもしれない日。
日直の仕事があり、いつまでかかるかわからないから、もしかしたらほぼ行けないかも・・・と連絡を受けてここに来た。
どっちにしろ自習は必要と思うので、一人なのは全然構わない。

「んーと・・・あっ!これ試してないっ!」

蓋は開いているから、誰かがもう使ったのだろう。
ラベルのトップにはPEACH。と書いてあった。

(ピーチ・・・桃だっ!美味しそう、今日はこれにしよっ!)

桃なら紅茶だな、とか思っていそいそ準備する可憐は気づかない。

PEACH。とラベルには書いてある。それは本当だ。
ただし、それはラベルトップの話。
その真下に、多くのラベルではもっと小さい印字で消費期限が書かれているのに対し、このラベルにはもう一行挟まっている。

LIQUEUR。
そう、これの正式なフレーバータイトルはPEACH LIQUEUR。
一行で収まらなかったから、行替えされているだけ。

可憐は全くそんな発想もない。

「スプーンに一杯入れて・・・よしっ!頂きますっ!」




(10分遅れか・・・)

忍足は部室に早足で向かっていた。

思っていたよりは早く切り上げられたが、それでなくても長いとはいえない昼休みの中で10分のロスは小さくない。
可憐の事だから自習はしているだろう。自分も早く合流しないと。

「可憐ちゃん、お待たせ。遅れて堪忍な。」

「・・・・・・」

可憐は机に座っていた。
が、動かない。
机に広げてあるノートを俯いて見ているだけで、こちらを向きもしなければ何か言ってくるわけでもない。

「・・・?可憐ちゃん?」
「・・・・・」

え。
何だ、どうしたんだ。
遅れたから怒ってるんだろうか。いやでも、遅れた側である自分が言うのも何なんだが、普段の可憐ならこれしきの事でこんな怒り方はしない筈。
居ない間に何かあったのだろうか、と近づく忍足の鼻先を桃の香りが掠めた。

「可憐ちゃん?どないしたん、具合でも悪い・・・」
「座って。」
「え?」
「座ってくださいっ!そこにっ!」

据わった目つきで言い放つ可憐に、忍足は肩を叩こうとした手を引っ込めた。

何だ。
いや、何だ以前にこれは取りあえず言うとおりにした方が良いのか。

「・・・・」
「椅子じゃなくてそこっ!床っ!正座しなさいっ!」
「・・・はい・・・」

やばい。
どうしよう。
状況が想定外過ぎて頭が働かない忍足が取りあえず指示通りに床に座ると、可憐も座っていたパイプ椅子から降りて真向いの床に正座した。

(自分も降りるんや・・・)

「忍足君っ!聞いてるんですかっ!」
「はい、聞いてます。」
「大体忍足君はいつもそうなんだからっ!人が話してるのに、すぐ自分の頭の中にさっと引っ込んじゃってっ!」
「はい。」
「でも人の話はちゃんと聞いてるしっ!」
「どうも。」
「そうやって要領の良いことばっかりしてるから、よくわからない人扱いされちゃうんだからねっ!」
「仰る通りで。」
「もっとちゃんとこっちの話聞いてっ!ちゃんと心を込めて聞いてっ!」
「返す言葉も。」

何なんだろう、これ。
一体何がどうなって自分は責められているのか。

「ほらまたっ!言った端からっ!」
「はい。」
「・・・・・・」
「・・・あれ、可憐ちゃん?」
「・・・私忍足君のそういうとこ嫌いっ!」
「堪忍「ほらっ!そういうとこっ!」え?」
「すぐそうやって謝って譲るんだからっ!」
「そっちなん?」
「どうせ・・・」
「?」
「どうせ忍足君から見たら私なんてドジで馬鹿なちびですよっ!」
「話が飛んだで。」

誰も一言もそんな事言ってないのに、何故そんな話に。

「そうやって、はいはいって言っておいたら私の事あしらえるって思ってるんでしょっ!」
「思ってません。」
「取りあえず怒ってるっぽかったら謝っといたら良いって思ってるんでしょっ!」
「そんな事ないて。」
「子供のわがまま聞いてあげてるくらいに思ってるでしょっ!そりゃ確かに体格は子供っぽいし、性格も大人っぽいわけじゃないけどねっ!だからさっきみたいな時も途中から注意が飛んじゃうんだろうけど、私だってーーー」
「可憐ちゃん。」

ちょっとどうかなと思いつつ、忍足は右手で物理的に可憐の口を塞ぐ。
女の子にこんな事するもんじゃないとは思ってるけど、今のこのテンションの可憐にこっちの言い分聞いてくれは通らないであろう。

「むー!」
「堪忍な、でも聞いて欲しいねんけど。」
「むー!むー!」
「俺は確かに、人と話しとって途中から自分の考えに意識持ってかれる事はあるわ。それは認める。堪忍な。」
「む!」
「でもそれは性格的なもんいうか俺の性質の話であって、別に可憐ちゃんやったら適当に扱っといてええとかそんな事は思うてへんから、それは勘違いせんといて。」
「む?」
「謝ったり譲ったりもそうやで。俺は比較的謝ったり譲ったりに抵抗があらへん(某従兄弟を除く)から、取り敢えず場を収めるために適当に謝ったりして見えるかもしれへんけど、俺かてちゃんと考えて謝ったりしてるさかい。」
「む・・・・」
「嫌やったら嫌やて言う。謝る筋なんかあらへんのに謝ったりはせえへん。譲りたないと思ったら譲らへん。俺かて人並みにそういう事もするで。」
「・・・・」
「謝らなあかんなて思うから謝ってるし、譲ってもええなと思うから譲ってんねん。もし俺が要求されたら何でも通すような奴やと思うてたんやったら、それは大きな間違いやで。」
「・・・・・」
「わかってくれたやろか。」

取り敢えず大人しくはなった。
ただ、静かになるにつれて俯きだしたから、逆にそっちが心配だけど。

今日は何かちょっと、いつもに比べてどこかが変だし。
もしかして今度は叱られたと思って、過剰に落ち込んで泣きそうになったりしてないだろうか。

「・・・可憐ちゃん?」
「・・・・・・」
「可憐ちゃーーー」


「zzzzz・・・・・」


え。

声なき声が忍足の口から零れ出た。

可憐は肩を揺すられると、その力に全く逆らう事無く、正座状態の忍足の方に倒れこんだ。
しかし、それでも起きない。
健やかに寝息を立てている。

「・・・・・・」

何だろう。
何か既視感を感じる、この感じ。状態というか、雰囲気的に。

何か、家で以前こんな事があったようななかったような。
あれは確か、姉がジュースと間違って親のカクテルをーーー

「まさか・・・」

正座状態のまま視線を机の上にずらす。

デスクの上に、今日使ったのであろう氷砂糖の瓶。
そのラベル。

「・・・ピーチ”リキュール”。」

成程。
犯人はお前か。
いや、転じて自分と言えなくもないか?持ち込んだのは自分だもんな。

まあいずれにしろ、後の祭り。

「zzzz・・・・」
「・・・保健室やな。」

まあ先生には、間違って洋酒入りのお菓子が口に入ったと説明すれば通るとして。
起きたら本人には何て言おう。
そもそも記憶あるのだろうか。なかったら、説教上戸の気がある事は告知するべきか。

可憐を運ぶ準備をしつつ、忍足は真剣に考えて苦笑した。




100話記念くじびき企画
お題:No.053 氷砂糖
くじ結果:18秒→8:主4×忍足

ご参加ありがとうございました!
5/5


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