100話記念企画 No.053



更に次の日。
今日は忍足より早く来た可憐は、一つの瓶をじっと見つめていた。

「・・・・・」

可憐や忍足が使い始めて以降、「あ、それマジで気軽に使っても良いんだ」とわかった部員達がちょいちょい使うようになり、未開封だった瓶が続々知らない間に開けられ始めている。

そんな中で、未だに一切開かないこの緑の瓶。

SAGE。
セージ。と読めるが、それで正しいのかどうかも。

「可憐ちゃん。お疲れさん。」
「あっ、お疲れさまっ!」
「ああ、今日はそれにするん?」
「う、ううんっ!辞めとくよっ!」
「なんで?」
「あの・・・よくわからなくてっ。」
「?わからへんて、紅茶とコーヒーどっちに合うかみたいな話?」
「じゃなくてっ!ラベルを見ても、何味なのかわからなくてっていうかっ。」
「貸して。」

一体何味だ、と思いながら忍足が預かる。

「セージ味・・・」
「私、そもそもセージって何なのかもよく知らなくてっ!忍足君、知ってるっ?」
「セージそのものなら多少は。まあ、言うたらハーブやねんけど。」
「ハーブ・・・」

ハーブの事なんて可憐はあまりよく知らない。種類なんて尚更だ。

「ええっと、つまりこれを紅茶に入れたらハーブティーになるって感じっ?かなっ?」
「いや、そうと安易には言われへんわ。ハーブは種類と味の個性が強いさかい、これで美味しくなるか言われたら。」
「そ、そうなんだ・・・」

忍足も左程詳しくないからそこまでは知らないが、実はセージというハーブはハーブの中でもかなり好みが別れる。
そもそもハーブそのものが万人受けする味とは言い難いもので、その中でも結構尖った味と香りを誇るセージ。の、氷砂糖。

「確かに、こら辞めといたほうがええかも・・・」
「・・・・・」
「・・・食べてみたい?」
「えっ!?あ、い、いやそんなっ!そんな事は・・・」

(案外こういうチャレンジ精神は旺盛なんやな。)

興味ありますと顔に書いてある可憐。
可憐は結構手堅く慎重派な場面も多いから、こういう顔は珍しい。

「ええで、開けても。」
「で、でもっ!どうしても口に合わなくて残っちゃうかも・・・」
「ええて、別に。こういう味はどうしてもそうなってまうし、今開けとかないつまで経っても開きそうにあらへんし。」

そう言って忍足が瓶を開けてやると、いかにもハーブ然とした香りが鼻をつく。
うん。この時点でパスな人はやっぱり結構居るだろう。

「じゃ、じゃあ・・・ちょっとだけ、お湯に入れて溶かしてみて・・・」
「お湯?」
「紅茶とコーヒー、どっちに入れたら良いのかもわかんないしっ!」
「ああ、まあ・・・確かに、味がわからへん以上それが安全やろか。」

何か氷砂糖を試すテンションじゃなくなってるけど、まあしょうがない。
未知の味って怖いし。

でもお湯に入れるっていうのもそれはそれで誤魔化し効かなさ過ぎて怖そう・・・と思う忍足をよそに、可憐はジュースサーバーから白湯を入れる。

そしてスプーンで僅かに掬って、一垂らし。かき混ぜ。

「・・・・」
「・・・香りがもう、威嚇してくるな。」
「い、いきますっ!」
「ちょっとずつの方がええで。」

鼻から抜けていくハーブの香りに戸惑いつつ、ちみ・・・と一口含んでみる。

「・・・・・・」

噛み締めてみる。

「・・・・・・」
「どない?」
「・・・・お薬っぽい味がする・・・」

この、苦みと渋み。それでいて妙に爽やかなハーブ感。
また、そもそもは氷砂糖なので甘味が強い上でそれらの味を感じる。それがまた余計薬っぽく感じてしまう気がする。

「ちょっとええ?」
「どうぞ・・・」
「・・・漢方に近い気分になるな。」
「うん・・・」
「どないする?辞めとく?」
「・・・・ちょ、ちょっと、紅茶に入れてみよっかなっ!コーヒーは無理があるかもしれないけど、紅茶には美味しいかも・・・」
「・・・無理せんときや。」

未だに湯の底に沈んで、セージのフレーバーを濃くし続ける緑の氷砂糖。
これは売れ残りそうだなあ、と忍足は紙コップの底を見て苦笑した。


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