100話記念企画 No.012


仁王雅治という男は、どっちかというと勝手な男である。
少なくとも人より誠実な性格をしてるとは言いづらく、人のことを引っ掛けるけど引っ掛けられるのは御免だし、人の世話には遠慮なくなるけど人の世話はしたくない。

まあ周りもそういう奴だと分かってはいるし、分かってる上で交友関係を持っているのだから、ある程度のことは許容されている。
ある程度のことは。

そのある程度を偶に越すと、こういう事が起きるのだ。





「うええええええん!うえええええん!あーーーーーん!」

(まずい、しくじったな。)

仁王は泣き叫ぶ紀伊梨を前に、ガシガシ頭をかいた。

紀伊梨は今日、小テストを控えていたのだ。しかも結構大事なやつを。
だから皆から頑張れよ、赤点取るな、ご褒美やるからと言われて、紀伊梨はご褒美として紫希にお菓子を貰えることになった。今流行りのルビーチョコレートを使ったチョコ菓子である。
そして紀伊梨は見事今日テストをクリアし、ご褒美をゲットしてうっきうきで中庭で食べようとしていた所を、仁王の悪戯に引っかかったのだ。

悪戯といってもそんな大したものじゃなかった。ちょっとくすぐっただけ。
ただ、そのちょっとのくすぐりで紀伊梨は手元が大きく狂い、貰ったチョコレートをぽーんと飛ばしてしまって、挙句に中庭に鎮座している池にボチャンしてしまったのだった。

幾ら綺麗とはいえ、池は所詮池である。
落ちたチョコを拾って食うと言って聞かない紀伊梨を止め、じゃあ紀伊梨ちゃんのチョコはと聞かれてわんわん泣かれているのが現状。

仁王も分かっている。これは自分が悪い。文句なく自分が100%悪いのだ。
でも手作りお菓子の代わりなんて、新しいのをやると言っても出てくるもんじゃないし。更に言うと、お前の過失なのになんで紫希が作り直すんだと言われると、もうぐうの音も出ない。

「・・・分かった、今日は無理じゃが必ず埋め合わせはするダニ。だから取り敢えず泣き止んでくれんか。」
「うえ・・・・?」
「方法は・・・まあまた考えるし、なんなら希望を聞いてやってもええから。」

正直、紀伊梨に泣かれるのは凄く弱るのである。
普通に女子が泣いてるだけでこっちは面倒なのに、紀伊梨に関してはなんだか小さい子を虐めてるみたいな気まずさが+でついて回る。
遠慮なく大声で泣くから注目は浴びるし、逃げても人を名指しで酷い酷いと叫ぶから結局ひそひそ言われることになるし。

「・・・・・・・」
「・・・・どうじゃ?」
「・・・・埋め合わせって何ー!そんなのより紀伊梨ちゃんチョコが良いーーー!」

わあああああんと再び泣き出す紀伊梨に、泣きたいのはこっちだと仁王は内心でぼやいた。

1/6


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]


番外編Topへ
TOPへ