100話記念企画 No.012



「・・・・っちゅうわけなんじゃが、どうしたらええかの。」
「あはははは!」

泣きはしなくても遠慮なく笑うのは幸村。

今は部活が終わり、更衣室で皆思い思いに会話しながら帰り支度をしている所だが、おかしくて幸村は思わずシャツのボタンを留めていた手を止めてしまった。

「ううんそうだね、チョコレートの埋め合わせはチョコレートでした方が良いと思うけど。」
「作れっちゅうんか?」
「いや、それよりは市販の方が良いよ。五十嵐はこういう場合はある意味冷たいというか、美味しくないなら美味しくないって言って突き返すタイプだからね。まして今は怒ってるわけだし、頑張りに免じてとかそういうジャッジは期待できないよ。」
「やっぱりそうか。」
「心がこもってるならまだしもね。正直、面倒だとしか思ってないだろう?」
「まあな。」

つくづく運が悪かったなと思う仁王だが、ここで悪いことしたなじゃなくて運が悪かったなと思うあたりがいかにも仁王。

「・・・因みに幸村。」
「うん?」
「俺もついでじゃとかいうて貰うたし、お前さんも同じのを春日から貰ったじゃろ?」
「残念。もう食べたんだ。」
「はあ・・・」

あわよくばそっちをくれないかな、代わりに幸村に従うから、とか一瞬思ったのだが、あっさり却下された。

「といいますか、ご自分の分はどうなさったんです?」
「食うた。こうなるとわかっとったら置いといたんじゃが。」
「へえ?仁王にしては珍しいな、甘いものをすぐ食べるなんて。」
「まあ今はもう気温が上がりだしているからな。溶けたりしてどうにかなる前に食べてしまいたいという心理は働くだろう。」
「柳、そういうお前さんは・・・」
「俺も間もなく食べた。もうないぞ。」

そう、これも仁王の頭痛の種の一つであった。
初夏である。今は初夏。
これからチョコレートからドンドン遠い季節になっていくのに、チョコレートの埋め合わせするとかいかにも面倒くさい。

せめてバレンタインの時期なら。
いやでもそれもきついな、あの売り場に突っ込んでいくのが。

「そんな面倒だったら、そもそも悪戯とかしなけりゃ良いんじゃねえの?」
「そうだ!そもそもお前の日頃の行いが悪いからこういう事になる。」
「しょうがないじゃろ。半分癖というか、本能なんじゃ。」
「本能ねえ・・・っと!」

丸井の鞄の隙間から箱が落ちた。
それにすかさず手を伸ばす仁王。しかし、一瞬丸井の方が早い。

「・・・・・」
「お前な!」
「なんじゃ、俺はただ拾うてやろうと思っただけじゃき。」
「嘘吐けよい。やらねえからな、絶対やらねえからな。」
「というか、ブン太はまだ食べてなかったのか?」
「ん?うんまあ。なんとなく。」
(またかよ・・・・)
「なあ丸井。」
「ん?何?」
「1000円でどうじゃ。」
「却下。」
「2000円。」
「だーめ。」
「おい、みっともないぞ!金でなんとかしようとするな!」
「わかっとるが、五十嵐のお眼鏡に敵う埋め合わせを探す方が辛いんじゃ。」

会話を横目で見て微笑みつつ、幸村は着替えながらスマホを操る。

「・・・あ。仁王?」
「ん?」
「これなら埋め合わせになると思うけど、どうかな?」

そう言って幸村から手渡されたスマホを見ると、おそらく幸村が探してくれたのであろうチョコレートショップが表示されていた。
チョコレートドリンクの専門店。ルビーチョコレートの品もあり。1杯の値段、大体600円前後。

「・・・・・・」
「お!良いじゃん、美味そう!」
「ああ、それに値段もいい感じだしな。ブン太に2000円出すなら、ここでドリンク2杯の方が安くつくんじゃないか?」
「・・・幸村。」
「うん?」
「これは、ここに行って買わんといかんのじゃな?」
「そりゃあね。フラペチーノは普通通販が出来ないから。」
「気が進みませんか?」
「ああ、丸井に2000円払う方が楽じゃ。」
「そこまで嫌かい?」
「嫌じゃ、色々と。」

そもそもその気もないのに、見てくれがデートに見えるのが嫌。
他の者ならいざ知らず、相手が紀伊梨なのがもう一つ嫌。
更に、単純にデートに見えるだけならまだしも半分お守り状態になるのがもっと嫌。
極め付け。多分誰かの顔を借りて行ったら、紀伊梨は仁王の姿で居ろと言うだろう。ああ嫌。

こんなに気が進まないのに、われらが神の子はそれはいい笑顔で言うのだ。

「まあ仕方がないよ。今回は仁王が悪いんだから。」

わかってる。どうしようもない、この成り行きでは。
なんだかちょっと幸村が面白そうなのは見ないふりをして、仁王は重い指先を動かしてスマホを点けるのだった。


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