100話記念企画 No.042
ニャーン。

「・・・・んん〜・・・」

ニャーン!

「・・・いった!痛い!わかった、分かったわよ起きるわよ!も〜・・・あふ。」

私の名前は荒巻紀子。
神奈川は湘南に住む、しがない実家住まいのOLだ。

家族構成は母と父と弟と、後こうして朝になる度にわざわざ起こしてくる猫1匹。
休みの日くらい寝かせてくれれば良いのに。

(・・・・そういえば。)

朝日に目を眇めてブラインドを微かに開けて、窓から外を見る。
時刻は7時。

「・・・・今日も通らないなあ。」

なーん、と鳴きながら足元に来る猫を抱き上げて、私は10分ほどそうしていた。視界に誰も通らなかった。






その後、パジャマのまま階下に降りて母の焼いてくれたトーストを齧りつつ、私は口を開いた。

「おかーさん。」
「んー?」
「お隣の丸井君さー。あの、ブン太君の方。」
「ブン太君?ブン太君がどうかしたの?」

丸井ブン太君というのは、お隣に住む男の子である。
両親とお婆ちゃんと3兄弟の6人家族で、ブン太君というのはその兄弟の一番上の子だ。まあとはいっても今年中学に上がったばっかりだから、私からすれば3人とも年が離れすぎてて子供でしかないのだけど。

話を戻すが、うちの母と丸井家のお母さんは何かと話が合うらしく、お隣さんということでまあまあの隣人付き合いをさせて貰ってる。だから、他所の家の事といえど知ってることは多いのだが。

「ブン太君ってさ、不登校なの?」
「は?」
「いやさー、最近朝に外見ても全然見かけないなーと思って。小学校の頃はよく見てたのに。」

私の会社は週休2日のシフト制である。
つまり休みが平日になるのはままある事で、少し前まで朝起きて外を見たらランドセルをしょって元気に登校するブン太君が通るのは日常だった。

ところがだ。中学に上がってからというもの、彼を一切見かけなくなった。
最初は学校の距離が変わったから時間が変わったのかと思っていたのだが、私が早く起きようと遅く起きようとちょっと待ってみようと、ブン太君が家を出る姿を見ることはなかった。

なので信じられないと思いつつ、もしやブン太君は中学で何かがあって不登校になってしまったのか?とここ最近考えていたのだ。
いやまさかあんな明るい子がと思うけど人生何があるかはわからないし。まさかお隣さんに会っても、不登校ですか?とか聞けないし。

・・・なんて思っていたら、母は実に冷めたような呆れたような目で私を見た。

「な、何よその目は。」
「馬鹿だねえあんた・・・そんなわけないだろ?」
「でも実際、」
「ブン太君は元気だよ!何も変わってない、明るくて学生を楽しんでる良い子のまま!朝見ないのは、部活があるからだよ。」
「部活?」
「テニス部だってさ。名門で厳しいらしくて、朝の5時から自分の弁当と家族分の朝食を作ってすぐ出て行くんだって。」
「朝の5時!?うっそ、マジか・・・」

信じられない。
マジで自慢にもなっていないが、この荒巻紀子、人生は適当にやり過ごすがモットー。
今まで生きてきて努力した経験がないとは言わないが、そんながっつり朝練があるような部活なんてやったことない。しかも自分で弁当とか。家族分の朝食とか。
え、どうしよう。お隣の男の子が偉すぎて、とても頭が上がらない。

「・・・・・はあ。」
「何よ?」
「良いや?爪の垢でも煎じて飲ませてもらったら、あんたも夕食くらいは作るようになるのかねえと思っただけよ。」
「さーて何のことやら・・・・」

藪蛇だ。
私は母を意図的に無視して、トーストを更に齧った。






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