100話記念企画 No.042





それから数日経った頃だろうか。
うっかり午後勤とか言ってしまったばっかりに朝のゴミ出しを言いつけられてしまった(そのくらい言われなくても手伝えという声はこの際無視する)私は、ごみ収集ポストの所でまさにその丸井家のお母さん・・・直美さんに鉢合わせした。

「あら、紀子ちゃん!おはよう!」
「おはようございます、おばさま。」
「元気にしてた?なんだか最近見なかったわね。」
「そうですね。ちょっと、最近は仕事が立て込んでいたものですから。」

そう、仕事がね。気に入りのアパレルブランドの新商品をチェック・吟味するという仕事がね。荒巻紀子、外面の良さだけには定評があります。

「そうだ!紀子ちゃん、時間あるかしら?ちょっとで良いの、家に寄ってくれない?」
「?良いですけど、どうしました?」
「大した用じゃないのよ?最近ね、貰いものでリンゴを沢山頂いちゃって。ブン太がアップルパイにして消費してくれたから、良ければお裾分けにね。」
「そうなんですか!有難うございます。」

上品ぶってるけど、内心で私は「っしゃあおらあ!」と叫んでガッツポーズをしている。
そう、お隣のブン太君はなんと、中学男子にして凄いスイーツ作りの腕前の持ち主なのだ。
度々こうしてお裾分けを貰っているが、未だ嘗て不味いものを貰った試はただの一度もない。え?女子力でぼろ負けしてる?そんな事はもう数年前から知っている、パンケーキを焦がすタイプの私。

「というか、母から聞いたんですけど。」
「うん?」
「ブン太君って、今何か部活すごく頑張ってるんですよね?何か、朝練とかも超早く行ったりして。それなのにアップルパイとかも作るとか、なんていうか本当出来る男子!って感じですよね。」
「やだ、紀子ちゃん大袈裟よ!ブン太は好きなこと好きなようにやってるだけなのよ。まあ親としても毎日楽しそうだし、体壊したりっていう感じもなさそうだから野放しにしちゃってるけど。」
「いえ、そのアクティブさが凄いんですよ。」

だって、自分が同い年だった時決して同じようには出来なかった。親に好きなことしていいと言われても、えーだって怠いし〜とかいって寝転がってポテチ齧りながらマンガ読んでるような子供だった。
この生産性の違いはなんなんだろう。持って生まれた資質かな、やっぱり。

でも良かった。
本気で引きこもりを心配していた身としてはホッとした。(言われてみれば何故最初から朝練っていう発想にならなかったんだろうかと思うけど。)

「中学生活楽しんでるんですね。やっぱり青春の本番って中高生からなんで、ブン太君が楽しそうで良かったです。」
「そうね。新しい友達も沢山出来たみたいだし、良いことだけど名前とかを覚えるのが大変よ。」
「あー、やっぱりクラスの友達に部活の友達に、元々の友達にって増えていきますよね。あ!それに、好きな女の子とか・・・って、まあまだちょっと早いですかね?本当に中学上がったばっかりだし、」
「ああ、でも居るわよ?」
「え?」
「まだ今は好きとかっていうほどじゃないみたいだけどねえ。意識してるのか無意識なのかは知らないけど、よく名前の出てくる女の子が居るのよ。春日さんって言うんだけどね。」
「そうなんですか!?」

マジか。早。まだ6月頭だから、2か月くらいしか経ってないけど。
と思ってしまうのは、私が中学生時代そういうのにビックリするほど縁がなかっただろうか?

「え、どんな子ですか?やっぱりクラスのマドンナ的な?あ、いやでもどっちかというと部のマネージャーさんかな?」
「それが違うのよ。マネージャーでもなければクラスも違うの。友達の友達ってところから友達になったんですって。」
「へえ!え、何か結構関係が遠いというか・・・」
「そうなのよ、関係が遠いのよね。そもそもその直接友達になった方の子も女の子だし、もっと立場的な距離が近い女の子は幾らでも居るんだけど、不思議とその子の方がよく話に出てくるのよ。何か楽しそうだし。」
「はあー・・・・」

なんて話してる間に、私たちは丸井家前に着いた。
その為、この話はここで切られてしまった。

「じゃあ紀子ちゃん、悪いけどちょっと待ってね!持ってくるから!」
「あ、いえお構いなく。時間ありますし、急がなくて全然大丈夫なんで。」

私はこの時点で一つ思い違いをしていた。

結局私はこの日その女の子について、情報としては大した事を知れなかったわけだ。その為勝手にイメージを自分の中で作り上げてしまったわけだが。

ブン太君に気に入られてる女の子。
とだけ聞いて、私が真っ先に思い浮かべたのは「極めてブン太君に似ている女子」だった。

明るくてはきはきしていて、何かしらスポーツをしているアクティブでタフな女の子。
きっとファッションなんかも、制服のスカート詰めたりメイクもばっちりしたりして、それで甘いものが好きなんだろうな。大食い・・・と、スイーツづくりの腕前は、流石にちょっとブン太君には負けるかもしれない。あの子は相当だから。
でもきっと、概ね似たような感じだ。

と、思っていた。実に勝手に思っていた。
一言もそんな事は言われてないが、私はすっかり「きっとそうだろう」というイメージに囚われてしまったのだ。

(いやあ、若いって良いなあ・・・)

「ごめんね、お待たせ。紀子ちゃん、これ。」
「あ、有難うございます、頂きますう。」

まあ、そんな妄想すらもアップルパイを受け取った直後にコロッと頭の隅に追いやられたのだが。



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