100話記念企画 No.042




それから更に数日経った頃。
私は早朝の公園を歩いていた。

歩いていたというより、通っていた。コンビニと家の間の抜け道というやつだ。

「ふあ・・・」

(ねむ・・・・お?)

あそこに走っている赤い髪は。もしや。

「・・・ブン太君?」
「ああ、荒巻さん。おはようございます!」

やっぱりブン太君だった。
Tシャツに短パン、スニーカーに首から下げたタオル。
あからさまなランニングの恰好。

え・・・今何時・・・と内心でちょっと若者の体力に引きつつ、私は軽く片手を上げる。

「おはよ。走ってるんだ、偉いね。こんな朝早くから。」
「ああ、まあ。朝練が土曜は7時からなんで、こんくらい早めにしとかないとなんですよ。」
「え”」
「え?」
「あ、いや。何でも・・・」

あるんだ?朝練、この後あるんだ?
嘘だろマジかよ。どんだけガチなんだ。すげえ。いくら爪の垢を煎じられてもこんな風にはなれない気がする。

「荒巻さんは?」
「え?」
「散歩?」
「ああ・・・まあ、うん。そんなとこ。偶にはね。」

はい、嘘でーす!
私が早起きなんかする筈ありましぇーん!見栄でーす!

本当はね、早起きというより徹夜なの。貯めてたドラマ一気見したらうっかりオールになっちゃって、ちょっと睡眠不足のテンションでコンビニの中華まんが食べたくなったの・・・なんて。あれ?こうして整理してみると、駄目な大人過ぎない?
いやいや気のせい気のせい。ブン太君の方がしっかりし過ぎなのよ、うん。

「それはそれとして!おばさまからも聞いてたけど、テニス頑張ってるんだね。楽しそうで良かっーーーー」

ワン!ワン!

「おう、」

びっくりした。
いきなり背後から犬の鳴き声が。
こら、シロ!という飼い主さんらしき人の声も聞こえる。いやあ、犬飼うのも大変ですね。

これは完全に余談だが、私は猫はギリギリ飼えても死んでも犬は飼えないと自分で思っている。
散歩させるとか絶対無理。体力が持たない。

そういう意味では犬飼いの人って根性あるよなあ・・・とか思っていると、ブン太君はシロとやらの方を見ておかしそうに笑っていた。

「あいつまた吠えてら。」
「ん?知ってる犬?」
「ああ、まあ。一方的に。」
「?」
「前にも友達が吠えられててさ。ほら、前に話したマフィンの、」
「ああ、大人しい子。この辺の子なの?」
「ちょっと遠いですよ。駅向こうの方。学区違うし、会った事なかったけど。」
「おお・・・結構詳しくお家知ってるんだね。」
「位置知ってるだけですけどね。こないだ2人で遊びに行った時に、門限の逆算に家どこって話になってーー」
「ん?」
「え?」

思わず話を切ってしまう私。いや、これは切っちゃうでしょ。

「・・・遊びに行ったの?2人で?」
「?はい。」

ブン太君と。大人しい引っ込み思案な女の子が。2人で。
・・・かなりの失礼を承知で言うが。

「・・・楽しかった?」
「楽しかったですけど?」
「あ、そう、それなら良かった。あ、ごめんね!他意はないの。ただその、ブン太君って大人しいタイプじゃないから、大人しい子と2人っきりって楽しいと思うのかなーと思って。」
「まあ確かに、性格全然違いますけど。」
「だよね?」
「でもそれはそれとして楽しいですけど?此処で会った時も散歩したけど、その時も楽しかったし。そうそう!その時、俺ランニングしてたんですけどーーー」

うん。
うん。

と話を聞きながら、私は段々話の中身から意識が逸れていった。

「それで・・・荒巻さん?」
「ん?」
「どうしたんですか?あ、眠い?」
「あ、ううん。ちょっとびっくりして。」
「びっくり?」

(ブン太君ってこんな笑い方するんだなあ・・・)

この子は基本ニコニコしていて、笑顔がデフォルトなのだ。
何か食べてる時とか、話してる時とか、弟の相手してるときとか、大体いつも楽しそう。生来の明るさが顔に出てるような笑顔でいつも過ごしている。

だから私はちょっとびっくりしたのだ。
いつの間にこんな大人みたいな顔で笑うようになったんだろう。
勿論今まで通り楽しそうな顔なんだけど、それだけじゃなくてなんというか、優しさが滲んでくるような顔。

(・・・あ!)

「ねえブン太君?」
「ん?」
「ごめんね、話切っちゃうんだけど・・・その女の子って、春日さん?っていうお名前だったりする?おばさんからちらっと聞いたんだけど・・・」
「ああ、うん!そう、春日。」

(マジか?)

ということは、私が最近聞いていたブン太君の女の子の友達は蓋を開けたら全部同じ人だったわけだ。家で名前が出てくるのも、お菓子が得意なのも犬に吠えられたのも。
そしてもっと言うと、多分。

「・・・友達になるの、苦労した?時間がかかるタイプって前に言ってたよね?」
「あ、そうそう!結構喋ってたのにさ、友達になってくださいとか食堂で言われた事あって。」

(やっぱりなあ。)

私は思い違いにこの時気づいた。

春日さんとやらがアピールしてきてるんじゃない。
ブン太君の方で近寄って行ってるんだ。

そうか。なるほど。おばさんはやっと全貌が分かったよ。

「・・・ブン太君はさあ。」
「はい?」
「春日さんのどういうとこが好きで友達になったの?」
「どう?どういう・・・」

ブン太君はちょっと考えた。
まあそうだよね。友達に対して理由を出せって言われても困るよね。

まあぶっちゃけ、理由なんてなんでも良かった。

「・・・さあ?」
「わかんない?」
「はい。まあ、なんとなく?」

そう言うブン太君の笑顔は、さっき私が見てビックリした大人びた笑顔だった。

これこれ。これがもう一回見たかっただけ。

「・・・そっか!まあ何にせよ、楽しそうで良かったよ。」
「はい。」
「じゃ、引き留めてごめんね?朝練も頑張って。私、そろそろ帰るから、お先に。」
「はい。ああ、荒巻さん。」
「ん?」
「あんまり夜更かししない方が良いですよ?次の日眠いし。」
「・・・え?」
「いや昨日窓が開いてたんで、すげえドラマの音聞こえてきて。煩いってほどじゃなかったけど、めちゃめちゃ起きてんなーと思って。」
「え”・・・」

じゃ!と言って再び駆け出すブン太君。

(・・・窓、開いてたっけ?)

そもそもそこのとこをあんまりちゃんと覚えてない。
え、っていうか、もしかして私は早朝散歩してるんだという嘘まで見抜かれてたんだろうか。オールがばれてたんだろうか。
いや、ブン太君だって寝たはずだからずっとドラマが聞こえてたわけではないだろうけど。ああでも、時系列の前後的にはブン太君が起きた時も私はまだドラマみてた筈。

いずれにしろ。

「おそろしきかな、隣人・・・」

もうちょっと子供に胸張れるような生活しとこう。
中華まんの入ったレジ袋をちょっと揺らして、私は独りごちたのだった。





100話記念くじびき企画
お題:No.042 お隣さん
くじ結果:22秒→2:主1×丸井

ご参加ありがとうございました!




4/4


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