100話記念企画 No.089


その日、可憐は日直であった。
日直というのは度々教師から用事を言いつけられることがあり、可憐もそうして中休みに美術室に居た。

今日はこれから美術の授業。
その補助をして欲しいから先に来てくれと言われ、可憐はそれに従って今、美術準備室で一人仕舞われている絵を見ていた。

今日の授業のテーマは「赤」。赤が印象的に使われている絵を手あたり次第出しておいて欲しいと言われたので従っていたのだが。

「ええと、赤、赤・・・赤がたくさん使われてる絵はっ。」

絵と言ってもここに仕舞われているのは9割模写である。本物ではない。
それ故可憐はまるでポスターを探すような気軽さでガタガタと絵を動かして一枚、また一枚と見ていたのだが。

「あれっ?」

これも。
これもだ。
あれ?これも。

「どうだ?桐生さん。」
「あ、杉森先生っ!あのう、見つけたんですけど・・・」
「どうした?」
「そのう、似たようなのが沢山あってっ。」
「似たような・・・ああ!そうか、風車の絵が山のようにあったんだろう?」
「はいっ。」

そう。今可憐が見ていた棚の一角は、全て風車の絵で埋め尽くされていた。
その中には赤い風車の絵も混じっており、どれも少しづつ違いはするが大きく変わったものは少ない。

「ここは、3年の授業のために使ってそのままになっていたんだ。」
「風車の絵?の授業ですかっ?」
「そうだ、美術史の授業の・・・まあ私の趣味で話すおまけのようなものだがな。フランスのモンマルトルの丘という所を知っているかね?」
「いいえっ。」
「そうか。そういう丘があるんだが、およそ100年以上前、モンマルトルは風車が名物の丘だったんだ。当時は貧乏だった画家たちがこぞってモチーフにして絵を描いたもので、おかげでモンマルトルの風車の絵は探すと枚挙に暇がない。」
「へえ・・・・」
「有名なのはゴッホの・・・と。いかんいかん、時間がないな。この話はまた今度、3年になった時に話すとしよう。もう十分だから、教室に居なさい。」
「はいっ。」






次の中休み。
可憐が廊下を歩いていると、ふと窓の外に風車が見えた。

風車といっても、今日絵で見たものとは全然違う。
あれは風力発電用のモーター付きのもので、括りとしては風車であっても似ても似つかない。

「風車かあ・・・」
「どないしたん?」
「ん?あっ!忍足君っ。ううん、ちょっと風車がっ。」
「風車?」
「今日ね、授業でちょっとだけ聞いたのっ。フランスのモンマルトルっていう丘には風車が沢山あって、有名なんだってっ。」
「・・・・・・・んん。」
「それでねっ、あそこの風車を見て、あれとは違うんだろうな見てみたいなあって・・・忍足君っ?」
「・・・可憐ちゃん、それほんまに授業で習うたん?」
「えっ?あ、ううんっ。授業で習ったっていうか、ちゃんと言うと授業のお手伝い中にちらっとそういう小話を・・・な、何か変だったっ!?」
「変ていうわけやないけど・・・」

言っていいのかな。夢が壊れないだろうか。
いやでも、これに関してはサンタは居る居ないとかいう次元じゃない事実の話だし。

「・・・モンマルトルの風車ていうんは。」
「うんっ。」
「名物ではあんねんけど、今はもう殆どあらへんねん。」
「・・・えっ?」



1/7


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]


番外編Topへ
TOPへ