100話記念企画 No.089





その後の昼休み。
可憐は忍足と図書室の一角で本を広げていた。

「モンマルトルは風車が名物ていうんは今もほんまやねんけど、そもそも風車がなんで名物になるくらいようさんあったんかていう話になると、歴史の話になんねんな。」
「歴史・・・」
「当時は小麦とかの粉ひきに風車の動力が必要やったさかい風車が乱立しとってんけど。でもそれもまあある程度の年代までの話で、技術が発達して言ったら風車をわざわざ使わへんでもていう話になるさかい。」
「じゃあ放っておかれるようになっちゃったのっ?」
「そうやな。そっから段々数が減っていって・・・可憐ちゃんの言うてた美術が云々ていう話については、言うて画家が大量に居った時代やから、まだ機械化が発達しきってへん頃になるわ。結局現存してる風車ていうたら、ええと・・・ああ、これ見易いな。」

バサ、とかなり大型の本を目の前で開く忍足。

そのページに、風車の写真が3枚。

「これが、ムーラン・ルージュ。」
「あっ、赤いっ!」
「せやで。そもそもムーランていうのがフランス語で風車ていう意味で、ルージュが赤ていう意味やから、赤い風車ていう・・・まあそのまんまやな。」
「そうなんだっ。ムーラン・ルージュってどこかで聞いたことはあったけどっ。」

他の風車が至ってごく普通の風車である中で、この赤はかなり目を引いた。

「此処って、今は何かお店なのっ?」
「え。」
「何か、まだ粉ひきしてるとかそんな感じじゃないよねっ!周りが集合住宅っぽいし、ホテルとかっ?」
「・・・・・・・・」
「忍足君っ?」
「・・・大きな声で言いにくいねんけど。」
「?」
「キャバレーやねん、此処。」

「・・・え。」





「本当にキャバレーなんだ・・・」

その夜、ベッドに入って電気を消して、後はもう目を閉じて眠るだけの状態で可憐は横になりながらスマホを眺めていた。

ムーラン・ルージュで検索すると、建物そのものよりもよく画像が出てくる、派手な衣装のダンサー達。
赤い内装に赤で纏められた衣装、暗い室内に明るいネオン・・・可憐にとって大人且つ全く未知の世界を垣間見た気がした。

とはいってもざっと検索したところによると、意外とダンスとショーを見ながらの食事がメインみたいな空気があるらしく、エッチな事を期待して行くような場ではない。らしい。

(こんなに可愛い見た目なのに・・・な・・・)

「・・・zzzzz」

スマホが手から滑り落ちたのにも気が付かないで、可憐は知らぬ間に落ちていた。



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