100話記念企画 No.021
まるで魔法のようだと思った。
そして今でもそう思っている。
「あ・・・」
昼休みに棗と昼食を食べていた桑原は、不意に食べる手を止めた。
「なんだwどうしたw」
「いや、何か忘れてる気がすると思ってたんだけどな。さっき音楽の授業で、机の上が狭かったからリコーダーをを一旦机の中に入れたんだよ。」
「ああ、忘れてきたのw」
「ああ。はあ・・・面倒だけど、覚えてるうちに取りにいかないとな。」
「行ってらっしゃいw俺はちょっと、この後用務員室に呼ばれてるから付き合えないけどw」
「用務員室?」
「付き合いってものがありましてw」
「そうか・・・」
一生徒と用務員の間に何の付き合いがあるのかはわからないけど、まあその辺の意味不明さは今に始まった事じゃないし。
というか棗に限らず、この学校には割と意味不明な人間が多いと思う。方向はそれぞれ違うけど。
まあ兎に角、こうして桑原は一人で音楽室に行くことになった。
「えーと・・・確か第三をさっき使った筈だから。」
もし吹奏楽部とか入ってたら取りにくいなあ、とか思いつつ音楽室の方へ近づいていくと、幸いにも管楽器の音は微妙に目的地から外れている。
代わりに聞こえてくる、エレキの音。
(この曲・・・)
扉を開けると、すっかり顔なじみになった友人が、実に気分良さそうにいい感じで歌っている。
「ひ〜と〜り〜ぼ〜っち〜の〜♪・・・あ!桑ちゃんだ、やほー!」
「おう。悪いな、邪魔して。」
「邪魔?紀伊梨ちゃん何か邪魔された?」
素で漫才みたいな事を聞いてくる紀伊梨に苦笑しつつ中に入ると、紀伊梨以外誰も居なかった。てっきりメンバーが揃ってると思ったのに。
「五十嵐だけか?珍しいな。」
「きょーはねー、何かちょっとれんしゅーじゃなくててきとーに弾きたくなった!」
「スキヤキを?」
「スキヤキ?」
「今歌ってたの、スキヤキだろ?」
「え?きゅーちゃんの上/を向/い/て歩/こーだお!」
「え、でも・・・ああ、まあ良いや。」
何か、掘り下げても結論はよくわからないような出ないような気がした。後で棗にでも聞こう。そっちのが多分早い。
「そーだ!良いこと考えた、桑ちゃん一曲聞いて!」
「聞く?」
「うん!オーディエンスが居た方が良いし!ねーダメ?」
「いや、良いけどな。」
普通こういうのって、一曲聞いてじゃなくてこっち側が一曲「弾いて」ってねだるもんじゃないんだろうか。
こういう所が紀伊梨らしいと思いつつ、手近な所に座ると、聞き覚えのあるフレーズが流れた。
「それでは聞いてください!坂本九で、上/を向/い/て歩/こう!」
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