100話記念企画 No.021
「はー!楽しかっ・・・」
「あああ!紀伊梨ちゃん!大丈夫ですか!?」
「ほえ?」
音楽室に戻ると、血相を変えた紫希が待っていた。
「え?何?何?」
「紀伊梨ちゃん、今までどこに行ってらしたんですか!?」
「え?テニス部?」
「・・・テニス部?」
「テニス部!」
「・・・どうして、です?」
「あのねー、ちょっと桑ちゃんのテニスしてるとこ見たい気分だったから!で、見て戻ってきたの!」
「・・・それ、だけ、ですか?」
「そう!」
「はああ・・・・・!」
紫希は大きな息を吐いてその場に座り込んだ。
「え?どったの?どったの?ってゆーか、千百合っちやなっちんは?」
「皆紀伊梨ちゃんを探しに・・・」
「え?なんで?」
「紀伊梨ちゃん、テニス部に行くって誰かに言ってから行きましたか?」
「んーん!」
「ですよね・・・」
「え?・・・もしかしてだけど、何かまずかった?」
「だって連絡がつきませんし、貴重品もギターも何もかもそのまんまで・・・お手洗いにも居ませんし、どこかでトラブルにあったんじゃないかっていう話になって、今皆で探してた所だったんです。私は、入れ違いの時の為に待機係をしていたんですけど・・・あ!そうです、早く戻ったっていう連絡を!」
「・・・あり?もしかして怒られるかな?」
紀伊梨は肌身離さず持っているくせしてさっきまでちらりとも見なかったスマホをポケットから出した。
通知。着信。
「ひょおお・・・・」
「スマホは持ってました?」
「持ってた・・・でも気づかなくってさー!ねー、千百合っち怒ってるかなー?」
「・・・た、多分、ちょっとは流石に・・・」
「ちょっとで済むかよ。」
背中から聞こえる冷たい声音に、紀伊梨は一気に後ろを向くのが怖くなった。
とはいっても、振り向く前に頭を掴まれてしまったのだが。
「あだだだだだ!あだ、あだ、あだだだ!ごめんなさい!ごめんなさいー!」
「ごめんじゃないわ、この馬鹿!どこほっつき歩いてた!」
「お帰りなさい、千百合ちゃん。紀伊梨ちゃん・・・今までテニス部に居たらしいです。」
「は?なんで?」
「ちょっとだけと思ったのー!ちょっと桑ちゃんがテニスしてるの見たい気分だったからー!」
「テニスだけじゃなくて彼奴のまめな性格も見習えよ。」
そこまで話してやっと千百合は頭を離してくれた。
「痛かったよー・・・」
「大丈夫ですか?」
「あーん、紫希ぴょーん!」
「よしよし・・・でも紀伊梨ちゃん、連絡なくどこかに行くのは良くないですよ。心配しましたよ。」
「ごみんなさい・・・」
「というか、なんで急に桑原見ようみたいな発想になったのよ。」
「えー、なんとなく?何か、一生懸命やっててかっこいーとこ見たいなーって!そーいう気分でした!」
「はーあ・・・」
「あはは・・・」
結局気分でしかないわけだけど、紫希も千百合もこれ以上は何も言わない。
紀伊梨にとって気分というのは重要な事なのも知っているし、気分気分と言いつつ紀伊梨はなんだかんだ何かを得て帰ってくるものであるのを知っているから。
ただ、語彙が不足しがちで気分とかなんとなくとかそういう返答にしかならないだけで。
「ちーすwお疲れーw」
「あ、なっちんおかー!」
「おかー、じゃねえわwお前、人がちょっと電話してる間に消えやがってw」
「ごみんに!」
「あーあ、何か疲れたわ。練習する前から疲れた。」
「えー!練習しようよー!」
「紀伊梨ちゃん、何かいつもより元気ですね・・・」
「どうしたの急にやる気になってw」
「だって、今日は何かガンガン弾きたい気分なんですよっ!」
桑原には桑原のかかっている魔法があるように、自分にも自分のかかっている魔法がある。
もしかしたらこの先、いつか解けるかもしれないけれど、それは今じゃないから。今はまだ、夢中でかかっていても良い時だから。
「よっしゃー!今日もはりきっていきやしょー!」
今日も私は、私達は魔法にかかって日々を過ごす。
100話記念くじびき企画
お題:No.021 魔法
くじ結果:23秒→3 前の方の秒数→7:主人公2+桑原
ご参加ありがとうございました!
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