100話記念企画 No.081
昔、母が家事をしながら軽く鼻歌を歌っていて。
色々歌っていたけれど、いつだったかこんな歌詞の曲を歌っていたっけ。


『ロマーンスの神様、この人でしょうかー。』


自分は横耳で聞きながらぼんやり思ったものだった。

この世に本当にロマンスの神様なんてもんが居たとしても、自分に用事なんてないだろうと。
この人でしょうか、とか言ってるけど、「この人」に当たるような人間がどこかに居るとは思えないし。興味もないし。
というか、そもそも「この人」がどんな人だろうと、誰かと自分がロマンスて。ロマンスて。

想像がつかないってレベルじゃねえわ、とか思いながら千百合は歌声を聞き流したものだった。





「千百合。」
「何。」
「それは。」
「何よ。」
「その辺の女子に言ったらしばかれるやつだわよ。」

今は昼休み。
今日はクラスでクラスメイトの江野と堀江と昼食と洒落込んでいると、昼休みの放送で、誰がリクエストしたのか偶々あの曲が流れてきたのだった。

「まあ、恋人持ちが言うととんだ嫌味みたいに聞こえちゃうかなあ、確かに。」
「そう?誰かと付き合ってるからって無条件に漫画みたいな恋愛を連想するのもって感じするけど。」
「ううん、ただ相手側が幸村君ですから。」

紫希の意見は実に頷けた。
女子側がどんな性格であれ、幸村にかかればどんな付き合いでも甘いロマンスに仕上げてくれる気がする。

「王子様って感じだもんねー、幸村君って。」
「っていうか、下手するとその辺の女子と会話してる絵面だけでロマンスに見えなくもないレベルだわよ。」
「そこまでは言いすぎじゃないでしょうか・・・?」
「言い過ぎかなあ?」
「千百合も紫希も目が肥えてるからよ〜。いつもあんなプリンスを見てるから、ハードルが上がってんのよ。」
「そんなわけないでしょ。」
「でも私もそれは思うなあ。千百合達ってなんだか恋愛とか彼氏の基準を幸村君に置いてる感じするよ。」
「それはないですよ流石に・・・」
「あれを標準にするとか世の中に求めるもの大きすぎだわ。」

なんだか千百合自身自分で言うのも手前みそだが、幸村精市という男が昨今世の中で言われている所謂「スパダリ」に該当するような人物なのはよくよくわかっている。
兎に角あの男はそつがなく、自分の扱いが上手く。女の子と付き合うのは初めてだから、粗相があれば言ってと言われたこともあるが、丸3年以上付き合っていて未だに一度も粗相とやらをされた事がない。

「後、前から言おうと思ってたんだけど。」
「「「?」」」
「紫希は分かってると思うから置いといて、桃美と美嘉は何か過剰に夢抱いてない?幸村精市っていう人間に対してさ。」
「えー!」
「そうかなあ?順当に夢抱いてる、って私としては思ってるんだけど。」
「ああでも、桃美ちゃんと美嘉ちゃんがそうだとは言いませんけど、偶に幸村君に対してイメージでお話してる人も居ますよね。」
「そうそれ。それが言いたいの。」

何せ幸村は人の目を引くのだ。
見た目もそうだし中身もそうだし、ついでにいうとテニスや勉学での成績なんかのスペック面でもそう。
遠目で見られて、きゃあきゃあ騒がれて、よく知らないけどきっとこんな人なんじゃない?と想像を膨らませられて。芸能人かよ、とも思うが、ポジションとしては案外近いかもしれない。

「何か、儚げな印象があるとかよく言われてますよね。薄幸の美少年的な・・・」
「それマジでよく聞くけど、全然逆よ。健康優良児だし身体能力くそ高いし、ついでに運も良いし。」
「それから、力が弱そうだとかも。もっと力の強い真田君が近くに居るからかもしれませんけど。」
「実際は相当握力あるけどね。テニス部だし。」
「後、幸村君本人は嫌がってますけど、良い所のお嬢さんぽいとも思われがちですよね。繊細でデリケートで、行儀が良くて線が細くて・・・みたいな。」
「家は良いけどお嬢さんとは程遠いじゃん。細身ではあるけど折れそうとか全然ないししっかりした体躯してるし、ああ見えて度胸あるし神経太いし。挙動も穏やかだけど、人並程度にはやんちゃもするよ、制服のタイちょいちょい外したりとか。」

「ねえ!」

「「?」」
「自慢なの?」
「は?」

会話に入ってきた江野はジト目。その隣の堀江は苦笑気味。

「何か今の話は、確かに第一印象とは違うなって感じだけど・・・」
「ギャップがさ、いちいち良い方向にしか行ってないじゃん!典型的な優男「っぽい」けどフィジカルとか中身はきっちり男らしくしてるとかさ、良い男度が単純に上がってってるだけだわよ!」

幸村にとって「イメージと違った」は欠点にほぼならないのだった。
別に力を入れたら折れそうな儚げで繊細な少年が悪いとは言わないが、そういう男子は見ている分にはかっこ良くても彼女になって付き合うとなると、一転してそれらの要素がちょっとした不安要素になりがち。

「あ、でも。」

堀江が軽く手を叩いた。

「話を戻すけど、ギャップがあるって事はどうなの?」
「どうなのって。」
「ロマンス的なギャップはあるのかなって。如何にも甘い恋愛させてくれそうだけど、そこもイメージと実際は違うの?ギャップあり?」
「お!良い質問だわよ美嘉、どうなの!?そこんとこ!」
「黙秘で。」
「えー!」
「まあまあ、プライベートな話ですから・・・」
「紫希ちゃん知らないの?」
「私もそんなには。だって2人のお話ですし、そんなに突っ込むような事でも。」
「信じらんない、こんな垂涎物のスクープの種が常時身近にあるのに張り付かないなんて。」
「友達止めようかな。」
「あー!たんまたんま、冗談だわよ、じょーだん!」
「桃美の冗談は冗談に聞こえないんだよねえ。」
「あ、あはは・・・」

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