100話記念企画 No.081


・・・なんて事を昼休みに話していたのを、5限に千百合は思い出した。
何故思い出したか。
それは今日の技術の授業が実演指導の為移動になったからである。

そこそこの不真面目な態度で、でも当てられたらスッと答えられる程度には要領よく話を聞きつつふと窓の外を見やると、見慣れた姿がグラウンドに居た。

(精市だ。サッカーしてる。)

普段はこの授業は教室で受けるので中庭方面のグラウンドが角度的に見えないのだが、今日は移動なので見られる。
テニス部のではない普通の体育用のジャージを着て、ドリブルしてゴールを決めて。
ハイタッチしている傍ら何事か詰め寄られて苦笑しているっぽい場面も見受けるが、多分サッカー部に勧誘されているのだろう。昔から割とよくある事だ。

マジで彼奴は何でも出来るなあ、なんて思いながら眺めていると、同じクラスなのであろう知らない女生徒が駆け寄っていくのが見えた。
何話してるのか、とかそこまでは流石にわからない。聞こえやしない。

でも。


『下手するとその辺の女子と会話してる絵面だけでロマンスに見えなくもないレベルだわよ』


昼の時は千百合が何を言う前に聞いていた紫希が「そんな事ないと思う」と否定を入れたが。だけど実際こうして見てみると、如何にも頷ける話だと千百合は思う。

幸村精市という男は、それこそあの歌になぞらえて言うとロマンスの神様に気に入られている男なのだ。何をやっても絵になるし、様になるし、かっこよく決まるし。(幸村を気に入っているのは何もロマンスの神様だけじゃないかもしれないが。)

しかし、逆に言うと自分はその対極に位置してるような女子だと千百合は思っている。
凡そロマンスの神様に気に入られようもない女。不愛想だし、つっけんどんだし、女子らしい所なんて皆無だし。何もボーイッシュだとは言わないが、女の子らしくて可愛らしいと思われるようなポイントが自分にはほぼ無い。

紫希も大概自分に自信のない方だし、紀伊梨も紀伊梨でロマンス?それって美味しい?みたいな所があるけど、あの2人とは根本的に違う。
紫希は自分に彼氏なんてといつも言うけど、いつかちゃんとした恋人が出来ると思うし(暫定の候補第一位が若干癪なのはちょっと置いておこう)、紀伊梨だって「まだ」その時じゃないと言うだけでいつか必ず恋をするだろうし、それは似合うだろう。

そんな友人達に引き換え、千百合は別に自分なんて駄目だとか思ってないし思春期だってちゃんと迎えてるけど、それはそれとして土台似合わないのだ。
それこそ常なら愛とか恋とか鼻で笑うタイプの性格だし、自分の恋路にも人の恋路にもタレントのワイドショーにも全然興味ない。少女漫画とか読んでても現実にこんな事あるわけないだろと白ける一方。

もしロマンスの神様が居るのなら、なんでよりにもよって自分みたいなのを幸村の恋人にあてがったのか真面目に聞いてみたい。誰が相手でもロマンス出来そうな男と、誰が相手でもロマンス出来そうにない女とか何故。事実は小説より奇なり。

「・・・・・・」

それこそ、今幸村とグラウンドで話しているようないかにも女らしい女の子なら、ロマンスももっと様になるだろうに。

「では此処の問題を・・・黒崎。」
「鋸は押さないで引く、姿勢を真っすぐに保つ、両手で持つ。」
「よろしい。今言ったようにーーー・・・」

千百合ちゃんよく今当てられるってわかったね、と窓と逆隣りに居た堀江が小さく言った。
ずっと窓の方を見ていたのに、教師が黒崎と言うか言わないかのタイミングでくるっと前を向いた事を指しての事だ。

だが、当てられると分かってて前を向いたわけじゃない。
窓の方を見る気がなくなったタイミングが、偶々教師が当てるタイミングと揃っただけ。

クラスメイトとはいえ親し気に女子と話す幸村を、今は長々と見る気にはなれない。

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