5万打記念企画 No.025
そんなわけで、とても機嫌よく生徒会に報告書を提出したその帰り。
下足スペースで、見慣れたシルエットに会った。
「あっ!忍足君、お疲れさまっ!」
「ああ、可憐ちゃん。今帰りなん?」
「うんっ!忍足君もっ?」
「いや、俺は今から職員室やねん。予習で聞きたいとこあるさかい。」
「そうなんだっ。」
そんなやり取りをしつつ、目はちょくちょく鞄に向かってしまう。
あの中に入ってるのかな。もう受け取っては居るはずだけど、読んだだろうか。
そんな事を考えながら話していると、忍足はこともなげに話し出した。
「せや、可憐ちゃん。」
「うんっ?」
「手紙、おおきにな。」
え。
「・・・可憐ちゃん?」
急に目を見開いた可憐に、忍足はびっくりして自分もちょっと目を丸くする。
「・・・・な、何の話でしょうか・・・」
「?書いてくれたやろ。嬉しかったで。」
「ま、待って待ってっ!どうして、」
何故だ。何故バレてるんだ。
忍足のこの態度は、怪しんでるとかそういうレベルではない。もう、可憐であると当然知っているみたいな態度だ。
慌てる可憐を他所に、忍足はさらりと言った。
「どうしても何も、名前書いてあったで。」
「嘘っ!?だってだって、私出す時ちゃんと、新しい封筒に忍足君の名前だけ書いてーーー」
「いや、封筒やのうて便箋の方に。」
可憐は絶句した。
そうだ。
可憐は手紙を書く時、○○さんへから始めだして、可憐よりで結ぶタイプの書き方をする。
つまり、書く時にいつものくせで可憐よりと添えて書いてしまったのだ。
「〜〜〜〜〜〜!」
かあああああっと熱くなる顔。
恥ずかしい。恥ずかしすぎる。つまりあの手紙は、バレる以前に不完全だったのだ。
「・・・ひょっとして、匿名いう事にしたかったん?」
「言わないでっ!」
忍足は合点がいった。
読んでる最中、どうも可憐が書いたにしては妙な表現が多いなあと思ったのだ。
いつも見ていますとか、まるで部外者みたいな書き方だなと思っていたら、そうか。本人は自分からだと知られてない体を装っていたのか。
「・・・・・・」
「・・・忍足君、今笑うの我慢してるでしょっ。」
「・・・してへん。」
「嘘だよもうっ!そんな優しさ要らないよっ!いっそ笑ってよもうっ!」
「ふっ!」
追い打ちをかけられて、忍足は思わず声を漏らしてしまった。
可憐的にはさぞ恥ずかしかろうと思って気を使ったけど、正直面白いし微笑ましい。いかにも可憐がしそうな事。
しかし、笑えと自分で言っておいてあれだけど、そうやって笑われると可憐としてはやっぱり恥ずかしい。
いっそ堂々としてれば良かった。こうなると手紙の中で部員じゃないですよみたいな振る舞いをしたのが余計恥ずかしい。
「私、もう帰るっ!お疲れさまっ!」
「せやった、帰るところやったな。お疲れさん。」
さっきまで一緒には帰れなさそうだな残念だな、とか思っていたのに、こうなると急に一緒には帰りたくなくなる。少なくとも今は嫌、絶対嫌。
手早くスニーカーに履き替えて、早歩き気味で立ち去ろうとした時、忍足の声が背にかけられた。
「せや、可憐ちゃん。」
「なあにっ!」
「言うたことあったか覚えてへんねんけど。」
「・・・・?」
「俺、うぐいす色好きやねん。」
それだけ言うと、忍足はほんならまた明日と言い添えて、笑って片手を挙げて校舎に消えてしまった。
好き。
うぐいす色が。
聞いたことあったかどうか以前に、それを聞いてどうしろというんだろうか。忍足の真意がわからない。
(そもそもうぐいす色ってどんな色だっけっ?うぐいすの色でしょっ?うぐいすは確か、薄いーーーー)
灰色がかったグリーンだった気が。
「・・・・・え?」
もしかして。
それはもしかして、自分がさっきまで部室で眺めていたあの色なのでは。
なら、じゃあ。そうだとしたら。
「・・・・明日は絶対ちゃんと聞こうっ!」
自分だけ恥ずかしい思いをしてなるものか。
意趣返しめいた事を頭では考えつつ、可憐はどうしても顔が綻ぶのだった。
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