5万打記念企画 No.025
そして。
書いた日の翌々日に(翌日に出すのは叶わなかった。手紙を家に置き忘れたからだ。)手紙を箱に入れ。
毎日の忙しさに、出したことをそろそろ忘れかけていたころ、週に一度の手紙配りの日がやってきた。
「今週も量がやばいな・・・」
「こういう時マンモス校は困るのよねー。」
金町と新城が手紙の仕分けをするのを横目に、可憐は生徒会提出用の部活動報告書を書いていた。
「これがこっちでこれがそっちで・・・真理恵、そっちに忍足君の手紙ある?」
「あ、忍足君の分こっちにあるから頂戴。」
「ん!」
可憐はどきりとした。
あの薄いブラウンの、犬の絵がワンポイントになっている封筒。
自分のだ。
バレたらどうしよう。
いや、別にバレたからってどうという事はないんだけど、突っ込まれるとなんだか恥ずかしいから出来ればバレたくない。
「しっかし、忍足君もよく貰うよね〜。」
新条が可憐の封筒をひらつかせながら言った。
「1年生だと一番貰ってるんじゃないの?」
「ほら、あれだよ。水泳大会だよ、大体あれのせいだって。」
「あー、確かにねー。」
(早くその手紙他のと混ぜてくれないかなあ・・・!)
あんまりじっくり見て欲しくない。バレるかもしれないから。
特にマネージャー勢は、一緒に活動する中で自分の字を見慣れている。あれ?これ可憐の字じゃない?とか振られたら、上手くしらばっくれる自信がない。態度で多分バレてしまうだろう。
(い、いけないいけないっ!つい、あっち見ちゃうっ!これじゃ字でバレなくても視線でバレちゃうよっ!)
もう報告書だけ見ておこう。
そう思って顔を下に向けて、全然そっちの事なんか意識してませんよ〜・・・な態度を装って書き進める。
「・・・あれ?」
「どしたの?」
「ううん。
ねえ、可憐!」
「ひゃいっ!?」
飛び上がった。
今正に、そっちから意識を外そう外そうと頑張っていたところだったので完全に不意をつかれた。
「は、はいっ!何っ!?何ですかっ!?」
「何っていうか・・・何狼狽えてんの?」
「ご、ごめんちょっとっ!報告書に集中してたから、びっくりしちゃってっ!」
嘘である。
寧ろ集中してなかったからびっくりしたのだが、幸い新城はこれと言って深く疑わず、ふーん?で済ませてくれた。
「そ、それで何っ?」
「はい。」
「・・・えっ?」
新城は、薄い緑色の封筒を可憐に差し出した。
桐生可憐様、と綺麗な字で書かれている。
「・・・私っ?」
「そう。」
「私当てっ?って事っ?」
「そりゃあそうでしょ、桐生可憐様って書いてあるんだから。」
可憐は半分呆然として手紙を受け取った。
自分に。誰かが、これを。
「あ、可憐貰ったの!?良いなー!」
「えー、良いわけ?誰から何て書いてあるのかもわかんないのにー?」
「良いじゃんかー!もしかしたら異性からのラブレターかもしれないし!」
ラブレター、と聞いて可憐は内心でドキッとした。
ラブレターが混じることもある。という忍足の言葉がリフレインする。
「い、いやないよっ!そんなのないないっ!」
「えー、わかんないじゃん!」
「あ、でも男子っぽくはあるわね。」
「えっ?」
「だってさー、女の子だったらもうちょっと可愛い奴にしそうじゃない?」
「・・・確かに。」
可憐は封筒をマジマジと眺めてみた。
色は薄いグリーン。グリーンといってもやや灰色がかった感じであり、かなり落ち着いた印象の色。
封をしてあるシールは、濃い緑色のひし形。
以上、それだけ。
それ以外に見た目の特徴がない、シンプル過ぎるほどシンプルな封筒。
「え、でもさ!もし男子だったとして、ラブレターにしてももうちょっと飾れよって思わない?」
「うーん、それもそうかも。」
「ねえ可憐、開けて見てよ!」
「えっ!?い、今っ!?」
「別に見せろとは言わないからさー!男子女子どっちからで、ファンレターなのかラブレターなのかだけでも知りたい!」
「まーた出た、あかりのミーハーが・・・」
「うるさい!っていうか、真理恵に聞いてないし!ね、可憐お願いー!」
「えー・・・」
どうしよう。
でも、直接読ませろじゃないなら良いかな。
金町は友達だし。
可憐はそうっと封筒のシールを剥がして、封を開いた。
中の便箋は2つ折り。2枚ある。
それを更に開くと、やっぱりというか便箋も薄いグリーンで、綺麗な文字で頭に桐生さんへと綴られていた。
「・・・・・・・・」
「どう?どう?」
「・・・部活の事が書いてある、かなっ?」
挨拶と、暑いけど体調は大丈夫ですか的な気遣いから始まり。
テニス部をかっこいいと思っていて、いつもテニス部を見ている事。それに伴って、マネージャーも毎日大変そうなのを知っている事が綺麗な言葉づかいで綴られている。
『大会で活躍するのは選手で、声援を受けるのも選手。
それは仕方のない事だとは思いますが、その選手が毎日心置きなく全力で活動が出来るのは、桐生さんを始めとしたマネージャーさん達の影での尽力あっての事だと思います。
僕の言葉は僅かでありささやかですが、いつも頑張っている事を知っていて、応援しています。そんな人が少なくとも一人は居る事を知っておいて下さい。
それから僕の言えた事でもありませんが、厳しい時は選手にももっと頼っても良いと思います。マネージャーだって部員です。テニス部にとってかけがえのない存在です。
これからの長い夏、どうか無理をしないで元気でお過ごし下さい。』
それから結びの挨拶で、手紙は締められていた。
「・・・・・」
「ねえ、それ以外はー?部活の事しか書いてないのー?」
「・・・うんっ。本当にただ、応援してます頑張ってみたいな・・・」
「えー!ラブレターじゃないのー!?」
「あんた、本当にそんな事しか頭にないのねー。」
「む!とかいって、真理恵も今しっかり聞いてたじゃん!このむっつり!」
「誰がむっつりよ!」
「・・・・・・」
可憐は手紙を何度か見直した。
応援してます。頑張って。
確かに、ざっくりいうとそれだけの内容。それだけの内容なんだけど。
(嬉しいなあ・・・)
一人称に僕と書いてある。だから多分男子ということ以外、誰が書いてくれたのかの手掛かりは全然無いが、これを書いてくれた誰かさんはマネージャーという存在を重要視してくれていることが読み取れる。
可憐はそれが嬉しかった。
とても嬉しかった。
4/5
[*prev] [next#]
[page select]
[しおり一覧]
番外編Topへ
TOPへ