5万打記念企画 No.035
ある日の昼休みだった。
紫希は職員室に来ていた。予習でわからない所があったからだ。
しかしそれも無事に聞き終えて、さて退室しようかと思った所だった。
「失礼しまし・・・あ。」
今しがた少し離れた入口から入ってきたのは、古典の教師にして1-Bの担任、上里雅。
それから丸井。プリントの束を持っているところを見ると、多分運ぶように言われたのだろう。
なんとなくそれを見ていると、上里が紫希の方を向いて、目が合った。
「春日さ〜ん。」
「え・・・はい?」
紫希が居たのに気づいて居なかったのであろう、ちょっと目を見開いている丸井の隣で、上里は微笑みながらちょいちょいと手招きをしている。
どうも上里は幸村に近い声質をしていると思う。
怒鳴ってもいないのに妙に通るというか。
「よ!」
「こんにちは・・・」
「春日さん、丁度良かったですわ。明日にしようと思っていたんですけれど、頼まれてくれます?」
「はあ・・・」
「明々後日、B組もC組も古典がありますわね?なので、明後日の放課後に古典資料室に行って、丸井君と2人で、緑のテープが貼ってある棚の2段目から資料集をクラスの人数分取って頂きたいんですの。」
「資料集・・・」
「ええ、重くて大変ですから2人で協力して下さいね。勿論、運ぶ時は台車を使って構いませんわよ。」
「わかりました。」
「助かりますわ♪春日さんは真面目ですから信頼がおけますし、春日さんが居てくれるなら丸井君もサボりませんし。」
紫希は少しびっくりした。
丸井はあんまりサボったりとかそういうイメージがないのだが、上里の口ぶりはまるでサボりの常習犯のよう。
そうなの、と思いつい丸井に目をやると、その丸井もちょっと驚いたように目を見開いていた。
「俺そんなサボってませんけど?」
「なんて言いながら大体のことは桑原君に押し付けているの、先生は知っているんですのよ?」
「・・・・」
「あらやだ、気づかれていないと思っていまして?あんまり大人を甘く見ない方がよろしくてよ?」
おほほほほ、なんて上品に笑う上里は怖い。控えめに言って。
「と、兎に角分かりました!明後日のお昼休みに、古典資料室ですね。」
「はい、よろしくお願いしますわ♪」
ひらりん、と優雅に手を振る上里に見送られて、紫希と丸井は職員室を後にした。
「はーあ・・・」
「はあ・・・」
廊下を歩きながら職員室が遠くなっていき、やっとホッと息が吐ける。
「マジ怖え。上里先生って怒り方幸村君に似てんだよなー。」
「あはは・・・静かに怒るタイプですよね。」
「そうそう、迫力あるって感じ?」
「でもそれはそれとして丸井君、あんまりクラスの用事を桑原君に頼んでは駄目ですよ・・・」
「まあまあ良いじゃん、ジャッカルだし♪」
「そうは思えないですけど・・・」
良くねえよ!と本人が居たら間違いなく言うであろう。
紫希も言ったところで治らないのも最近はわかってきた。それはそれとして、やっぱり良くないと思ってはいるのでついつい注意してしまうけど。
「でもま、バレてるとは思ってなかっただろい。ちょっと控えめにすっかなー。」
「・・・・・・」
「ん?何?」
「あ、いえ。何でもないです。」
「そお?」
控えめにとか言いつつ、丸井が控えめにした試はない。
女子の明日からダイエットするしお菓子控えめにする発言と同じで、なんだかんだついやっちゃうんだろうなと思う。それももう知ってる。
だから紫希は、今さっき言付かった資料運びもまあ多分桑原が来るなと内心で算段をつけていた。
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