5万打記念企画 No.035
「「はあ・・・・」」
紫希と丸井はもう5限も半ばを過ぎたころ、漸く救出された。
窓も開けてはいたけれど、やっぱり起こった二次災害でもう一度頭から埃を被った2人は全身煤ける羽目になった。
その為救出されても汚れすぎていて授業に戻れず、今は千百合と柳生に頼んで着替えのジャージを取りに行ってもらっている最中。
2人は保健室を目指す。あそこなら隣に更衣室があるし、濡れタオルも出てくるだろうから清拭出来る。
「体中真っ黒。」
「お風呂に入りたいです・・・」
「だよな。この後シャワーなしで部活かと思ったら嫌になるだろい。」
「結局、資料も取れませんでしたし・・・」
「それはしょうがねえよ。遭難しました、って正直に言おうぜ?」
それこそ、今の2人が遭難してましたと言ったら多分上里は信じると思う。
それくらい2人は埃まみれだった。どうやったら学校でこんな目に遭えるんだと驚かれるだろう。
「実際、地震にあったのとほぼ同じようなもんだろい?」
「確かに、起きたことは割と近いかも・・・あ。」
「ん?」
保健室に向かって、階段にさしかかった2人。
いつものように運動音痴で高所が怖い紫希は、何気なく手すりを掴もうとして、引っ込めた。
そうだ。自分の手は今、汚いのだ。掴むと手すりが汚れる。
「な、何でもないです。」
「・・・・・・」
「大丈夫ですから、行きまーーー。」
「ん。」
丸井は当たり前のように左手を出した。
「い、いえ!良いですから、」
「はいはい。」
「汚れますよ!」
「ははははは!もう汚れてんじゃん、俺もお前も。だろい?」
「そうですけど、」
そういう問題じゃないのだけど、説明出来ない。
というか、無意味。恥ずかしいから遠慮したいという気持ちは、いつも丸井には理解して貰えない。
「そんな嫌?資料室でもそうだったけどさ。」
「嫌なわけじゃないんです、ただ恥ずかしいですから、」
「じゃあ良いじゃん。」
「ですから、嫌じゃないとしても恥ずかしくて、あの、お気持ちは凄く嬉しいんですけど、」
「・・・お前さ。」
「はい・・・?」
「・・・・」
丸井は珍しくちょっと押し黙った。
「・・・良いや。」
「え?」
「何でもねえから、気にすんなって。」
「えええ・・・」
かっこ悪いから言わなかったけど、今一瞬聞きそうになった。
もしかして紫希は、自分が恥ずかしくないと思っていると考えてるのではないだろうか。
(そんなわけねえだろい、流石に。)
確かに女子と距離が近いのは慣れてるし、手ぐらいなら別にさっと繋げるけど、流石に平気の平左で女子のこと抱きしめられるほど達観はしてない。ノリで一瞬だけとかならともかく、あんな長い間。
でも他に守り方が思いつかなかった。
そして恥ずかしいことよりも、目の前で紫希がむざむざ怪我をする方が嫌だったから平気なふりして頑張っていた。
そう、頑張ったんだ。姿勢的に顔が見られなくて本当に良かったと思う程度には照れ臭かったけど、いつも通りを装って。
だから嫌だ離れてとか思われるのは愉快とは言えないけど、気持ちは嬉しいとか言われるのもそれはそれでくすぐったいから控えてほしい。
とか言っても通じないんだろう、紫希には。
人への好意は幾ら言っても良いと思う性格なのは、もう知ってるから。
「じゃあ私も何でもないですから、」
「ははは!じゃあって何だよじゃあって。」
「だって、お互いに同じ事言ってるんですからーーーあれ?これもさっき資料室で似たような事を言った気がするんですけど・・・」
通じないなあと思ってるのはお互い様な事を2人は知らない。
ただ。
「失礼します。」
「失礼します・・・」
「はい、いらっしゃ・・・!?え!?」
「すいません、濡れたタオル出して貰えないですか?」
「そ、それは良いけど貴方達どうしたの!?何があったの!?」
「ちょ、ちょっと色々・・・」
「遭難してっていうか?」
「遭難・・・」
養護教諭はタオルの準備をしながら2人を振り返った。
(・・・その割には楽しそうね。)
そう。
通じなくても楽しいから、まあ良いかなともお互いに思っているのだった。
それすらも知らない、ある遭難した日の事。
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