5万打記念企画 No.045


休日の朝のことだった。

何でもないただの土曜日だった筈なのだが、朝起きた時。

「・・・ん?」

千百合は上体を起こした。
ただそれだけだったのだが。

(今、何かどっか「バキ」とかって言わなかった?)

降りてベッドの下を覗き込むと、なんだか奥の方が歪んでる。気がする。

「・・・・あんま乗らない方が良いかな。」

どうせ起きたのだし、そのまま千百合は何もしないで、階下に降りた。
母に見てもらおうと軽い気持ちで考えて。




「千百合。」
「何。」
「これは多分、もう駄目。」
「え。ダメって。」
「ほら、此処。見える?もうガタが来てるみたい。次に乗ったら、多分もう完全に壊れる。」
「マジか。そこまでか。」
「ん・・・まあ元々このベッドも、春日さんに頼んで二段ベッドを無理やり分けた奴だったから。元から傷んでたと言えば傷んでたけど。」
「そっか。そういやそうだっけ。」

そもそも小さい頃千百合は兄の棗と二段ベッドで寝ていたのだ。
それがある程度の年齢になり、それぞれに部屋をあてがってやろうとした時に、偶々解体できないタイプの二段ベッドだったのを、紫希の父の真が持ち前の馬鹿力でやや強引に部品を外して分けてくれたのである。

それをそのまま使っていたのだが、とうとう寿命が来たのだ。

「え、待って。じゃあ私今晩どうするの。」
「どうするって、決まってるじゃん。」

母は事もなげに言った。

「ちょっと急ぎだけど、ベッド買いに行こ。今すぐは無理だけど今日の間に。お父さん帰ってきたらね。」







というわけで、もう時刻にして18時を過ぎたという頃、千百合はホームセンターにベッドを買いに来たのだった。

尚、父はまだ帰ってきていない。自転車に乗って自力でここへ来た。
あんな父親と選んでいたら、時間が幾らあっても足りない。

(とは言ってもなあ・・・ベッドを選ぶっていっても、正直どのベッドでも寝られればそれで。)

特に拘りもないし、落ち着いたベッドじゃないと寝られないとかそんな繊細なわけでもないし。もう適当に、店の人に聞いて予算内で見繕って貰おうかなんて考えていた時だった。

「・・・あれ?千百合?」
「え?」

振り向くと、幸村が居た。
思い切り制服姿でラケットバッグを背負っているその姿は、幸村が部活帰りである事を物語っていた。

「どうしたんだい、こんな所で。」
「いや、ベッド買いに。壊れて。」
「壊れた?」
「うん。まあ、普通に経年劣化っていうか。」
「そうなんだ。確かに千百合のベッドは、元々二段ベッドとして使い込まれてたしね。」
「精市は?」
「俺もベッドをそろそろ買い替えたいんだ。」
「ふうん。そんな古かったっけ。」
「いや、そうじゃなくてサイズの問題でね。最近よく、足がぶつかるようになっちゃって。どうしても眠れないっていうわけじゃないんだけど、あんまりしょっちゅうだから正直ストレスなんだよ。」
「ああ。背伸びたもんね。」

毎日見ていると気づきづらいが、幸村は中学に入ってぐんと背が伸びた。
小学校の頃は、僅かな間だったが千百合の方が高い時期があったくらいなのに。

「じゃあでかいの買うの?」
「そうだね、兎に角縦のサイズを今より大きくしないと意味がないから。ただ、横のサイズはそんなに大きくなくて良いんだけどね。」
「・・・・・・」
「千百合?」
「いや。何でもない。」

そんなに大きくなくていい。
と今幸村は言ったが、この場合幸村の言う「そんなに」は自分にとっては結構なサイズである事も知っている。
そもそも幸村は裕福なのだ。そしてそれに相応しい家のでかさだし、部屋のでかさだし。今だって足がぶつかると言ったけど、足りてないのは縦だけであって、横は多分これから何年経とうが窮屈には感じないだろう。

「・・・この辺とか?あくまでサイズ感だけ考えるとして。」
「ああ!そうだね、このくらいが良いかな。」
(やっぱりでかいんじゃん。)
「うん?ごめんね、何か言った?」
「何も。でもまあ、このくらいのサイズならあっちとかあっちにもあるけど。」
「うん・・・でも千百合。さっきから探してくれるのは嬉しいけど、自分のは良いのかい?千百合もベッドを探しに来たんだろう?」
「私は別に親父が迎えに来るまで暇だし、サイズが合えば何でも良いから。」
「何でも良い、なんて言うとおじさんが凄いのを選ぶよ?」
「・・・・・・」
「ふふふっ!冗談だよ、もしそうなったら俺も止めるから。それはさておき、時間があるなら甘えても良いかい?」
「うん。」

土曜日の夕方。
会えないと思っていたけど思いがけず会えたから、もう少し一緒に居たいと思うのはお互い様なのだった。


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