5万打記念企画 No.045



「精市ってベッドに拘りあるの?」

沢山のベッドの中を、千百合と幸村は縫うように連れだって歩く。

「ちゃんと選びたいとは思うよ。少しも妥協出来ないとかそこまでじゃないけれど、ずっと使うものだからそれなりに納得できるものが良いな。」
「はー・・・成程。」

千百合は幸村のこういう所が好きである。
自分に分かるように自身の事を話して納得させてくれるところ。

「例えば・・・ああ。こういうのは、俺は選ばないかな。」
「どの辺が?」
「ふふっ。これはこれで悪くないんだけどね。ちょっとカジュアル過ぎるというか、シンプル志向過ぎて俺の部屋に合わないだろうから。」
「ああそっか。そういうのもあるのか。」

(まあ確かに精市の部屋って中学生離れしてるもんな。)

今幸村がこれ、と指したのは、大き目ではあるが他の所は至って普通の、黒い木で枠が出来ているベッド。
そして幸村の部屋は、言うなればとてもアンティークでクラシカルなのである。それ中学生の部屋に対する感想なのと思われそうだが、実際そうなのだから仕方がない。

なるほど。確かに合わない。

「・・・精市の部屋だったら、あっちとか?」
「うん?ああ、確かにこれは良いね。うん、よく合いそうだよ。」

(近くで見ると尚でかいな・・・)

このサイズ、これ、キングサイズとかいう奴だろうか。
成人男性が大の字になっても全然余裕そうなサイズである。中学1年生の自分がちっちゃくちっちゃく思える。

「サイズも大丈夫だし、予算も大丈夫・・・よし、これにしよう。決めたよ。」
「え。」
「え?」
「いや、そんなあっさり決めて良いの?」
「良いよ。俺もこれがピンと来たから。決まる時ってそういうものだよ。」
「そう?」

そうなんだろうか。わからない、千百合には。基本千百合はこういうのは、よっぽど変なのでない限り最初に目についたそれで良いやな思考なので。

「さて。じゃあ次だ。」
「え?もうベッド買ったじゃん。」
「いや、マットをね。」
「いや、マットもそこにあるって。」

幸村が決めたベッドは、マットをわざわざ探さなくても隣にこのベッド向きのマットが置いてあるような売られ方をされていた。
しかし、幸村の足はそこから遠ざかる。

「そのマットは使わない。」
「なんで?」
「ううん、あんまり良いものじゃない・・・いや、良いものなんだけれど、俺向きじゃないから。」
「?」
「やっぱり、睡眠の質が落ちると次の日のパフォーマンスの低下に繋がるからね。しっかり眠る事が出来て初めて効率よく練習できるわけだから、多少値が張ってももっと良いマットをと思って。」
「おお。」

今のおお、は感嘆のおお、である。
アスリート思考。単なる贅沢ではない。仮に億万長者になっても千百合は絶対思いつかない発想。

「え、でもそういうのってどうやって選ぶの。なんか、色々試さないといけないんじゃないの。」
「そうなんだ。俺もそう思って、ベッドを買うのはもっと時間が取れる日曜日なんかにしようと思ってたんだけど・・・ああ、あった。」
「・・・何その紙。」
「柳のメモだよ。俺のデータから、俺の体に合ったマットのスペックを調べてくれたんだ。専門店に行けば必ずあるらしいけど、各数値がこのメモに合う品があればそれで良いって。」
「・・・・・・」
「とは言っても、多分そこまではなかなか見える所に書いていないから・・・ああ、すみません。」
「はい?」
「少し良いでしょうか。マットを探しているんですけれど、この条件に合うマットはありますか?」
「え?ええと・・・・えええええええと、しょ、少々お時間を頂きますね!」

(可哀想、あの店員さん。)

ちゃんと見てないけど、柳が出したデータなら大分細かい所まで書いてあるに違いない。

たかだかホームセンターごときにこんな詳しいこと聞いてくるなよ、な事を尋ねられて必死に調べている寝具売り場担当のお姉さんを千百合はちょっと気の毒に思った。
2/5


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]


番外編Topへ
TOPへ