5万打記念企画 No.050



「これ、良いのかなあ・・・」
「何が?」

翌日の放課後。
可憐と忍足は、誰も居ない暗くなりだした部室で蝋燭を点けようとしていた。

「何か色々っ?そもそも、こんなもの持ち込んで良いのか、とか・・・」
「跡部なんか、私物持ち込みたい放題やで?何やったら、此処に置いといたらええと思うわ。家やと出来へんみたいやし。」
「それもそうだけどっ!後、火事とか、トラブルにならないかとか・・・」
「昨日見たけど、スプリンクラーはあらへんさかい、点けた時点で非常ベルジリジリみたいな事にはならへんわ。後は火事やけど、それを防ぐために2人居るわけやし・・・可憐ちゃん、グラスあるやろか。」
「あっ、はいっ。」

ちゃんと言われた通りグラスを持ってきた可憐は、言われるままにそれを手渡した。
忍足はがっちり準備してきたらしく、どこで見つけたのかぴったりサイズの蝋燭とチャッカマンを持参していた。

「その水筒はなあにっ?」
「ああ、これ。気休めや。」
「・・・気休めっ?」
「一応初期消火用の水やけど、量が大した事あらへんさかい。消火器の場所は把握してるから、大丈夫やで。」
「・・・・・・」
「よし、点けよか・・・可憐ちゃん?」
「・・・ううんっ!何でもないですっ!お願いしますっ!」
「?まあ、ほんなら点けるで。」

机の上にグラスを置いて、その中にキャンドル。
点火。

「あ、点いた・・・わああっ!」
「ここ居って。」
「えっ?」
「電気消してくるわ。」
「あ、そっかそうだよねっ!」

忍足が電気を消すと、中はいよいよ暗くなり、キャンドルが際立って明るくなる。

「わあ・・・・・」

最初に紫希が言った通りだった。
グラスはキラキラで、ラメが影になって、いつもの部室は一気に幻想的な空間になった。

「綺麗やな。」
「うんっ!」

ちらちらと揺らめく炎。
それと一緒に、グラスはキラキラと輝き、影が揺らめく。

「・・・・・」
「・・・・ん?可憐ちゃん?」

きらめくグラスを見つめる忍足の眼差しは、とても柔らかくてーーーーそして、満足そうだった。

「忍足君っ。」
「?」
「忍足君、なんだか気合い入ってなかったっ?」
「・・・気合いていうと。」
「何かこう・・・すごくやる気があるっていうかっ。のりのりっていうか、楽しそうっていうかっ。」

上手く言えないけど、何だろう。
あくまで言い出したのは可憐であるはずなのに、なんだかその自分よりもテキパキ動いてるというか、率先してやってるような空気を可憐は感じた。

別にだからどうと言うわけじゃないから良いといえば良いのだが、忍足がこんな風に自分主導であれこれ進めるのは珍しい。

そう思い聞いてみると、忍足は可憐の方に向けていた顔を、またグラスの方に戻した。

「・・・そもそも、これ跡部から貰うたんやろ?」
「うんっ。」
「せやからまあ、その時点でええ品な事はもう決まってるような物やと思うて。」
「うんっ。」
「綺麗やろなあと思て。」
「うんっ。」
「やから。」
「・・・うんっ?」

だから?
だから何なのか。

綺麗だと思った、から?それだけ?

(いや、ううん・・・それだけっていうか、綺麗だろうなと思ったからで、十分理由といえば理由なんだけどっ。)

「・・・何か、ちょっと意外だねっ。」
「意外?」
「なんていうか・・・こういうの、男子はそんなに興味ないかなってっ。だから、忍足君が乗り気なのが余計に不思議だったっていうかっ。」
「ああまあ、確かにどっちかいうたら女子の方が、こういうのん好きやろうな。」
「だよねっ。」
「でもそれはそれとして、俺は結構こういうの好きやで。」
「そうなんだっ?」
「こう、こういう雰囲気というか。くつろぐやん。」
「・・・・・・」

忍足は会話に応答してくれるが、あくまで目は決してグラスから逸れない。

「・・・ねえ忍足君っ。」
「うん?」
「もしかして、今・・・」

今、恥ずかしいと思ってるんだろうか。
向日曰く忍足は意識して「心を閉ざす」らしいが、これがもしかして正にその状態なんじゃないのか。

「・・・えへへへっ!」
「?」
「何でもないっ!綺麗だねっ!」

こういう事は普段思わないのだが、可憐は忍足を可愛いと思った。
別にこういうのを綺麗と思う趣味があったって、別に構わないのに。それを恥ずかしいと思ってそうな辺りが、いかにも思春期っぽくて微笑ましいのだ。

(・・・・本当に綺麗だなっ。)

グラスは綺麗で、きらきら輝いていて。
ついでに忍足の滅多に見られない一面が、ゆらめくガラスの影の向こうに見えた気がして、可憐は笑顔が零れるのだった。



オマケ

「・・・因みに可憐ちゃん。」
「えっ?」
「それを必ずしも俺にせえとは言わへんけど、一人でやったらあかんで。絶対誰かと一緒に居りや。」
「・・・・はい・・・・」




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