5万打記念企画 No.052


そんなわけで、おしゃれ関係には手際が良い紀伊梨のおかげで(紀伊梨のせいでとも言うかもしれない)今日の放課後、千百合はばっちりメイクをして教室に居た。

「・・・・・・」

何度鏡を見ても凄いと思う。
よくよく考えたらブルーでまとめたメイクなんてまともに見たことがなかったけど、よくもまあ仕上げられるものだ。自分じゃ絶対に不可能。

(・・・・大人なメイク、ねえ。これが。)

まあ確かに大人っぽくまとまってるとは思うし。
昨日雑誌でちらりと見た系統の服にも合うんだろうな、と思う。今制服だけど。
何が合うんだっけ。コンサバとモードだっけ。

そんな服持ってないけど、似合うんだろうか。
また高校生と間違われたりするかな。
あんまり年上に見られるのも、老け顔と思われてるようでちょっと微妙なのだが。

(ああいやでも、何か最近考えた限りだと動じないのが大人、って事になるっぽいから。だからメイクが大人っていうより、この大人なメイクをした上で、平然とした顔してるのが大人っぽいのかな。)

今千百合は、メイクが物珍しくて鏡越しに、自分から自分へとしげしげした視線を送っていたが。ちょっと気を付けて平然とした顔・・・千百合のデフォルト顔である真顔になってみた。

「・・・はー。」

確かに。
ちょっと大人っぽいと、今のは自分でも思ったぞ。顔に出さないように気を付けたけど。

(うん、わかった。やっぱりポイントは真顔なわけね。)

真顔はいつもの顔だから慣れてるぞ、うん。

なんて思っていると、足音が近づいてくる。
もう今、教室には千百合しかいない。

どうしよう。
この場合どういう顔してれば良いんだろう。と思って、ちょっと自分で笑いそうになった。今、真顔がベストだなって結論出したところなのに。

「千百合。ごめん、待た、せ・・・・」

幸村は言葉を切った。

おお凄い。珍しく動揺してるじゃん、とか内心で呟いて自分を誤魔化しつつ、千百合も内心じゃ結構ドキドキしている。
幸村が戸惑っているのは伝わってくるけど、これはどっちなんだろうか。受けているのか不評なのか。

「・・・どうしたんだい?それは・・・」
「いや、今日の昼に紀伊梨にやってもらって。」
「五十嵐に?」
「何か、使ってないアイシャドウが出てきたとかで。私に似合う色?メイク?だからやってあげる、とか言って。」
「ああ、そういう・・・何か大きな心境の変化があって、今日からフルメイクで過ごすことにでもしたのかと思ったよ。」
「ないわ。面倒くさいし。」
「ふふっ、そうだね。千百合はメイクとか、面倒って思うタイプだから。」

言いながら幸村は、千百合が座っている席の前の座席の椅子を引いた。

「今日は急ぐかい?」
「急ぐ?」
「どこか、行きたいところがあるとか。用事があるから、早く家に帰りたいとか。」
「いや、それは別に。」
「そう、良かった。じゃあ、もう少しちゃんと見ていても良いわけだ。」
「・・・・何を。」
「勿論、千百合の顔を。」
「いや、良いよ!それならもうさっさと帰っーーー」
「待って、もう少しだけ。外に行ったら、あんまりじっくり見られないから。」
「〜〜〜〜〜いやでも、」
「だって、今日だけだろう?そういう成り行きなら、明日以降は普通に戻る筈だし。今だけだから、頼むよ。」

それ、紫希にも今日の昼に言われた。
今日だけだから、って。

今日だけだから良いかと思ったのに、逆に今日だけという事を盾にされるとは。

「・・・せめて、あっち向いてて良い?」
「わかった、良いよ。」

よし。
千百合はちょっとほっとして、夕日が差し込む窓の方を顔ごと向いた。
ちょっと眩しいけど、まあしょうがない。

「・・・・・」
「夕日の色が濃くて、わかりにくいけど。」
「・・・何。」
「ブルーなんだね。ベースの色として。」
「ああうん。青って言ってた。紀伊梨んとこのおばさんが買ったんだけど、自分で使わないからって。」
「ああ確かに、皐月おばさんにはちょっと合わないかもしれないね。ファッションでいう青は、ぐんと大人びて見えるから。」

紀伊梨の母皐月は、紛れもなく大人ではあるけれど、大人びた性格かと言われると違うと言わざるを得ない。どちらかというと無邪気で、幾つになっても良い意味での子供らしさを持ち続けているような人だ。

その点、千百合はそもそも性格が大人びているーーーまあ、最近考えてみたところの大人っぽさに合致している。と、自分で思う。子供だけど。

(いけないいけない、忘れてたわ。真顔、真顔・・・)

平然としてないと。
平然と。
何でもない、何でもない。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・あの。」
「うん?」
「・・・・もうそろそろ良くない?」
「ふふっ!ごめんね、もう少し。」
「そんな見るもんでもないでしょ。」
「そんな事はないよ、綺麗なものは見れば見るほど良いものだよ。」

千百合は夕日の方に顔を向けながら、ちょっと目を見開いた。

綺麗。

そうか。
綺麗だと思われていたのか。

ああ、これは駄目だ。

「・・・やっぱ無理だわ。」
「うん?何が?」
「いや、大人っぽくしてようと思ってたんだけどさ。やっぱり無理があるなと思って。やめるわ。」

だって、綺麗だって言われただけで、こんなに嬉しいし緊張するんだもん。
真顔で居ろって言われても限界がある。せめて恥ずかしいと思ってる顔くらいさせて欲しいというか、真顔を貫けても顔が赤くなってたらもう意味はない。

「ええと、それはメイクをこの場で落とすっていう事かい?」
「ああ違う、そうじゃなくて。大人ぶった顔・・・表情ね。表情をしてるのを辞めようと思って。」
「大人ぶった、表情・・・?」
「真顔って大人っぽいのかなって。だからメイクに合うのかもって思って、そうしようと頑張ってたの。最近ちょっと考える機会があってさ、大人っぽいってなんだろう、って。私よく大人だねって言われる方だと思うけど、自分じゃまだまだ子供だって思うことも多いし。」
「それはまあ、俺たちは今狭間の存在だから。」
「狭間の存在?」
「大人と子供の間っていう事さ。勿論法的には間違いなくまだ子供だけれど、そういう事じゃなくて心理的にね。完全に子供だった頃と違って、じりじり大人に近づいて行って、今は丁度間に居るようなものなんだよ。」
「はあー・・・」

それはそうかもしれない。
大人といわれると間違いなく違うけど、まだ子供でしょと言われると違和感を段々抱いてくる。今は皆そうなのかも。

「だから、自分に二面性を感じるのはある意味では当たり前だね。俺達は今、子供の面も大人な面も両方持ち合わせている、そういう存在だから。」
「ふうん・・・」
「ただ、それはそれとして。」
「ん?・・・・!?」

幸村の手がいつの間にか伸びてきていて、千百合の頬を撫でた。

「ちょっと、」
「どんな表情でも、大人っぽくても子供っぽくても千百合は綺麗で可愛いから。あまり頑張って表情を作らなくても良いよ。それこそ狭間の美しさがあって、見ていて飽きないから。」

本当かよ、適当言ってないか。
というかドキドキするから顔に触らないで。
手とかファンデで汚れるよ、知らないよ。

色々内心で思っているけど、一つも言葉に出来ない千百合は。

「・・・ねえ、もう帰ろう。」
「もう少し駄目かな?」
「もう結構待ったから良いでしょ。」
「後5分だけ。」

結局上手く逃れられなくて、諦めの境地で幸村の言うことに従ってしまう。

狭間の美しさなんて、そんなもの本当にあるのかーーーよしんばあったとして、今の自分にそれが備わっているのかもわからないけど。

幸村がそうだと言ってくれるのならまあ良いかな、と思う千百合を、夕日は変わらずオレンジに照らし続けていた。





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