5万打記念企画 No.052
更にその次の日、千百合はそんな話をすっかり忘れていた。
忘れていたのだが。
「・・・・・何これ。」
「コスメセット!です!」
紀伊梨が休み時間に持ってきたのは、どでかい箱だった。
いや、箱だと思ったのはあくまで千百合であって、見る人が見たら一目でメイクボックスと分かるのだが。
「ブンブンからも聞いてやす!今日のお昼は、真田っちテニス部の話し合いで居ないんっしょー?だから今がチャーンス!」
「そういう事だけはきっちりしてんのね。」
「チャンスって、何のチャンスですか?」
「そーそー!あのねー、きのーおかーさんの部屋に行ったら、良いものがあったんですよっ!・・・じゃーん!」
「・・???」
「わあ、綺麗ですね!アイシャドウ・・・ですよね?」
「そー!」
紀伊梨が出してきたのは、スマホサイズ程の美しいアイシャドウパレットだった。
蓋の部分が実に凝った装飾で、深海をイメージした無数の種類の美しい青が波のようなラインを描いていた。
が。
この場合、柄がどうのというよりも気になることが。
「・・・これって、パッケージが青いと言うことは、」
「うん、中のカラーも青!ほら見て見てー!すごいっしょ、沢山青ー!」
そう。
アイシャドウパレットというのは、大抵の場合パッと見の色味と中身の色味が似ている。
この場合外側の箱が青ということは、中も青系統なのかと思われたが、正にドンピシャリ。
「これね、ほんとーはおかーさんのなんだけどー。パケ買いしちゃったんだけど、青は自分の顔に似合わないからって使ってないんだって!でさでさ、きのー千百合っち、青系のメイクがおすすめ!って言われてたっしょー?」
言われてたっけ。
と一瞬思い、直ぐに思い至った。
「雑誌じゃん。」
「雑誌でもいいじゃーん!ってわけで!千百合っちメイクしよー!」
「ちょっと、何でそうなるのよ、」
「だって青が見つかったから来たんだよー!」
「自分にしろよ!もしくは紫希とか、他のーーーー」
「紀伊梨ちゃんイエロー系統が好きだもーん!紫希ぴょんも、青ってイメージじゃないよー!キリッとした感じになるもーん!」
確かに。
自分達3人の中で一番キリッと系統のメイクが似合うのは自分だろうし、また好むのも自分だろうと千百合は思った。
実に納得してしまう。
「ってわけで、いっきまーす!」
「待て!まだやるなんてーーー」
「だって今やっとかないと、放課後時間あるかわかんないじゃん!」
「・・・放課後?」
「ああ!そうか、今日ってミーティングですものね。放課後は、一緒ですよね。」
そうだった。
今日テニス部は全体ミーティングだけだから、比較的さっさと終わるのだった。
「え、余計嫌。」
「何で!?」
「いやだって、喜ばれるかどうか、」
「そんなの喜ぶに決まってるよー!」
決まってるって、適当言ってるんじゃないだろうな。
と言いかける千百合だが、紀伊梨はそんなつもりはない。分かってる。ここでそんな事わからないだろと言い募っても、わかっては貰えないだろう。
「偶には、良いんじゃないでしょうか?」
「紫希まで、」
「どっちにしろ、基本的には今日だけの話ですから。幸村君だって、気に入る気に入らないは置いておいて、明日からずっとこうだとは思いませんよ。」
「・・・・まあ。」
それもそうではあるけど。
「んじゃ決まりね!おしゃ、千百合っち!じっとしててねー!」
「・・・軽めにしといて。」
ベースクリームのひんやりした感触が頬に乗った。
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