5万打記念企画 No.055


「ほんで?」
「うんと、だから結局人間っていうのは大抵二面性っていうのがあって、主人公の坊ちゃんはそれがないからある人が不思議に見える・・・っていう事かなっ?って思ったりっ。」

帰り道。
可憐と忍足は、駅までの道すがら坊ちゃんの話をしながら歩いていた。

「どうっ?合ってるっ?」
「合ってる・・・ていうより、こういうのんはテストでもあらへんさかい、可憐ちゃんがどう感じるかでええねんで。」
「私がどう感じるか、かあ・・・」
「極端な話、そこの部分に着眼するていう時点で既に個人の意見やからな。人と本の感想の共有ていうのんの醍醐味やわ。」
「そっ・・・かあっ。」

正直、何故ここに着眼したかと言われると、本のことと言うより忍足の事考えていたからなのだが。
と思いながら隣の本人にちらと視線をやると、忍足自身はそれに気づくことなく、二面性なあ、と呟いた。

「主人公の坊ちゃんは二面性があらへんタイプやけど、周りから見るとそっちのが変ていう事になるんやろな。」
「そうだね、お話の中でも結構遠巻きにされて・・・」

ひいては、忍足もそういう人種だと思われてるんだろうか。
だから彼奴何なんだろう的な目で見られたりするんだろうか。

「忍足君っ!」
「ん?」
「私、坊ちゃんの事好きだよっ!あ、作品じゃなくて主人公の方ねっ!」
「そうなん?」

ああいう主人公が好みとは意外やな、と思う忍足は、可憐が遠回しに自分を励ましている事など全く知らない。

「俺は誰か一人上げろ言うたら、うらなりが結構印象強いわ。」
「あっ、優しいよねっ!」
「それもそうやしこう、境遇が。」
「境遇っ?」
「応援したならへん?」
「ああ・・・」

実はこのうらなりというキャラ、作中では結構な不幸キャラである。どこがというより、色々全体的に。

「・・・でも、忍足君ってそういう読み方するんだねっ。」
「?」
「なんていうか、感情移入するっていうか。もっとこう、ドライに読んでるのかと思ってたよっ。」
「俺結構感情移入して読む方やで。」
「そうなのっ?」
「まあ、わざとしてるわけやあらへんけど。何や考えてまうねん、今こんな事思うてるんやろうなとかそういう事を。」
「へええ・・・・」
「人間の心の動きて面白いさかいな。」

そしてその上で恋愛小説とか読んじゃうと、もう感情が忙しくて仕方ない。
おお、そこでそうなるんや・・・の連続。
顔には出さないけど、手軽に乗れるジェットコースター感覚が忍足は好きである。

「漱石はそれこそそういうキャラ性いうか、人間ありきで話作ってくれるさかいその辺も好きやわ。」
「あははっ!そうだね、キャラが立ってるよねっ!忍足君の言った通りだったなって、読みながら思ったよっ!」
「今、どの辺まで読んだん?」
「今?今はね、えーと・・・昇給のお断りをしに家に行ったところかなっ。」
「ああ、その辺から山場やな。」
「そうなんだ、楽しみっ!」
「せやな、俺も楽しみやで。」
「えっ?」

忍足は何が楽しみなんだろう。
この場合楽しみなのは読んでる当人である可憐なのであって、忍足が楽しみにするような事は何もなくないだろうか。

「最後まで読んでへんねやろ?」
「うんっ。」
「これから読むんやろ?」
「うんっ。」
「ネタバレとか気にせえへんで感想言い合えるのはそっからやんか。」

そう言う忍足の顔は、なんだかいつにもまして楽しそうだった。
でも、いつにもましてとか言いつつ、やっぱりそんなに前面に顔に出てるわけじゃない。多分この顔を見て、忍足君何だか楽しそうだなあなんて分かる人間はそんなに多くない。

(・・・そっか。)

忍足は多分。
坊ちゃんに似てるタイプの人間だと思われている。

こういう所がクールに見える忍足の二面性ーーー結構人懐っこい所もあるという面だが、これが見えづらい。だから周りからは一面的な人間だと・・・まあ有体に言うと普通と違った人に見えるという事かもしれない。
だからこういう面をもっと普段から人に見せていたら、もっととっつきやすい感じになるんじゃないだろうか。

「・・・ねえ忍足君っ。ちょっと話が変わっちゃうんだけどっ。」
「ん?」
「忍足君って、結構人とお喋りするの好きだよねっ?」
「・・・・んん。」
「んっ?あれっ?」
「いやまあ、嫌い言うたら語弊があるで。でも、好きや言うのんも語弊がある気がすんねん。」
「えっ、だってこういう話って、人とお喋りが好きじゃなかったら進んでしないような気が・・・」
「せやなあ、なんて言うたらええんやろ。基本的に会話は嫌いとちゃうねんけど、それはそれとして別に、無理して会話せえへんでもええみたいな考えもあんねん。」
「ああそっか、確かにそうかもっ。」
「後もっと基本的な事として、人並みに人の好みはあるもんやから。」
「・・・んっ?人並みに、人の好みが・・・?」

「誰とでも話しかけられたら会話出来るけど、進んで話しに行きたい相手くらいは選ぶでっていう意味で。」

可憐は目をぱちくりさせた。

いや。わかる。
そういうのは多かれ少なかれ誰だってあると思う。話しやすい相手とそうじゃない相手がいるから、人間というのは知り合いと友達が別カテゴリで出来るのであって。

でも、それってさ。

「どないしたん?」
「えっ?あ、ああっ!ううん、何でもないよっ!」
「・・・何や楽しそうやけど、俺何や変な事言うた?」
「言ってないよ、全然っ!何でもないから、本当だよっ!」

それって、自分は忍足の中で話したい相手と思われてるって事で良いんだろうか。
良いんだろう、きっと。

それは可憐にとってすごく嬉しい事だった。

「あの、私頑張って早く読むねっ!」
「ああいや、別に急かしたいわけやあらへんで。忙しいねんし、読みたい時にーーー」
「だって、私も早く忍足君と坊ちゃんの話したいもんっ!」

そう言うと、忍足はちょっと目を見開いた後、穏やかに微笑んでおおきにと呟いた。
その顔はやっぱり皆が見られるわけじゃないのかなと思うと可憐は余計に嬉しくて、鞄の中にしまい込んだ「坊ちゃん」に有難う、と内心で呟いのだった。



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