5万打記念企画 No.056


紀伊梨はよく唐突に何かを思いついて行動に移す。

そこにあまり脈絡とか、そういうのは無い。
そうだ、京都行こう。みたいなノリで、そうだあれしよう!今しよう、すぐしよう!な思考になる。

この日もそうだった。
理科の実験で逆さまになったろうそくの影を見て、紀伊梨は何故か唐突に思った。

そうだ。
曲、作ろう。






「で!どんなんが良いですかっ!」
「それは俺が決めるのか。」

いきなりD組にやってきた紀伊梨に、柳は落ち着き払って答えた。
紀伊梨が唐突なのにももう慣れて随分経つ。

「そもそも、お前はそういう作り方が出来るのか?」
「お?」
「黒崎から、お前は所謂直感型というか・・・なんとなくで浮かんだ曲を録音しておいて、編曲を黒崎が行って一曲作り上げる、という手順になっていると聞いた事がある。作ろうと思って作れるものなのか。」
「うん!あんまやらないけど、何回かやった事あるよ!」
「そうか。」

とはいっても紀伊梨のそれは、こうしてヒアリングはしても最終的には「出てくる」のを待つだけという、いつものパターンに落ち着くのだが。
無理やりひねり出したりしない。楽しくないから。

「で?で?どんなのが良いすか!」
「とは言っても、俺は明るくないからな。任せるが。お前の中での、俺を連想させるような曲で良い。」
「えー!何か言ってよ、何かー!」
「何か・・・」

大体のことは軽快に答える柳だが、こういう数値で割り切れないフィーリング系の質問は偶に詰まる事がある。まして「お前の曲を作りたいから好みを教えてくれ」とか、普通人生でそんな質問される機会があるかどうか。

「そうだな、ならあまり華やか過ぎたり尖ったりしているのは辞めてくれないか。考え事の邪魔にならないような、良い意味で聞き流し出来るようなものが良い。」
「ほー・・・じゃあじゃあ、パンクとかロックはなしですなっ!」
「俺に対して、そもそもロックやパンクを当てがおうと思っていたのか。」

どう纏める気なんだか逆にちょっと気になるけど、辞めておいた。
ロックやパンクが良いと思ってるんだとみなされても困るし。

「せめてポップス程度にしておいてくれ。出来ればバラードが良いが。」
「バラード・・・んー、バラードかー。バラード、バラード・・・」
「何かやり難いか?」
「バラードも良いんだけどー、今思いついたんだよね!やなぎーはなのー、あれ、あのー・・・あ!エレキ!エレキが良いよ!」
「エレキ。」
「エレクトロニカってゆーやつ!Capsuleみたいなさー!こー、ピコピコしてて、ガンガン系のテンポの奴!」

紀伊梨には、柳の中にバラードのイメージはあまりない。
というか、ゆったりした人というイメージがない。
確かに静かではあるけども、柳はいつもてきぱきしていてきびきびしていて、のんびりゆったりみたいな感じから遠いのだ。
紀伊梨はどっちかというと柳には尻を叩かれる(主に勉強面で)事が多いので、余計にそう思うのかもしれない。

「うん!そだそだ、それでいこ!タラララララン、タッタッタッタタン!みたいな感じでいこ!」
「俺に聞きに来た意味はーーいやまあ、この際良いか。」
「んお?」
「何でもない。それより。」
「ほい!」
「それは何人分集めるんだ?」
「え?皆の分!やなぎーが一番最初だよ!ゆっきー居ないしなー。」

幸村も居ないし、同じクラスの丸井もふと気づくと姿を消していた。

「とゆーわけで!今から他の皆を捜しに行ってきま!」
「なら俺も行こう。」
「お?」
「良いデータが取れそうだ。」
「ほんと!?やったー!」

こんなデータ、それこそ今を逃したらいつ取れるかわからないし。
小さく笑う柳は、珍しく喜色を露わにしている事の表れだった。


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