5万打記念企画 No.075


4限の理科はラッキーな事に、実験が各テーブル頗るスムーズに運んだので、チャイムがなる5分ほど前に終わりになった。

音楽室へ行ってくるという千百合と分かれ、紫希は一人で屋上へ。

「よいしょ・・・わ、空いてます・・・」

当たり前なのだが今まだ大抵のクラスが授業中なので、屋上は無人だった。
ここは昼になると解放される方の屋上なので、もう少し待ったら人が沢山になるだろう。
でも今は誰も居なくて、空が広い。

「・・・・・・」

もしメテオが現れるとしたら、やっぱり視認できるんだろうか。
こういう青空にぽっかり浮いてたりとかするのかな。
そしてそれが見上げるたびに近くなっていって、ああいよいよだなあとか思いながら過ごすんだろうか。

(ああなんだか、そんな事になったら気になって気になって、他の事が手につかなくなりそうです・・・)

そんな状態で最後のひと時を楽しめって言われても難しかろう。
見たくないなら見なきゃ良いとか言うけれど、目の前に持ってこられると流石に辛い。
ただでさえ自分は気にする質なのだ。何か強烈に意識を奪い続ける事がないと、生きてる時間を満喫できそうにない。

ああでも。

「・・・ちょっと無理してでも、学校に来れればもしかしたら・・・」

そういう時の学校ってやっぱり閑散としてるんだろうか。
逆に皆日常っぽいことを求めて、普通に来たりするのかな。

学校に来て、いつもの皆と一緒に過ごしていれば、段々頭上のメテオの事なんて忘れていくような気がする。

今までだって大概そうだった。
紫希はその性格故に、些細な事でも何かに悩んだり落ち込んだり、明るい気分になれない時がある。

でも、学校に行けば。
皆に会えば、それはいつの間にか加速度的に薄くなって昇華されていく。

どうでも良い話をして、休日に遊ぶ話をして、お弁当食べて読書して、音楽室で練習したり、皆で本気出して遊んだり。
そんな日々を紫希はとても愛おしく思うし、例え最後の日でもそうできれば楽しいと思う。

それこそ棗がゲームを考えてくれたりなんかして。
きっと授業は無いだろうし、学校を使って鬼ごっことか。ああでも、自分は走るのが遅いからかくれんぼとかの方が助かる事は助かるーーー

「・・・・わっ!」
「・・・!」

声も出ないくらいびっくりして振り向くと、重箱を持った明るい笑顔の丸井が立っていた。

「よ、お待たせ♪」
「丸井君?え、あの、どうして・・・」
「幸村君にさ。今日お前がちょっとの間、一人で待ちぼうけになるからって聞いて。」
「わ、私聞いてないんですけれど・・・」
「ああうん。言うとご迷惑ですって辞退しだすから、言うの止めておくねって言ってた。」
「・・・・・・」

こういう所流石に幼馴染というか、お互いの事を熟知しているので幾らでも先回りが可能。
止めてくれと言っても、あの端正な顔でにっこり笑ってごめんねと言うだけで、別に直しはしないんだろうなあというのは想像がつく。

「で?かくれんぼしてえの?」
「え?」
「さっき言ってたじゃん?」
「あ!あの、違うんです、あれはそういう意味じゃなくて、ちょっとメテオの事を・・・」
「メテオ?」
「昨日テレビで映画がやってたんです。私は見てないんですけれど、クラスで話題になっていて・・・」
「いや、それはうちのクラスでもそうだけど。でもそれとかくれんぼって、どういう関係の話?」
「いえその・・・あの、もし明日メテオが降ってくるなら、何がしたいかって聞かれて・・・」
「へー。え、かくれんぼしてえの?なんで?」
「か、かくれんぼに限らなくて良いんですけれど!要はその、皆と遊んで居たくて、学校に行きたくて、ギリギリまで一緒に居たくて・・・」

言いながらちょっと気恥ずかしくなってきた。
何か凄い甘えたの寂しがりみたいに聞こえてないだろうか。いや、実際そうなんだろうけど。自覚はある。

ふうん・・・と言いながらこっちをじっと見てくる丸井は何考えているのだろうか。
小さな子供みたいとか思われてるかな、と自分がどう思われてるのかで必死になる紫希は、ほぼ例外なく止まらない丸井の箸がぴたりで止まってる事に思い至らない。

「・・・・ええと、そうです丸井君h「メテオって、地球の裏側に逃げたりしたら助かったりしねえの?」え?」

紫希は戸惑いつつも首を横に振った。
駄目だ。駄目なんだ、そのプランは。

「凄く大きいらしいので。」
「そお?あ、でもああいうのって、結局最後に軌道が逸れるんじゃねえ?」
「真っすぐ落ちてくるそうです・・・」
「んじゃあ、振ってくる前に撃ち落とすとか。」
「人間の兵器は、敵わないとかで・・・」
「宇宙に逃げるとか?」
「そんな暇はないとの事です・・・」
「うーん・・・」
「・・・丸井君は、メテオから逃げたいんですか?」
「んー、まあ逃げるより集中して遊びてえ気持ちもあるんだけど。」
「はい。」
「でも、遊んでたらなんだかんだ惜しいなって思う気がするんだよな。」
「惜しい・・・?」

「明日が来ねえの嫌だな、って話。俺、毎日楽しいもん?」

別に、どこだって良い。
地球の裏側でも、氷河期の世界でも宇宙でも。

この日々が続くのならそれがどこででも別に構わないけど、それを奪われたくはない。
最長で後24時間しかないなんてそんなの絶対嫌だ。

今日は素晴らしくて、でも明日はもっと素晴らしくて、明後日は更に素晴らしくて、この日々を積み重ねた向こう側に何があるか知りたくてわくわくしているのに。
それが途中で否応なしに打ち切られるなんて、そんな理不尽な事あって良いはずがない。絶対嫌。嫌ったら嫌。

「そう・・・そう、ですね。私もそう思います。」
「だろい?さて、ごちそうさまでした。」
「へっ!?」

早い。自分も食べ終わったけど、どうしてこの量の差で同じタイミングで食べ終わるんだろうか。
ちょっと呆然とする紫希をよそに、丸井はさっさと重箱を片づけて小さく言った。

「これでちょっと有利だな。」
「はい?」
「まあまあ、もうちょっと待てって♪」
「???」

よくわからない。
何だか教えてくれる気がなさそうな気配を感じて、紫希はそれ以上聞かず自分の弁当箱を片づけた。

丁度その時。

「わーーーん、遅刻しましたーーー!」

凄い勢いで紀伊梨が屋上の扉を開けた。
後ろから千百合と幸村、それから棗が続く。

「やっほwごめんごめん遅れましてw」
「悪いね丸井、任せちゃって。」
「別に?」
「あー、やっぱもう食べ終わってる。ごめん。」
「いえそんな。」
「黒崎の兄貴の方!」
「はいなんでっしゃろw」
「ほい。」

とか言って丸井がかるーく左手を上げるので。

「ほいw」

と言って、意味も分からず棗はハイタッチした。
すると丸井は、それは良い顔で笑って言った。

「じゃ、お前が鬼な♪」
「へ?」
「今から隠れるから、50数えたら探しに来いよ?よーい、」
「え、」

よーい、で紫希の手を握って。
ドン、でやる事は一つ。

「ドン!」
「え!あ、あの、ちょっと、」

「おい、ちょっと待ってー!これは何なの、かくれんぼなのー?」

丸井に手を引かれる紫希は、背中に棗の声を聞く。
丸井がそれに振り向きざま答えた。


「明日メテオが降ってきたらごっこ!」


「やばいわからないw50数えて探しに行くとこまではわかったけどw」
「おー!やばやば、早く隠れないとですな!」
「あははははは!俺達も隠れようか。どこかご飯も食べられそうな所で。」
「あー、それは良いな。賛成。」
「くっそ、俺も隠れたいんですけどw弁当じゃなくてパンにすりゃあ良かったwいーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、」
「ねえ棗、今は何時だい?」
「時そばやめてw」



会話がどんどん遠くなっていき、聞こえなくなる。
紫希は丸井に手を引かれながら走る。

そうしてる間にもすれ違った顔見知りから丸井は何してんの?と話しかけられ、さっきと同じ返事をする。

「あの、丸井君、」
「んー?」
「明日メテオが、降ってきたらごっこって、」
「だって、降ってきたらかくれんぼしてえんだろい?」
「そうですけど・・・・」
「じゃあ良いじゃん?

降らない間にどんどん消化しねえとな。」

明日も明後日もきっとあの空はあの空のまま。
メテオが浮かんでいたり、それが近づいてきたりしない。

そんな理想が現実として目の前にあるんだから、喜んで世界が滅ぶまでの延長を過ごそう。
折角期限なしで、貴方と一緒にいられるんだから。

「うお!」
「きゃ・・・あ!すみません桑原君、」
「ようジャッカル、丁度いいや。」
「は?」
「これ、教室届けといてくれよい。で、その後お前も隠れとけよ?」
「俺かよ!空の弁当箱を押し付けてくるな!」
「ご、ごめんなさいすみません、」
「あ、いや、春日は別に・・・っていうか、2人とも何そんなに急いでるんだ?何かあったのか?それに、隠れるって何から?」

その質問に、丸井は紫希を見て。
紫希も丸井を見た。


「「・・・明日メテオが降ってきたらごっこ。」」


は?な顔になる桑原に、紫希と丸井は思わず笑ったのだった。





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