5万打記念企画 No.085
「・・・・・」
抜けるような青空。
足の部分にだけ当たってやたら熱い日差し。
横の方から4人分の寝息が聞こえてきて、周りからは他の生徒が昼食を続けて居たり、お喋りに興じていたり、グラウンドからパス!とか言ってるのが小さく聞こえる。
今日は皆で、昼食後に屋上の一角で昼寝をしていた。
隣には相変わらず綺麗な顔で眠っている幸村が居て、何でも昨日伸びてきたからちょっと髪を切りに行ったらしい。
ああそうだ。これを見ながら眠ったから、あんな懐かしい夢を見たんだ。
ヘアサロンのスタッフさんに、綺麗な髪ですねって褒められたのだそうだ。
千百合もさもありなん、と思う。幸村の髪はあの頃から変わらず綺麗に黒く輝いていて。
そして自分の髪も相変わらず、面白くもなければ並んで綺麗でもない髪のまま。
「・・・・・・」
毛先を指で弄んで、そりゃああの頃に比べたら多少梳かすようになりましたけどね、なんて誰かに言い訳してるような事を考えていると、幸村がゆっくり目を開けた。
ああ、起きた。
上体を起こした体勢でその様を見ていると、幸村は目だけで千百合を探して、ピントが合うと微笑んで言った。
「懐かしい事をしてるね。」
「は?」
「小学校・・・2年、いや3年生だったかな。そうやってただろう?忘れ物のノートを取りに行った時に。」
幸村はううん、なんて小さく言って普通に起きているが、千百合はびっくりしすぎて目を大きく見開きっぱなし。
嘘だろ、何故覚えてるんだ。というか、知ってるんだ。
「・・・あの時、居なくなかった。」
「うん?ああうん、俺はその場には居なかったけれど、迎えに行く途中で見えたんだよ。渡り廊下の向こう側から。」
マジか。見られていたのか。
千百合はなんだか急に恥ずかしくなって、そろりそろりと指先を毛先から外した。
幸村はそんな千百合を察してるのかどうか、特に様子を変えるでもなく話を続ける。
「あの時はいざ合流してみたらそれどころじゃなかったから、話さなかったんだけど。何やってたんだい?」
「・・・・・・」
「髪に触りながら水たまりを見てるから、何か理由があってやってるんだろうなとは思っていたんだけど。何か落としたのかなと思ったんだけど、行ってみても何も落ちてなかったし。」
「・・・いや、その・・・・」
「うん。」
「・・・髪が面白くないなと思って。」
「うん?」
「精市の髪って綺麗でしょ。こう、客観的に判断して綺麗な黒髪・・・濃紺か。の、髪してるから、比べたら私の髪ってさして面白味もないと思ってた。色とかも別に変わってないし。」
幸村は暫く口を小さく開けて、千百合をじっと見た。
大抵こういう時の幸村は、そんな事気にしてたんだ的な言葉が入るのだが。
「・・・どうして?」
「え?」
「ほら、千百合は特に小学生のころ、普通以上にお洒落に興味がなかっただろう?だから当時、どうして急に髪を気にしてたのかと思って。」
「どうして・・・?」
どうしてと言われると、我ながら古い記憶だから判然としないのだが。
いやでも、やっぱりきっかけはと言われると、あの幸村の黒髪があの女子の亜麻色の髪と並んだ図が気になったからだと思う。
でもじゃあ、そもそも何故そんなものに目が行ったのかと言われると。
今思うに。
・・・・うん。
「・・・・・」
「・・・わかった。良いよ、言わなくても。」
「それはどういう良いよなのよ。」
「ふふっ。ううん、細かい事はわからないけれど、俺の事みたいだから。それだけで良いかなって。」
わからないけどと言いつつ、頭が良くて察しもいい幸村は、凡その真実に気づいているのだろう。
気づくのはまあ好きにしてくれと思うが、やたらに嬉しそうなのは勘弁してほしい。
というか、よくそんなに喜べるな。
「・・・こんな昔の事掘り起こして、そんな楽しい?」
「あははは!うん、俺は嬉しいよ。」
「もう4年近く前じゃん。」
「だって、俺はあの頃からもう千百合を好きになりかけてたから。自分だけ追いかけてたわけじゃない、って分かるのは気分が良いだろう?」
かあああ・・・と音がしそうな勢いで赤くなる千百合は、顔が段々俯いていく。
それこそ髪でちょっとでも隠れないかとか思っているんだろう。幸村は彼女のこういう所が可愛くて仕方がない。
幸村は記憶力が良い。
だからわざわざ口に出さないが、あの日の事は他にも覚えてる事がある。
例えばーーー千百合がどうして王子の髪は黒髪なのかと聞いてきた事も。
当時クラスに居た彼女が亜麻色の髪だった事も。
(別に、構わないのにな。)
ありがちな色だろうと、幸村の黒髪と並んで対比になっていようといなかろうと。
触れてキスを落としたいと思う髪の女の子は、この世にたった一人しか居ないのに。
「そろそろ棗辺りが起きそうだから、また後で言うね。」
「・・・何を。」
「今俺が思ってる事だよ。」
放課後の誰も居ない一時で、一瞬だけ時間を貰おう。
そしてその一瞬で、彼女の髪に口づけを落としたい。
そう考えながら微笑む幸村の黒髪は、やっぱり綺麗だった。
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