5万打記念企画 No.085



放課後。

帰る支度をして、5人で学校を出て、少し歩いたところで千百合は気づいた。

「・・・・・・」
「そいでねー、CM終わったら・・・あり?千百合っち?」
「千百合ちゃん?」
「・・・ごめん、先帰ってて。」
「え、お前どしたの。」
「いや別に大した事じゃないよ。宿題のノート忘れてきたの思い出しただけ。」
「マジかよwーーーいってえ!いちいち殴るなよお前はもー!」

煩い、馬鹿が。
いちいち騒ぐ方が悪いんだよ。

そう思いながら踵を返した時、柔らかいながらもよく通る声が千百合を呼び止めた。

「黒崎、俺も行こうか?」

別にそんなの、幼児じゃあるまいし一人で行けるわ。
と、思ってはいる。し、他の人間が相手なら容赦なく口に出しただろう。

でも何故か、幸村にそれを言う気にはなれなかった。

とは言っても、幸村は割と結構誰を相手にしてもきつい事を言われづらい質なので、自分がどうのというより幸村がそういう人間なのだとこの当時は思っていたけど。

「・・・良い。」
「そうかい?」
「うん。良い。」

幸村が何故こんな事を言い出すのか、千百合ははっきり言って心当たりはあった。
具体的に誰がどう、という話じゃないが、小学生という奴は「合わない人間は放っておく」という事が難しい年齢である。特に低学年の時は。

皆で仲良くしましょうね、と教えられる中で情け容赦なく彼奴嫌いだから仲良くしない、と言うーーー言ってしまうタイプだった千百合は、正直当時クラスから多少浮いていた。
これに関してはスタンスが違う人間を放っておけないクラスメイトも幼かったが、仲良くしたくないです、を口や態度に出してしまう千百合も幼かった。
まあ、双方子供だったのだ。子供だから仕方がないのだが。

幸村はそれを心配してたのだろう、と思う。
一人で教室に行って、何か揉めるんじゃないかと思っていたのだ。

でも勿論、千百合だってそれはなんとなく分かっていた。
要は自分が黙ってさっさと用事済ませて戻ってくれば良いのだ。ただそれだけの話。

千百合は駆けだした。





教室に行き。
偶々残っていた女子から、黒崎さんどうしたの?と聞かれたのでノート忘れた、とだけ答えて何事も起こさずその場を後にし。

後は戻るだけ、よしと思って渡り廊下を歩いて居た時。

「・・・・・・・」

昨日雨が降ったせいで水たまりがまだ残っていたが、そこに映った自分に千百合は目がいった。

うん。やっぱり何度見ても、面白味のない髪。
水たまりはきらきらしてるのに、そこに映っている自分の髪は別にきらきらしてるわけではなく。

対比になるような鮮やかな明るい髪色じゃなくても、濃い色でもせめて幸村のように綺麗な髪で居られたら。
そしたら一緒に居ても、今日自分が感じたように、周りからああ並んでいて綺麗、とか思われるんだろうか。

(・・・ん?)

待って。
今思考回路が何かおかしい方へ行かなかったか。

深く考えようとした矢先、千百合の耳にそこまで聞きたくなかった声が聞こえてきた。

「黒崎、何してるんだよ。」
「・・・・!」

此奴はクラスメイトの・・・元、クラスメイトの男子である。
クラス替えの際に別になったので今はもう別クラスなのだが、どうやら千百合を覚えているらしい。(別に忘れてくれて良いのだが。)(ここで実際忘れてくれて良いと言ってしまうから、当時の千百合もよく敵を作っていた。)

千百合はこの男子が嫌いだった。
なんかやたらと絡んでくるし。

髪の先を握ったまま無視していると、その男子はそのまま近づいてきた。
さっさとどこか行って欲しいのだが。

「なあ、黒崎。何やってるんだよってば。」
「・・・別に。」
「別にってなんだよ。お前いっつもそんなんだよなー、可愛くねーの。」

それなら放っておけば良いものを、どうしてこうやっていちいち話しかけてくるのか。
ああもう煩い煩い、こんな奴嫌いだ。

もう良い、あっちから回り込んで下足まで行こう。
そう決めて元来た道を引き返し始めたが、その男子はなんと後をついてきた。

「・・・・・・」
「また無視してるだろ、なあ。」
「・・・・・・」
「返事しろってば、そういう所が可愛くないんだよ!」
「〜〜〜〜〜〜」
「いっつもズボンばっかり履いてるし、偶に話すけど男みたいな喋り方だし。

何でさっきから髪の毛握ってるんだよ、いきなり女子っぽいことしちゃってさー。」

ピキ、でもブチ、でも良いが、その一言が決定打だった。
さっきから鬱陶しくて鬱陶しくてたまらなかったが、もう耐えられない。

千百合は持っていたエプロンを振りかぶった。
これなら当たっても柔らかいし、別に手を出したって程の事にもならないだろう。一発お見舞いしてやる。

相手がげ、と言ったのも聞こえたが、知るか。そっちが悪い。
思いきり腕をぶん回そうとした。
時。


「黒崎。」


横から手首を掴まれて、千百合の腕は止まった。

「・・・・・・なんで、」
「ごめんね、良いよって言ってたよね。でも、やっぱり心配で。」
「いやそうじゃなくて。」

何故此処に居るのか、じゃなくて、何故自分の腕は動かないのか、と聞きたいのだが。
こう見えて、千百合は全力でまだ投げようと頑張っている。
のだが、幸村に掴まれている腕はびくともしない。痛くはないけど、それこそ石像か何かに手首を掴まれてるような感じだ。

「それで?何がどうしたんだい?」
「・・・ちょっと説明が難しいっていうか・・・」

何て言えば良いんだろう。端から全部話すのも告げ口してるみたいで嫌だし。
どうしようかと思っていると、あっちの方が先になんだ幸村か、と言ってきた。何故やや憮然気味なのか、当時の千百合にはわからなかったが。

「なんだって、随分な言い方だね。久しぶりに会った級友なのに。」
「うっせえなー、俺お前の事嫌いなんだよ。女みたいな顔してさ。」
「そうなの?」
「そうなのって・・・」
「俺は君が嫌いじゃないし、自分の顔を女子みたいだと思ったこともないから。」

鮮やかというか、相手にしていないというか。
小学校低学年にしてここまで煽りをいなすスキルを持っている者も珍しかろう。

「・・・行こ、幸村。もう良いから放っとこ。」
「そう?黒崎がそう言うなら俺も良いけれど。じゃあ行こうか。」
「うん。」
「おい、待てよ!」

勿論無視する。
構うだけ損だ。腹は立ってたけど、幸村が相手してくれてちょっと溜飲も下がった。
足早に此処を立ち去ろうとしたが、相手は更に何事か言いたそうにしている。

「なあ!聞いてんのかよ!」
「・・・・・・・」
「・・・ほんっと、お前らって変な奴!男のくせに女みたいな奴と、女のくせに男みたいな奴でつるんでてよ!ばかじゃねーの、変態!」

「あはははははは!」

幸村はいきなり大きく笑った。
千百合はぎょっとして立ち止まった。相手の男子すらもびっくりして、思わず黙った。

「何を言ってくるかと思ったら、言うに事欠いてそんな事・・・ふふっ、あははっ。」
「な・・・何だよーーー」

「あのね。君がどう思おうと勝手だけれど、俺は俺の事を女だと思ったことは無いし、黒崎の事を男みたいだと思ったことも、一度もないよ。」

千百合は幸村のこういう所が好きだった。

お前はお前。俺は俺。
徹底して自分の意見を曲げず、しかもその主張を実にさらりとこなしてしまう所。

「・・・嘘吐け!」
「嘘なんて吐いてないよ。意見が違うからって、こっちを嘘つき呼ばわりは止めてくれるかな。」
「だってーーーそんなのさあ、そんないっつも可愛くない奴、」
「可愛くない?誰が?」
「だからそこの黒崎だよ!」


「黒崎はいつも可愛いよ。」


そこから先、千百合の記憶は一時的に急に薄れる。
どうやってその男子の前から去ったか、よく覚えてない。

覚えてるのは、幸村に行こうと言われたけれど、固まってしまって歩き出せなくて。
そうして立ち尽くしていたら、手を引かれてやっと下足まで歩き出せたこと。


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