5万打記念企画 No.095


そして更に次の日の放課後。

「・・・・・こ・・・え、この・・・え?」
「どお?」
「どう・・・ええと、ええ・・・綺麗です、けど・・・」
「な、完璧だろい?っていっても、多分入ったのバレたら怒られっけど。」

丸井が連れてきてくれたのは、なんと教会であった。

ただの教会じゃない。
多分、もう使われていない教会だ。

だから人が居ない。
しかも、小奇麗な所を見ると、多分管理者は居る。
おい何やってるんだ、勝手に入るなと見咎めてくる大人がどこかに居るという事だ。

「で、でも鍵がーーー」
「大丈夫大丈夫、任せろい。確かに正面は鍵かかってっけど、此処は窓が・・・お、空いてる空いてる。」

手慣れた様子で空いてる窓を探る丸井。全くためらいがない。

「・・・丸井君は、此処に来たことがあるんですか?」
「おう、小さい頃は結構しょっちゅう。」
「しょっちゅう?」
「此処さ、ジャッカルの家から一番近い教会なんだよ。」

日本に来たばかりの頃の桑原は、周り中がいきなり何もかも見慣れないもののオンパレードになってしまい、ホームシックという程ではないがブラジルを恋しく思うことが度々あった。

だから日本にもある馴染みのあるものという事で、クリスチャンではないけど教会に行きたがり。しかしまだ日本語がよくわからず、日本人の付き添い居てくれたら助かるという理由で丸井は連れられて来た。
そしたらなんと。無人だったのだ。

「でもまあ、誰も居ないのも気楽は気楽だったし?ジャッカルもよく此処に一人で来たみてえだけど。」
「そうなんですか・・・私、来て良かったんでしょうか?桑原君も、何か自分達のテリトリーに他人がずかずか入り込んできたみたいに思ったり・・・」
「お前は友達だろい、大丈夫大丈夫。はい。」
「はい?」
「はい。」

そうだった。
入るには窓を乗り越えないといけないのだった。

当たり前のように手を出してくる丸井だが、今日は。

「・・・ひ、一人でやってみます。」
「お。マジ?」
「し、司祭さんならそうすると思うので・・・」
「そ?んじゃあどうぞ。」

しかしそうは言っても、気持ちだけはどんなに司祭さんであっても、身体能力はなかなか追いつかない。
高くはないが、足をどこに下したら良いか迷う。

「ええと・・・こうして、こうし・・きゃあっ!」
「!おい、大丈夫か?」
「大丈夫です、けど・・・」
「ははは!失敗したな。」
「うう・・・はい・・・」

やっぱり似ても似つかないなあ、とため息が出そうになる。

「ま、そうしょげるなって。えーと、で・・・はい。」
「はい?」
「これをこうして、こうして・・・」
「え、え、」
「で、これが・・・おし!完成!」

丸井は赤い薄手のストールを持ってきていた。
それを紫希の頭から被せて、胸の所でブローチで止める。

明らかに丸井の物じゃないのだが、これは良いのか。ダメなんじゃないだろうか。
ああでも、何だか悪い事に悪いことを重ねまくっている気がするけど、でも。

(司祭さんみたい・・・)

紫希も教会を見るのがまるっきり初めてというわけではないけど、クリスチャンでもなければあまり用事もないので、こうやって教会をまじまじと見ていい機会なんて今までなかった。
それにこの赤いストール。

「嬉しい?」
「はい、とっても!有難うございます!」
「どういたしまして。」

紫希は本当に嬉しかった。
普段絶対こんな事は出来ない。
いうなればこれは教会という建物をおもちゃにしているのであって、本来は使うべき人が正当に使うべきだから、こんな風にただ雰囲気を楽しむために居ていい所じゃない・・・と紫希は常々思っている。

「・・・あの、懺悔室に入ってみても良いですか?」
「おう、良いよ。っていうか、俺が良いとかダメとかっていう事でもねえけど。」
「ちょ、ちょっと不安で・・・」

そろ、そろ、と歩き出す紫希は奔放な赤の司祭さんとはとても似ても似つかない。
と思ったけど、丸井は黙っておいた。

「わあ・・・」

初めて入った。
というかまあ、本来神職しか入れないので、入った経験がなくて当たり前だけど。

腰かけて中をまじまじと見ていると、隣からがた、と音がする。

「・・・丸井君?」

「おう。久しぶりに入ったな、ここ。」

隣に入った丸井は、実は「此処が懺悔室」という強い意識を持って入ったのは初めてかもしれなかった。
昔は懺悔室の説明を桑原から聞いても難しすぎてピンと来なかったし、大きくなるにつれて此処には来なくなったから。

「・・・何か、懺悔しますか?」

「懺悔ね。でも俺別に謝るような事ねえんだよな。」

「・・・・・・」

「え、そこ黙る感じ?」

「・・・桑原君から時々、あれを押し付けられたとかこれを持っていかれたとか聞いているので・・・」

「あー・・・まあほら、ジャッカルだし?」

「ほらと言われましても・・・」

認めては居るが全然「懺悔」感の無い丸井に、紫希は苦笑しか出てこない。

「でも丸井君って、後悔とかあんまりしなさそうな感じですよね。」

「まあな。俺基本的にやりたいようにしかしねえし?逆に春日ってよく懺悔してそう。色々。」

「う・・・・」

「テストでケアレスミスしましたとか、本の読みすぎで夜更かししましたとか。」

「・・・・・・」

「図星?」

「はい・・・・・」

「ははははは!」

懺悔室というのは部屋が壁で区切られていて、懺悔を聞く司祭と懺悔する信徒は直接顔を合わせない事になっている。
つまり今の丸井と紫希は全然顔がお互いに見えていないのに、丸井は何故自分が図星だと分かるのか紫希は不思議で仕方がない。

(丸井君って、赤の司祭さんにそっくりです・・・)

作中の司祭さんは女だが、男版赤の司祭さんという感じが丸井はする。と思う。
懺悔室で相手の懺悔を笑い飛ばしてる所とか。
お前が懺悔しろと言われても、する事ないもんで流す所とか。

「はーあ、おかし。」

「ごめんなさい・・・・」

「・・・・・・」

「・・・丸井君?」

「・・・・・・」

「・・・え?あ、あの、丸井君?」

「・・・・・・」

「あの、聞こえてます?か?丸井君?」

こんこん、と壁を叩いてみるが、返事がない。
どうしてこんな急に黙るのだろうか。凄く不安なのだが。
扉の音はしなかったから、退出はしてない事は明らかだし。

(!も、もしかして中で急に具合が悪くなってたり、なんて・・・・)

「丸井君!丸井君!どうしたんですか!」

タン、タン、とちょっと強めに叩いてみたが返事がない。
紫希はいよいよ青くなって、急いで自分のスペースを出た。

懺悔室の仕様はあまりよく知らないが、鍵とかかかってませんようにと思いながらノブを捻ると、簡単に回って少しだけホッとした。

「丸井君!まるいくーーー」

「わっ!」

扉を開けると、丸井はちゃんとそこに座っていて、悪戯っぽい笑顔でおどかしてきた。

紫希は一瞬何が起きたのかわからないで、ぽかんとしてしまったが。

「ははは!びっくりした?」
「・・・・・」
「前にもジャッカルにやったことあるんだけどさ、見えねえもんだから結構本気で引っかかって・・・あれ?」
「・・・・・」
「おい?春日ーーー」
「う、」
「え?」

「・・・・!」

ぽろ、と一粒涙が零れ落ちた。

「え・・・ちょ、おい、」
「すい、すいません、でもホッとして、私、中で倒れたりしてるんじゃないかって・・・!」

痛いとも苦しいとも言わないで無言で沈むような、急に悪化するような体調不良なんて、それこそ重病に違いないと本気で心配したのだ。
時間にして僅か数十秒だったけど、その間に悪い想像が加速度的に膨らんでいって、それら全部杞憂だったとわかったらホッとして涙ぐんでしまった。

こうなるから、紫希に向かって怪我や病気を想起させる冗談はやってはいけない事を、幼馴染なら知っている。
ただ、丸井は知らなかった。確かに昔桑原にやった時も何かあったのかと思ったと言われたけど、こんな事になるなんて。

「悪い悪い、大丈夫だって。な?冗談冗だ・・・え?」

宥めている途中で、ポケットから主張するスマホ。
誰だよこんな時に。

誰か知らないけど、ちょっと応対だけしてすぐ切ろう。
なんて思って、誰からかも見ずにスマホを持ったのがいけなかったのだ。

「はい、もしも・・・・」

『あ、ブンブン出たー!』

げ。
丸井は思わず内心でそう呟いて、耳からスマホを離した。

「紀伊梨ちゃん・・・?」

『ね、ブンブン!どこ居るの、今日貸した10円・・・あれ、紫希ぴょん泣いてる?』

流石紀伊梨、耳が良い。
スマホ越しでしかも直接の話し相手でもない一言で、紫希の声である事ばかりか涙ぐんでる事まで当ててくる。

しくじった。
丸井にしては非常に珍しい失態。というか、運のなさというか。

『ねーちょっとー!なんで紫希ぴょんが居る・・・のは良いけどなんで泣いてるのさー!何したの!?ぶったの!?お菓子取ったの!?』
「ぶってねえし、取ってねえよ!」
「あの、紀伊梨ちゃん私大丈夫で、」
『あ、やっぱりほらー!泣きそうな声してるじゃーん!ちょっとどこ!?どこ居るの!?』
『おい、うるさいぞ!お前は校門で何を騒いどるんだ!通行の邪魔だ!』
『あ、真田っちいいとこ来たー!紫希ぴょんがブンブンに虐められてるんだよ、助けてー!』
『何!?』

「おいおいおい・・・・」

勘弁してほしい。よしんば紀伊梨に怒られるのは許容できても、あれしきの冗談で真田の落雷なんて、そんな大きな罪じゃないだろ。

『本人達はどこに居るのだ!』
『わかんないんだよー!ね、ブンブン結局どこ居るのー!?』
「・・・教えない。」
『えー!』
「教えたら怒られるじゃん、俺ぜってー嫌。司祭さんに懺悔はしても、お前には嫌。」
「ふっ!」

紫希はまだ目が潤んでいるけど噴き出してしまった。
懺悔することなんてない、ってさっき言ってたのに。

涙目のままの笑顔で丸井を見やると、丸井は珍しくちょっとばつの悪い苦笑を浮かべた。

「・・・お許し下さい?」
「・・・ふふ。はい・・・もうしないって約束して頂ければ。」
「オッケー、じゃない。はい。」

『ねーーーってばーーー!どこに居るのってばーーー!』

あまりに煩い、切るか。(ただ自分の過失が先なのは一応知っている)
それとももう紫希に回してしまうか。(ただしほぼ確実にこっちまで来られる)

結構真剣に迷っているのが顔に出ている丸井に、紫希はまた笑ってしまった。
4/4


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