5周年記念企画:また会いましょう

「えっ、」

信じられない、みたいな声を紀伊梨が出した。

「え、なんでなんでなんでー!?」
「何でって言われても。」
「だーって、こんなのおかしいよ!」
「おかしいわけじゃないだろw」
「紀伊梨ちゃん、残念ですけれど、人数の都合がありますから・・・」
「・・・・っもー!」

千百合はなんと、4人のグループの中で一人だけ別教室に割り当てられてしまった。というか、同じ小学校ごとに固められている中で、母校が人数の関係で2つに分かれてしまい、千百合だけが別教室になったのだ。だから、同じ小学校の人は教室に居る。友達じゃないけど。

「じゃ、あとでね。」
「千百合っち〜・・・!」
「な、何か困ったことがあったら、いつでも言ってくださいね!」
「健闘を祈るわw」

言って隣の教室には居るのに大げさな。
そう思いながら、千百合はごく普通に一人で隣に入った。

一人は別に苦じゃない。そりゃあ友達と一緒の方が良いけど、気の合わない人間と居るくらいなら一人で平気な程度には平気。

手早く席を確認して、机に貼り付けられた受験票を確認して着席する。

(開始まで40分ちょいか・・・)

寝ていようかな。流石にまずいか。
とか考えていると、隣席に人が来た気配がした。

だからといっていちいち顔を上げて隣人を確認するような性格をしていないのだが。

「あれ?」
「え?・・・・あ。」

聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはバス停で会った男子が立っていた。

「あはは!偶然だね、こんにちは。さっきぶり。」
「・・・マジか。」

こんなことあるのか。千百合はちょっと目を見開いた。

「やっぱり、立海に来てたんだね。」
「何そのやっぱりって。」
「バスの方向的に、もしかしたら一緒じゃないかな?と思ったんだ。教室まで一緒とは思わなかったけど。」
「はあー・・・というか、あんたはなんで私より来るのが遅いわけ。」
「ああ、先に手洗いに行こうと思って、寄ってたんだけど。」
「混んでたの。」
「ううん、間違われちゃって。」
「何に?」
「迷子に。」
「・・・・ぷっ、ふはははっ。マジで?」

こんな美形が、迷子に間違われるって。そんなことあるかよと思って思わず千百合は笑ってしまう。

「・・・・声をかけてきたのが、教授だったんだけど。今日が受験日だって知らなかったみたいで、小学生がこんな所まで来てどうしたんだい?って言われちゃったよ。」
「はー・・・教授?」
「大学だからね。」
「こんな日も教授ってぶらついてるもんなの。」
「分からないけど、ほら。勉学に休日はないから。」
「はー。」

そう。今日の受験会場は、立海大の大学の棟を使って行われるので、ここは普段大学生や大学教授が行き交うキャンパスなのだ。

「君は?」
「え?」
「友達と合流できた?」
「ああ、うん。教室は隣だけど。」
「ああ、そうなんだ。俺もそうだよ。友達が居るんだけど、小学校が別だから、結構遠くって。」
「へー・・・ん?」

別の教室に友達。ということは。

「私、引き留めてる?」
「ん?ああ、大丈夫だよ。別にずっと一緒に居ないと不安だとか、そういうことも無いから。」
「あ、そう。」
「君は良いの?」
「私も似たような感じ。」

そうなんだ、と言って彼はまた笑った。
本当によく笑う人間だと思う。穏やかだけど、友人とは違う。おどおどタイプではなく、常ににこにこしているタイプだ。

そしてなかなか神経が太い。
さっきから落ち着きというか、余裕を感じる。

周りには友達の近くに居ないと気が休まらないものや、不安で教科書を何度も見ているような子が沢山居るのに。彼はまるで、受験じゃなくて普通の授業をこれから受けるような様子。

「失礼します。」

女性の教師が入室してきて、受験する生徒たちは一斉にお喋りを止めた。

「後15分後にテストを開始します。5分待ちますから、その間に教科書やノートをしまってください。机の上は、筆記用具と受験票のみ。受験票は、机の右上に貼ってある名札と並べておいてください。」

ざわざわっと皆用意をし始めて、千百合も居住まいを正そうとした。
すると、となりの彼が小声で言った。

「頑張ろうね。ええと・・・」
「うん?・・・ああ。黒崎、千百合。」
「そう。俺は幸村精市って言うんだ。頑張ろうね、黒崎さん。」
「ん。」

結構話したのに、自己紹介もしてなかったっけ。
なんて受験と全然関係ない事を考えながら、千百合は受験票を並べてペンケースを出した。

しかし、名前も聞いてなかった割には。

(・・・・話しやすいな、なんか。)

注意事項が黒板に書かれるのを見ながら、千百合は思った。

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