5周年記念企画:First date


それから数ヶ月。
切原はテニスしている時以外、心ここにあらずな状態で過ごしていた。

あのデートの日。
観覧車から降りても手を繋いだままで、夢を見ているような気持ちで紀伊梨と分かれた後になって気づいたのだ。


連絡先の交換を忘れていたことを。


相手は今をときめくアイドルなので、当たり前だけど連絡取ろうとして、いきなり本人と繋がれるわけもない。
どうにかできないかとあの日行ったデートコースに行ってみたりとか、紀伊梨の出てる番組や雑誌を見たりしてみたけど、得られたのは「切原がアイドルオタクになった」という見当違いな周囲の評判だけだった。

違う。
アイドルなんてさほど興味ない。
好きになった子がアイドルだっただけだ。それだけ。

どうしようもないだるさと思うようにいかない苛立ちを抱えて、今日もテニスでくたくたになった体を引きずるようにベッドに横になる。

「はーあ・・・・」

ベッドに座って鞄を開け、買ったばっかりの今週のジャンプをなんとなく開いた。

(アニメ化決定、『W LOVE LIMITED』・・・どんな漫画だっけこれ?あああれか、恋愛ものの・・・)

全然興味ねえわ。
と思いながら特集のカラーページを読み飛ばそうとした時だった。

「・・・・・!」

飛び起きた。
ED曲担当アーティスト、ビードロズの見出しが目に飛び込んできたからだ。

10thシングル。
一昨日の0時より、アニメムービーがついたショートトレーラー公開。

切原は大急ぎでスマホを取り出し、検索をかけた。

見つけて再生すると、全然知らない主人公の男と全然知らない複数の女キャラが入れ替わり立ち替わり何か意味深な事を言って、やっと始まったED。


『Please call me, darling more more!Please tell me, where you are!』


ふえふえ泣いていた時の声に比べて、信じられないくらいの力強いボーカル。
冒頭に入るダン!ダン!ダラララララ!という強すぎるドラムの音に負けていない。

でももう声も聞けないのか、と思うと自然と眉根が寄った。
今聞いているけど、そうじゃない。
ボーカル・五十嵐紀伊梨の声じゃなくて、あの日に聞いたような声がまた聞きたいのに。

そう思った時だった。
歌詞が耳を刺したような気がした。


『Second date なら 19時にしましょ』
『次は君からお願い “デートしようよ”』


「19時!?」

部屋の壁掛け時計を見やる。
現在時刻18時47分。

「・・・・!くそお!」
「あれ?赤也・・・ちょっと!?どこいくの、もうご飯だって!」
「出てくる!」
「どこへよ!」

姉の声を思いきり無視して、大急ぎでスニーカーを引っかけて外へ飛び出た。

「はあ、はあ、はあ、は!」

歌詞では、『次は君から』と言っていた。
ということは、最初は歌詞の中の「私」からだ。あの日と同じ。

あの日、デートしようと言ったのは紀伊梨の方だったから。

とは言っても、どこで紀伊梨が突進してきたかなんてもう覚えてない。
自分はただ帰路を歩いていただけだったんだから。

(待てよ、今何時だよ!)

スマホを取り出して時計を見た。後2分しかない。

「嘘だろー−−あてっ!」
「いたあっ!」

全然前を見ていなかった切原は、角を曲がろうとしてもろに人にぶつかった。
こんなに人と正面衝突したの久しぶり。

「あててて・・・・って!こんなことしてる場合じゃねえんだよ、すみません俺急ぐ、ん、で・・・・」
「痛い〜・・・あたたたた・・・あれ?え、帽子帽子!」

吹っ飛んでしまった顔隠し用の帽子を探して、背を向けて狼狽えるその子は、間違いなく切原がずっと探していた相手だった。

「あ、あった!よしゃよしゃ、えーと、ごめんなさー−−」

せっかく被りなおした帽子は、勢いよく抱き寄せられたせいでまた落ちてしまった。

「・・・・・え?え、あえ、え、」
「デート・・・」
「へ?」
「デートしてください!」

耳元で叫ばれたのにも関わらず、紀伊梨の良い耳はばっちりお誘いを拾った。
はーい、と返事したら痛いくらい強く抱きしめられて、紀伊梨はまた破顔したのだった。



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