5周年記念企画:First date


紀伊梨の足が早いのはもうわかっていた。
だから切原は遠慮なくトップスピードで駅までダッシュし、帰宅ラッシュの電車に乗って遊園地まで行き、チケットを係員に見せて通った。

後40分で閉園です、とご丁寧に言われたのにすらイライラきた。

わかってるんだ、時間がないことくらい。

チケット売り場から観覧車まで走って15分。
並ぶのに5分。


観覧車が一周するのにー−−僅か数分。


「行ってらっしゃ〜い。」

バタン。ガチャ。

観覧車のキャストによって扉が閉められて鍵がかけられて、観覧車は夜景の中に旅立った。

デートのシチュエーションとしては最高なのかもしれない。
でも気分は最悪。

切原は紀伊梨に言いたいことが山ほどあった。
でも何から言えば良いのかわからない。自分でも自分の感情が処理しきれない。

「・・・・ふぐっ、」
「え?」
「・・・・ふええ、ふえええええええん・・・うわあああああああん!ああああああん!」
「ちょっ・・・!ちょ、ちょ、ちょっと!ちょっと待っ・・・何泣いてるんすか!って、俺か・・・いや、う、あのー−−」

切原は怒りっぽい少年だった。
だからまだ怒ってはいたが、紀伊梨が泣いているのを見た動揺が怒りを上回って、頭に上っていたはずの血が一気に下がった。

「うえ、うえ、あああああん!」
「い、いやあの、わ、わかった!わかったから!観覧車出たらそれですぐ解散にしますよ、それで良いんでしょお!?」

ぴたり。
と一瞬だけ紀伊梨は泣き止んだ。

だが、次の瞬間には人より大きいその目に、またみるみるうちに涙が溜まってきてぽろぽろぽろ・・・と零れ落ちるのだった。

「なんでまた泣いてんだよ!」
「ぎりはらぐんおごってるうう〜〜〜!」
「いや、怒ってー−−−まあ、怒ってなくはないっすけど、」
「ほらあああああ〜〜〜!ああああああん!」

「〜〜〜〜〜!しょうがないでしょお!こっちは今日一日、何にも思い通りに行かなくてストレス溜まってるんだよ!観覧車くらい一緒に乗ったって良いだろうが!」

「うああああ・・・ふ?」
「デートって名前ついてんのに、俺が今日やらされたことって何なのかわかってるんすか!?何かって言うと嫌ってる演技しろとか、抱き着くから振り払えとか、デートってそんなんじゃねーよ!ってことばっかりだったじゃないすか!」
「えう・・・・・・」
「自慢じゃねえけど、俺だってまともにデートとかした経験あるわけじゃないですよ!テニスで忙しいし時間もねえし!でも、今日やったデートが普通じゃないことくらいは流石にわかるっつの!デートだったらもっとこう、手繋いだりとかして仲良くして・・・あと、えー・・・思いつかねえけど!」
「・・・・・・」
「でも、少なくともあんな場面で解散はないでしょ!連絡先も交換してねえし!っつうか遊園地のチケットにしたって、こんなぎりぎりまでなんで隠してるんすか!」
「かっ・・・隠してないよ!紀伊梨ちゃん使うつもりだったよ!でも忘れてたんだもん!」
「こんな大事なもん忘れんなよ!」

「だって切原君とデートするの楽しかったんだもん!」

「・・・・へ?」

紀伊梨はすっかり泣き止んでいた。
代わりに俯くようになったが。

「本当だもん・・・最初はもっと早く出すつもりだったもん、でも忘れてたけど・・・楽しくて・・・」
「・・・・楽しいなら、なんであんな急に解散なんて言い出すんすか?」
「だって、切原君紀伊梨ちゃんに興味ないって言ったじゃん!だから、切原君は楽しくないと思って・・・」
「う・・・いやまあ、それは・・・」
「だから悲しくなってきちゃって・・・・私はこんなに楽しいけど、切原君は違うんだなって思ったら、早く終わりにしてあげないとって思ったんだもん・・・そ、そじたら、怒るからあ・・・!」
「ああああああ、また・・・もう怒ってないですから、取り敢えず泣くのやめて下さいよ!」
「うく・・・・」
「・・・興味ないって言ったのは言いましたけど!でもそれはもう良いっていうか・・・今は違うって言うか・・・」

デートって、何のためにするものなんだろうか。

その理由は人によっていろいろあるだろうが、月並みかつ大きな理由はと言うと、お互いの距離を縮めるためだろう。

そういう意味では今日、切原は非常にちゃんとデートしていたと言える。

最初は興味なかった。それは本当だ、嘘じゃない。
アイドルなんて、たまにみるテレビや雑誌の向こう側で笑って、ラジオから耳に届く曲を提供してくれるだけの人くらいにしか思ってない。

でも相手とデートすれば、それはもう知らないアイドルじゃない。
知ってる女の子になってしまう。


もう興味が無いなんて言えない。
可愛くないなんてもっと言えない。


向かい合わせに座っているせいで、さっきからちょくちょくぶつかっている膝頭の上に置いている右手。それを切原はそうっと上げて、ぐ、と奥歯を噛み締めた後正面にある紀伊梨の左手の上に重ねた。

「・・・・!」
「だって!だって・・・デートってこういうことするんでしょ・・・」

経験豊富な男だったら、もっとこうスマートにいろいろできるのかもしれない。
自分でもこれしきのことで怯えるなんてダサいと思う。

でもしょうがないじゃないか。

「俺、まともに女の子とデートとかしたことないっすから、よくわかんねえけど・・・」
「・・・そーなの?」
「そーなの・・・悪かったっすね、初心者で。」
「ううん。紀伊梨ちゃんもだよ。」
「・・・え?」
「・・・へへへ・・・デートしたことなかったんだー・・・」

軽い口調と裏腹に、紀伊梨の指の絡め方はすごくおずおずと大人しかった。
恥ずかしいのと、純粋にどうしたら良いのかよくわからない手つきだったけど、切原が絡め直したらちゃんと繋がった。

それから僅か70秒後には、もう地上についてしまったけど。


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