5周年記念企画:カサブランカの物憂い

季節は秋だった。
というのが、今日この日、災いと言えたのかどうか。

とにかく2人が大通りに辿り着く頃には、もうとっぷりになっていた。

「まだかなっ?」
「もうちょっとやで・・・ああ、ほら。」
「あっ!本当だ、すごいっ!」

可憐はこの日。
初めて屋外のガス灯という奴を見た。

あるのは知っていた。
でも、見る機会が今までなくて、それを知った忍足がじゃあ見に行こうかと誘ってくれたのだ。

「きれい・・・!すごいね、忍足君っ!」
「うん。」
「・・・・はっ!ご、ごめんね忍足君っ!私ったらついっ!」
「ん?」
「あの、私は見るの初めてだけどっ。忍足君は見慣れてるから、感慨も何もって感じだよね・・・あははっ。」
「・・・まあ、確かに俺はガス灯見慣れてるけど。」
「だよね、」
「でも、可憐ちゃんとガス灯見るのんは初めてやろ?」
「え?」
「綺麗やで。」
「・・・・う、ん、」

ガス灯が。
ガス灯の火の話をしてるはずだ。

どうしてガス灯を見ないで自分の方を見て言うのかと、可憐は聞き返す勇気がなかったけど。

「もうちょっと居りたいけど、そろそろ帰ろか。ガス灯点いたてことは、ほんまに暗なってくる頃やさかい。」
「あっ、そうだねっ。うん、帰ろうっ。」

今が秋じゃなかったら良かったのに、と可憐は思った。

夏だったら。
もう少し明るい時間が伸びている時期だったら、もう少し一緒に居られたのに。

「送っていくわ。家どっちやっけ。」
「ええと、来た通りから4、5本向こうで・・・っていうか、良いよ、帰れるよっ!」
「送らしたって、物騒やねんから。帰りも、明るい所選んで通ろ。」
「そ、そうっ?」

迷惑かなと言う気持ちもあるけど、可憐は嬉しい気持ちに素直に従うことにした。

それを差し引いても、普通に怖いという気持ちもあったし。
特に家の近くはガス灯なんてなく、普通に暗いから余計に。

(この辺は良いよね、ガス灯多いし…って)

「あ、あれっ?」
「・・・あかんな。」
「えっ?」
「この辺、上手い事ガス出てへんみたいやわ。」

ガス灯はある。
でも点いていない。おかげでこの辺は真っ暗だ。

「引き返そ、可憐ちゃん。あっち通ってー−−」

「・・・・・むぐっ!?」

口が塞がった。
と思ったら瞬く間に目も塞がれて、周りがうるさくなって、可憐は何もわからなくなった。


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